冬季不眠とは何か 体内時計の「南極物語」

日経ナショナル ジオグラフィック社

2017/9/26

極夜が2カ月間続くノルウェーのトロムソ(北緯69度)の軍事基地の職員を対象にした調査でも、体内時計が遅れるものの睡眠パターンは夏季と変わらない時差ぼけ状態が観察されている。いずこも隊員はつらいよ、といったところである。

越冬隊員らと異なる睡眠パターンを呈したのは、やはり南極で越冬した環境保護団体グリーンピースのメンバー4人である。彼らは、22歳から31歳の若者で、極夜の間、睡眠時間帯も、さまざまなホルモンリズムもすべて毎日30分~1時間ほど遅れ続けた。毎日1時間遅れる人は12日で昼夜逆転し、24日で元に戻る計算になる。このような現象はフリーランと呼ばれ、暗い洞窟内で過ごしたり、全盲の人、視神経の働きが弱い生後間もない赤ちゃん(「妊婦の睡眠・生活リズム 胎児の成長に大切な理由」)など、光による体内時計の調整ができない状況で生じる。

ナゼ、彼らはフリーランになったのか?

彼らはもちろん腕時計は持っていたし、外部との連絡もとっていた。また、500~1000ルクスの照明の下で生活していたようだが、これは一般家庭のリビングの明るさである。健康な人であれば、この程度の強さの光があれば体内時計は24時間周期に維持される。だとすれば、体内時計は遅れるにしてもそのズレは他の越冬隊員とそう変わらず、4時間遅れ程度で固定したはずである。ナゼ、彼らはフリーラン状態になったのか?

どうやら、越冬隊員のように「気合いを入れて時刻通りに寝起きする」つもりがなかったためと思われる。彼らは海洋生物学者、電気技師、医師など理系の職人肌で、時のたつのも忘れて日々自分の関心のあるテーマに打ち込んでいたのではなかろうか。

人は光のみにて同調するに非ず。

人の睡眠や生体リズムは確かに光の助けを借りて24時間周期の昼夜サイクルに同調(時刻調整)する。しかし、それは毎日定時に起きて同じ時刻に光を浴びることで初めて達成される。好きな時間帯に寝起きができるならば、ややもすれば寝坊をし、光を浴びるタイミングも遅れ、結果的に体内時計は遅れがちになる。夏休みの大学生を見れば一目瞭然である。

それでも大学生は明るい光に囲まれ、日中に友人づきあいもあるため、ある程度のところでズレは止まる。しかし、スケジュールの自由度が高く、1日中暗く、孤立した環境下ではどうだろうか。多くの人が今日よりも翌日は体内時計がやや遅れ、翌々日はさらに遅れていくだろう。

暗い極地であっても、体内時計を大きく狂わせないためには光だけではなくスケジュールを守る気持ちも大事のようだ。これは自宅に引きこもりがちの人にも言えることである。タロとジロも極夜にはフリーランしていたのだろうか。いや生きるのに必死で、安穏と寝坊などしていられなかっただろう。

三島和夫
1963年、秋田県生まれ。医学博士。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部部長。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事、日本生物学的精神医学会評議員、JAXAの宇宙医学研究シナリオワーキンググループ委員なども務めている。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、日経BP社)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。

(日経ナショナル ジオグラフィック社)

[Webナショジオ 2017年9月7日付の記事を再構成]

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