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ビジネス街の書店をめぐりながら、その時々のその街の売れ筋本をウオッチしていくシリーズ。今回は定点観測している紀伊国屋書店大手町ビル店を訪れた。8月末のビジネス書コーナーをにぎわせるのは、毎年この時期に刊行される東洋経済新報社と日本経済新聞出版社の業界研究本だ。今年も2018年版が店頭に並び、ともにベストセラー上位を争う。その分影が薄くなる普通のビジネス書の中で、目ざとい読者の注目を浴びていたのは、コンサルティングファームの社長が自社の「働き方改革」の軌跡を自ら振り返ってみせた本だった。

「長時間労働が当たり前」を改革

その本は江川昌史『アクセンチュア流生産性を高める「働き方改革」』(日本実業出版社)。書名にも明らかな通り、著者はアクセンチュアの社長だ。同社が15年1月から始めた働き方改革「プロジェクト・プライド」の発端から現在に至る軌跡を丁寧にたどった本だ。江川氏は副社長としてこの取り組みを立ち上げ、その年の9月に社長に就任した。ハードワーク、長時間労働が当たり前だったコンサルティングファームがどのようにその企業風土を変えていったかが、プロジェクトリーダー本人の言葉と、コンサルタントらしいフレームワークで語られ、他社でも参考にしやすい「働き方改革」本になっている。

「アクセンチュアさん、採用関係では、ものすごく評判悪いですよ」。年末のあいさつ回りの折に、長い付き合いの人材紹介会社の人からこう言われたというシーンからこの本は始まる。14年暮れのことだった。ここから同社の「働き方改革」がスタートする。長時間労働は当たり前、人にすすめられない会社では早晩未来はない。そんな強烈な危機感が動機だった。本はほぼ時系列を追う形で、5章構成で展開する。

意識と制度の両方に切り込む

ポイントになるのは、働き方改革を単純な長時間労働解消の技術論では終わらせなかった点だ。「世の中から認められ、働きやすく、フェアな会社へ」というのが目指す方向で、そうした方向へ個々の社員が自発的に動いていく企業風土改革に取り組んだ。トップのリーダーシップの重要性、幹部層の巻き込み方、改革の進展をチェックする仕組みなど、様々なプロセスの要素一つ一つも参考になるだろう。残業を減らすために評価制度を変えたり、給与制度も変えるなど、意識と制度の両面から改革を肉付けしていくプロセスにも1章を割いて触れていて、実務的な側面からも示唆に富む。

「店頭に並んだのは8月31日。まだ4日しかたっていないが、ほぼ毎日売れている」とビジネス書担当の西山崇之さん。「働き方改革の本は少しずつ増えてきたが、そのものずばりのタイトルをつけたものはまだわずか。注目を集めるのではないか」と話す。ランキング上位にはまだ入っていないが、2カ所の平台に並べてこれからの伸びに期待がかかる。

業界研究本が上位に

それでは、先週のベスト5を見ていこう。

(1)本当はすごい日本人深谷隆司著(幻冬舎)
(2)君は決して一人ではない!奥島孝康著(財界研究所)
(3)会社四季報業界地図 2018年版東洋経済新報社編(東洋経済新報社)
(4)9プリンシプルズ伊藤穣一、ジェフ・ハウ著(早川書房)
(5)日経業界地図 2018年版日本経済新聞社編(日本経済新聞出版社)

(紀伊国屋書店大手町ビル店、2017年8月28日~9月3日)

1位と2位はまとめ買いの注文が入ってのランクイン。3位と5位に冒頭に触れた2つの業界研究本が入る。4位は8月に同書店を訪れたときに紹介した(「AI時代の行動原理とは MITメディアラボ所長の本」)。そのときは7位だったが、それから1カ月4位へと上がった。新書では16年7月刊の井上智洋『人工知能と経済の未来』(文春新書)が今なおベスト3に入っており、人工知能(AI)やテクノロジーの未来図に対する高い関心が続いている。

(水柿武志)

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