冬季不眠とは何か 体内時計の「南極物語」

日経ナショナル ジオグラフィック社

冬季不眠に悩む人も、夏季に比較して体内時計が遅れた分だけ就床や起床時刻を遅らせれば(緯度や個人差も考慮して1~3時間ほど遅らせれば!)、問題なく寝起きできるようになる。ただし学校や会社が許せばだが……。

南極や北極ではさらに極夜や白夜が長い。約66度より高緯度で発生し(これより高緯度の地域を南極圏および北極圏という)、昭和基地(南緯69度)で45日間、南極点と北極点ではほぼ半年も続く。このような長期間にわたって極夜が続くと体内時計への影響も甚大である。

北海道大学の研究チームが、南極の「ドームふじ基地」で越冬した第37次南極観測隊員の睡眠や生体リズムの測定を行った結果を発表している。ドームふじ基地の所在地は南緯77度というから、もうほとんど南極点のすぐそばである。この緯度だと約4カ月間(第37次では1997年4月26日から8月16日までの114日間)にわたって極夜を迎える。

ちなみに、『南極料理人』として映画化された西村淳さんのエッセイ『面白南極料理人』は、第38次越冬隊の調理担当としてドームふじ基地で過ごした日々を面白おかしく書いたものである。

時差ぼけ状態が延々と続く

さて、研究チームは越冬隊員の協力を得て1年間にわたり、各季節、計8回、体内時計時刻を知ることのできるホルモンの測定を行った。その結果、隊員の体内時計時刻は夏の白夜期にくらべて極夜期では約4時間(!)遅れていた。これでも予想よりも遅れが小さかったという。厳寒のため、隊員は暗い基地外に出ることなくほとんどの時間を基地内で過ごしたようだが、内部の照明がとても明るく、体内時計の調整効果をある程度発揮したためだと考えられている。

最も明るい場所では9000ルクス(ルクスは照度の単位)ほどもあり、これは晴天日の窓際ほどの明るさで体内時計を強力に調整することができる。光は午前中に浴びれば体内時計が効率よく早まるので、そのような明るい場所で朝食後を過ごし、逆に体内時計が遅れる夕方以降は暗めの部屋で過ごすなど人工照明を上手く使えば、極夜でも体内時計の遅れを最小限に留めることができるだろう。

一方、越冬隊員の睡眠パターンはどうであったかというと、夏も冬も同じ勤務スケジュールを保っていたため、就床起床時刻にはほとんど季節間差はなかったという。これは良いことなのか?

見かけ上は規律正しい生活に見えても、体はシンドイ。なぜなら、体内時計よりも4時間早く就床、起床しなくてはならないからで、これは時刻だけをみれば時差+5時間(実際には-19時間)のハワイ・ホノルルに渡航した当日の時差ぼけ状態を続けているのに近い状態である。このため越冬隊員もやはり寝つきが悪いなど「冬季不眠」と同じ症状がみられた。