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ぼくらのリアル相続

独身の兄の会社 万一のとき、弟は引き継ぐべきか? 税理士 内藤 克

2017/9/8

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「内藤先生、父の相続ではお世話になりました。兄が父の会社を継いだ当時は大変でしたが、ようやく軌道に乗り始めて安心しているところです」
「良かったじゃないですか。支店も出されたようですね」
「一時は兄の会社を手伝おうと思ったこともありましたが」
「兄弟で経営するとうまくいかなくなる例もありましすね」
「でもこの間、兄から『俺に万が一のことがあったら会社を頼むぞ』と言われたんですよ」
「お兄さんは独身で、ご両親も他界されていますからAさんが相続人ですものね」
「そうなんです! もうそろそろ考えなきゃいけない年なんですよね、兄も私も」

 オーナー経営者にとって、後継者問題は最も重要な課題です。50歳を過ぎたころから「いつまでも自分は若くないし、この先どうすればいいんだろう。早く後継者を見つけなければいけないなあ」と思い始めます。しかしこの問題は経営者だけでなく、経営者の相続人にとってはもっと深刻な問題とも言えます。

 冒頭のケースのように親族後継者がいない場合は、相続となると「会社の存続をどうするか」と「財産の相続をどうするか」の2つの問題が同時に発生します。後継者が決まっていない場合は従業員も取引先も「弟さん、何とかしてください」となるのが普通です。そうなると「いやいや、兄は実家を継いでこれまで良い思いをし、私は何ももらわずに東京でサラリーマンをしてきました。だから関係ないです」では済まされないのです。

■会社の経理担当とは会っておくこと

 相続問題が片付くまでの間も会社や取引先は待ってくれません。社長に相続が発生しても会社の業務は日々動き続けています。

 社長であるお兄さんに相続が発生すると、会社の内容を全く理解していない弟さんに対してでも「従業員のボーナス、とりあえずいつも通りでいいですか?」「銀行の借り換えの件、決裁してもいいですか?」「取引先が心配して面談を求めていますが」など、いろんな質問が浴びせられます。このようなときに「いつも通りというが、ボーナスの支給基準は?」「会社の資金繰りの状態は? メインバンクとの関係や、提示されている条件はどうなっている?」「取引先別の損益を見せて」などと正しく指示できる人は、ご自身が経営者である場合以外ないでしょう。

 しかし経営を知らないサラリーマンでも、現実にこういった事態に直面することになる可能性はあるのです。そんなとき、社長である兄と従業員の関係がギスギスしていたら協力を得られずに大変なことになります。そのときになって「初めまして、社長の弟です」「経理の〇〇です」などと挨拶しているようでは、スピーディーにことは進みません。今からでも会社の経理担当者と人間関係を構築しておいた方がいいでしょう。

■税理士も忘れずに

 サラリーマンにとって、税理士とは身近な存在ではないかもしれません。住宅ローン控除や医療費控除などの確定申告は国税庁のウェブサイト経由でもできますし、相続や自分で事業を始める場合を除けば、世話になることも少ないといえます。しかし法人となると話は別。税理士は会社のナンバー2や経理担当と並んで、事業承継に重要な存在となります。さまざまな課題も「頼りになる税理士」であれば一緒に解決してくれるはずですし、その後もしばらく寄り添ってくれるでしょう。

 とはいえ人間関係が希薄になっている昨今、「税理士と社長の距離」も様々です。私のところに「税理士を代えたい」と相談にこられたお客様に税理士への不満を聞くと、「経理や税務指導だけで経営のアドバイスをくれない」という内容が圧倒的に多いと感じます。

 そう言われた税理士本人たちに聞けば「いや、もともと税務経理だけをお手伝いしているのであって、経営全般をサポートする契約にはなっていませんから」と釈明するのでしょうが、相談にみえる社長さんたちに聞くと「多少顧問料が増えてもしっかりしたアドバイスがほしい」という声が多いのです。もしお兄さんから「うちの税理士はなぁ……」とため息まじりの言葉がでたら「お兄さん、一度でいいからその税理士さんに会わせて」と言ってみましょう。人間関係づくりに加え、今どこまでアドバイスしてもらっているのかも聞いておくのがいいと思います。

内藤克
 税理士法人アーク&パートナーズ 代表・税理士。1962年生まれ、新潟県長岡市出身。97年に銀座で税理士・司法書士・社会保険労務士による共同事務所を開業。2010年に税理士法人アーク&パートナーズを設立。弁護士ら専門家と同族会社の事業承継を中心にコンサルティングを行っている。日本とハワイの税法に精通し、ハワイ税務のコンサルティングも行う。趣味はロックギター演奏。

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