数あるがんの中でも、ミドル以上のビジネスパーソンが最も気にするがんは「大腸がん」ではないだろうか。大腸がんにより、毎年約5万人もの人が命を落としている。この恐ろしい大腸がんが、飲酒と深い関係があることをご存じだろうか。一昨年には赤身・加工肉による大腸がんリスクがマスコミで盛んに取り上げられたが、飲酒も大腸がんのリスクを高める要因の1つだという。そこで酒ジャーナリストの葉石かおりが、日本人の飲酒と大腸がんリスクについて論文を発表している国立国際医療研究センターの溝上哲也さんに話を聞いた。
◇ ◇ ◇
こよなく酒を愛し、日々、酒を愛飲する左党にとっても、「がん」はやはり気にせずにはいられない病気である。
何といってもがんは日本人の死因のNo.1、生涯でがんになる確率は男性63%、女性47%にも達する。そして、飲酒はがんのリスクを上げる大きな要因の1つであることは、多くの方がご存じだろう。特に、喉頭がんや食道がんのリスクが飲酒によって上がることはよく知られている。私の身近にも、ウイスキーのロックを水のごとく飲んでいたことが原因で食道がんにかかったと思われる知人がいた。
働き盛りの世代を襲う「大腸がん」

さて、数あるがんの中でも、ミドル以上のビジネスパーソンの多くが気にするがんというと「大腸がん」ではないだろうか。国立がん研究センターが2016年8月に発表したデータによると、がんの部位ごとの罹患数では、大腸がんは男女ともに2位、男女合わせると大腸がんが最多となっている。さらには女性のがん死亡原因の1位になっている。大腸がんは50歳を過ぎたころ、そう「働き盛り」ともいえる年代から発症率が高くなるという。
ううむ、アラフィフの私としても、黙って見過ごせない。そういえば自分の周囲の左党たちからも、「人間ドックで大腸にポリープが見つかった」だの、「大腸がんの初期で手術した」という話を聞く機会が増えたように思う。昨今は、著名人でも大腸がんを患った方や、闘病の末、惜しくも大腸がんが原因で他界された方も少なくない。
大腸がんというと、私は肉や脂質を多く摂取する食生活が原因だとばかり思っていた。2015年には、「赤身肉や加工肉の摂取が大腸がんのリスクを上げる」と発表され、マスコミなどで広く取り上げられたのは記憶に新しい。しかし、どうやらそれだけではないらしい。
この大腸がん、飲酒と深い関係があるとも聞くが、これは本当なのだろうか。そして、なぜ飲酒が大腸がんに影響するのだろうか。詳しく知りたいところだ。そこで今回は、国立国際医療研究センター臨床研究センター疫学・予防研究部部長の溝上哲也さんに大腸がんとアルコールの関係について話を伺った。
今や大腸がんによる死亡者数は約5万人に!
まずは大腸がんの現状について溝上さんに聞いてみた。
溝上さんは、「かつて大腸がんは欧米に多いと言われていましたが、近年は日本でも大きな問題となっています。日本における大腸がんによる死亡者数は、最近では約5万人に達しています」と話す。
ううむ、やはりそうか。これは、食生活の欧米化が主たる原因なのだろうか?
「ご指摘のように、生活習慣の変化が影響していると考えられます。腸の長い日本人が欧米型の食事、つまり赤身肉や脂質の多い食事をすることが腸に悪影響を及ぼすといわれていました。一昨年、赤身肉・加工肉のリスクが指摘されて、話題になったのはご存じでしょう。しかし、大腸がんのリスクを上げるのはそれだけではありません。意外と知られていないのですが、飲酒も大腸がんのリスクを高める重要な要因の1つです」と溝上さんは話す。
飲酒が大腸がんのリスクを高めるのは「確実」
前回「飲み続けたいならまず禁煙 がんのリスクたばこが助長」でも紹介したように、国立がん研究センターでは、日本人のがんと生活習慣との因果関係の評価を行っている。国内外の最新の研究結果を基に、全体および個々の部位のがんについてリスク評価を「がんのリスク・予防要因 評価一覧」としてホームページで公開している。「データ不十分」⇒「可能性あり」⇒「ほぼ確実」⇒「確実」の順に科学的根拠としての信頼性が高くなる。