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座布団1枚に5分の押し問答 ゲリラ落語の困ったオチ

立川吉笑

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NIKKEI STYLE

毎週日曜更新、談笑一門でのまくら投げ。今週のお題は「困った話」。ということで、今週も次の師匠まで無事にまくらを届けたい。

僕のような若手落語家にとって、仕事のほとんどは都内近郊での落語会だ。月に20日ほど大小様々な落語会に出演させていただいていて、その8~9割が都内近郊での落語会、残りが旅公演となる。

落語会以外の仕事も少しだけあって、一つはこの連載がそうであるように書き物のお仕事。以前、『現在落語論』という単行本を刊行したことがあるおかげか、他の若手落語家に比べて、わりと文章を書く仕事はコンスタントにいただけている気がする。この連載の他にも、『水道橋博士のメルマ旬報』というメールマガジンと、『中央公論』という雑誌で、それぞれ月1回文章を書かせていただいている。

「落語の創作・稽古」「落語の本番」「書き物」が普段やるべき作業で、そこに「読書」「飲酒」「ネット閲覧」「散歩」を足せば、それが僕の生活のほとんどとなる。

そんな日々の中、たまにやってきて僕を舞い上がらせるのは「テレビ関係の仕事」。やっぱりテレビに呼ばれるとうれしいものだ。仲間と飲んでいるときには「俺たちは落語家だから、落語がやれたらそれだけでいいんだ。後は自分の落語を追い求めるだけだ」などと言っているし、そういう気持ちも確かにあるけど、それでもテレビに呼ばれるとうれしい。そういうものだ。

そして、テレビに呼ばれたら万難を排して駆けつける。そういうものだ。

今回はそんな、珍しく「テレビ関係」の仕事の話。

ご縁があって中京テレビが運営する『Chuun(チューン)』という動画配信サイトの『笑ってOK!』という番組に出演させていただけることになった。

打ち合わせを終えて、僕は本業ともいえる「短く編集した落語」や「なぞかけ企画」以外に、スタッフさんから提案された「ゲリラ落語」という映像作品を作ることになった。

ゲリラ落語。

聞きなれない言葉に、

「それは何ですか?」

と咄嗟(とっさ)に質問した。すると、スタッフさんからは

「ゲリラでやる落語です」

と返ってきた。

「ゲリラでやる落語」でゲリラ落語。確かにそうかもしれないけど、情報量が一切増えていないし、何にも解決していない。

「えっ、どういうことですか?」

と、再び確認した。

聞けば、「ゲリラ落語」とは、街の中でただただ落語をやることだった。

街ゆく人々を落語会のお客様に見立てて、僕は街中でただただ落語をやる。それを少し離れたところから撮影することで、違和感みたいなものを1分くらいの映像に閉じ込めたいらしい。

撮影当日、呼ばれたのは東京・渋谷。

ゲリラ感を誇張するには通行人が多い方がいいとは思ったけど、まさか渋谷で撮影することになるとは。用意していただいた控室で着物に着替え、渋谷の街へ出る。

着物姿というだけですでにチラチラ見られているというのに、僕はこれからこんな人通りの多い場所で落語をやらなければいけないのだ。

「では、最初の撮影はここでいきましょう!」

そうディレクターさんに言われ、嫌な予感は確信に変わった。

目の前に広がるのは渋谷駅前、スクランブル交差点だった。

信号が青になるたびに四方八方から押し寄せる人・人・人。

そんなスクランブル交差点の前で落語をやることに。

企画の演出としては、通行人役のカメラマンが街を歩いていると、どこからともなく出囃子(でばやし)が聞こえてくることに気付く。

(どこから鳴ってるんだろう?何の音だろう?)

不思議に思いながらキョロキョロ辺りを見回すカメラマン。

するとそこには大きな座布団が。

(座布団? 何だあれ?)

と、そこに着物姿の男が現れ、座り、

「ようこそご来場いただきましてありがとうございます! 立川吉笑でございまして、一席お付き合いのほどお願い申し上げます」

と落語が始まる、というもの。

 信号が青に変わるのがスタートの合図。

カメラマンは出囃子が鳴っている設定で、撮影していることがバレにくい小さなカメラを持ちながらキョロキョロ辺りを見回す。

同時に大きな座布団を持ったAD(アシスタント・ディレクター)さんは全力疾走でスクランブル交差点の真ん中に座布団を置き、すぐさま人混みに紛れて気配を消す。

カメラマンがスクランブル交差点の真ん中にある座布団を発見する。

そこに信号の向こうから着物姿の僕がゆっくり近づいてきて、座布団に座り落語を始める。

僕は信号が点滅するまでひたすら落語をしゃべり、信号が点滅し始めたら、座布団を持ってダッシュで向こう側まで走る。

まさしくゲリラ落語!

この企画がキツいところは、カメラマンが遠くにいて、しかも持っているカメラが小さいこと。近くに大きなカメラがあれば交差点を渡る方も「何かの撮影をしているんだろうなぁ」と分かってくださるだろうけど、辺りを見てもどこにもカメラはないわけで、だとすると、目の前のこいつ(=僕)はガチで「ヤバいやつ」になる。

冷ややかな目線に心が折れかけながらも、指定される場所でゲリラ落語をやり続けた。

エレベーターのドアの前。

駅のホーム。

職業安定所の入り口付近。

休憩中に嫌な予感がして、「渋谷 落語」とツイッターで検索したら

「なんか変なおっさんが渋谷の道で落語やっててうざい」

「落語家? なんか気持ち悪い人が渋谷にいてウケる」

みたいなコメントが何件か挙げられていて、悲しくなった。

これも仕事だから、と一通りのゲリラ落語を終えて最後のスポットである公園へ。

撮影の段取りはこれまでと同じ。

ディレクターが「本番5秒前、4、3……」とカウントダウンする。

それに合わせて、カメラマンはどこかから出囃子が鳴っている設定で、辺りをキョロキョロする。

ADさんはカメラに映りこまないようにダッシュして、所定の位置に座布団を置く。

ADさんが座布団を置き終わったのを確認したディレクターさんが、僕にゴーサインを出す。

僕はゆっくり座布団に向かい、座り、カットの声がかかるまでひたすら落語をしゃべるだけだ。

ディレクターさんからのゴーサインを確認した僕は、ゆっくりと歩き始めた。

(精神的にかなりタフな撮影だったけど、ようやくこれで終わりだなぁ)

よし、最後だから精いっぱい頑張ろうと前を見て驚いた。

ホームレスのおっちゃんが座布団を持って、どこかへ行こうとしていたのだ。

「カット、カット!!」

ディレクターさんから声がかかり、撮影は一時中断となった。

その座布団は僕の自前の座布団で、これからも使うものだから、慌てておっちゃんのそばまで駆け寄り「返してほしい」とお願いした。

「捨ててあったから」

「捨ててません。置いてたんです」

「いや、あれは捨ててあった」

「違います。置いてました」

「どこからどう見ても捨ててあった」

という押し問答を5分ほど繰り返し、最後は500円払って何とか、おっちゃんから座布団を譲ってもらうことができた。

(次回9月17日は立川談笑さんの予定です)

立川吉笑
 本名、人羅真樹(ひとら・まさき)。1984年6月27日生まれ、京都市出身。180cm76kg。京都教育大学教育学部数学科教育専攻中退。2010年11月、立川談笑に入門。12年04月、二ツ目に昇進。出囃子は東京節(パイのパイのパイ)。立川談笑一門会やユーロライブ(東京・渋谷)での落語会のほか、『デザインあ』(NHKEテレ)のコーナー「たぬき師匠」でレギュラーを務めたり、水道橋博士のメルマ旬報で「立川吉笑の『現在落語論』」を連載したり、多彩な才能を発揮する。

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