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国立がん研究センターの「科学的根拠に基づく発がん性・がん予防効果の評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究」の「エビデンスの評価」の一部。(国立がん研究センターのホームページより一部抜粋)

この評価によると、大腸がんのリスクを高める要因の中で「確実」になっている唯一の要因が飲酒だ。次に信頼性が高いのが「肥満」で「ほぼ確実」となっている。

では、アルコールの摂取は大腸がんのリスクをどのくらい上げるのだろうか。

溝上さんたちの研究グループは、5つのコホート研究のデータを合わせた合計約20万人を対象にしたデータを解析して、日本人の飲酒と大腸がんのリスクを評価、2008年に専門誌に発表している(Am J Epidemiol. 2008;167:1397-1406.)。それによると、「男女ともに過度の飲酒で大腸全体、そして結腸、直腸がんのリスクが上がるという結果になりました。特に男性の場合は顕著に現れています」(溝上さん)

お酒を飲む人の大腸がんのリスクは、アルコール摂取量が多くなるほど高くなった(アルコールをまったく飲まないグループを1としたときの相対リスク)。1日のアルコール摂取量が15g増えるごとに、大腸がんのリスクが約10%増えると推測される。(Am J Epidemiol. 2008;167:1397-1406.)

溝上さんの解析結果を見ると、男性では、純アルコールに換算して23~45.9g/日、46~68.9g/日、69~91.9g/日、92g以上/日のグループでまったく飲まないグループよりもそれぞれ1.4倍、2.0倍、2.2倍、3.0倍と、アルコールの量に比例して、リスクが確実に高くなっていることが分かる。女性の場合も、男性ほど顕著ではないが、アルコール摂取量が23g以上/日のグループは、飲まないグループよりリスクが1.6倍に高まるという結果になっている。

大腸がんの中でも、肛門近くの直腸にできる「直腸がん」と、その上の急カーブしたS状結腸にできる「S状結腸がん」が全体の7割を占める

正直なところ、飲酒の影響がここまではっきり出るとは思わなかった。これは、大腸がんを気にする左党にとっては、かなり厳しいデータではないか。純アルコール23gは日本酒にして約1合。左党からすれば大した量ではない。

なお、大腸は大きく、肛門近くの直腸と、その上の急カーブしている部分(S状結腸)より上の結腸に分けられるが、そのいずれも飲酒によりがんのリスクが高くなる傾向が見られた。

なぜ飲酒が大腸がんを引き起こすのか?

溝上さんは、日本人と欧米人に分けて、飲酒量と大腸がんの関係性を分析している。これによると、日本人は明らかに酒量が増えるほど極端に右肩上がりになるが、欧米人は実に緩やかである。

日本人と欧米人の飲酒者を対象に、アルコール摂取量と大腸がんのリスクの関係を比較した。(Am J Epidemiol. 2008;167:1397-1406.)

これは、やはり日本人はアルコール耐性が弱いことが原因なのだろうか?

「ご存じのように、日本人は人種的に見てもアルコール耐性が弱い方が多くいます。アルコール耐性の強い欧米人は、1日2合未満の飲酒では大腸がんのリスクが上昇していないのに対し、日本人は1.4~1.8倍もリスクが上がっています」(溝上さん)。「人種による違い」と割り切るしかないのだが……、日本人としてはとても残念なデータである。

ではいったい、どんなメカニズムによって大腸がんが引き起こされてしまうのだろうか?

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葉酸は積極的に摂取するといい