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浅野忠信 台本が面白くなかったら「よし、やろう!」

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NIKKEI STYLE

20代の頃にミニシアターブームを象徴する存在となり、30代はハリウッドなどの海外作品でも活躍。43歳の今年は、民放連ドラに出演して注目を集めた浅野忠信。日本を代表する「映画俳優」の歩みと、現在の境地とは。

浅野はこれまで映画をメインに活躍し、国際映画祭での受賞も多数。近年では、2014年の主演作『私の男』(熊切和嘉監督)でモスクワ国際映画祭の最優秀男優賞を受賞。15年は『岸辺の旅』(黒沢清監督)、16年は『淵に立つ』(深田晃司監督)で主演作が2年連続でカンヌ受賞して注目された。

「映画俳優」のイメージが強い浅野だが、デビューはテレビドラマだ。14歳の時、事務所の社長でもある父親の勧めで『3年B組 金八先生』(88年)に出演した。

「『金八先生』の後、映画に出たり、ドラマに出たりもしてました。でもバンドもやっていたので、『できればバンドをやりたい』と父親に言ったんです。そしたら、『俳優をやれ』と。それで『映画だけだったら』と言ったのが、映画を中心に出演するようになったきっかけです。映画の現場は本当に変わった、面白い人たちが集まっていたし、いい大人が朝まで『ああでもない、こうでもない』ともの作りをしている場は、妙に居心地が良かったんです。

90年代になると、単館系のインディーズ映画がはやって。10代の終わりに出会った岩井俊二監督がブレイクしたり、青山真治監督から初主演映画『HELPLESS』(96年)の話をいただいたり。僕も結婚して『もっと仕事しなきゃ』という時で、その流れに乗っかれたことはラッキーでした」

30代に入ると、山田洋次、木村大作といった大御所のメジャー映画にも出演。同時に海外作品でも活躍を見せる。特にチンギス・ハーン役で主演した『MONGOL』(07年/セルゲイ・ボドロフ監督)は、米アカデミー賞外国語作品賞にノミネートされて脚光を浴びた。さらに11年には、『マイティ・ソー』でハリウッド進出を果たす。

「20代の終わり頃、それまでの自分のやり方にどうにも飽きてしまって、30代は、自分が嫌悪していたオーバーな演技や、日本のメジャー作品にもチャレンジしました。そのタイミングでちょうどミニシアターが減ったりしたので、僕が切り替わってなかったら、時代に取り残されていたかもしれません。

そういうなかで、あるハリウッド大作のオーディションも受けたんです。完成した作品を見て、落ちたことには諦めがついたんですけど、オーディションに生意気な態度で臨んだ自分が気に入らなくて……。海外作品にもきちんと向き合おうと思った時にいただいたのが、『MONGOL』の話でした。

『MONGOL』が全米公開された後、あるプロデューサーの方が『もしアメリカでやりたいなら、協力する』とエージェントを紹介してくれて。そこから『マイティ・ソー』や『バトルシップ』(12年)が決まっていったんです」

テレビドラマは映画への前向きな一歩

43歳の今年、変化を感じさせたのがテレビドラマへの出演。1月期の『A LIFE~愛しき人~』で、ドラマ界をけん引してきた1歳年上の木村拓哉と渡り合った。

「『MONGOL』の撮影をしている時に、何もない砂漠の町で、小さなネットカフェを見つけたんです。入ると、子どもたちが違法ダウンロードの映画を食い入るように見て、楽しんでいた。それを見た時に、映画って素晴らしいなと思うと同時に、映画はもうアウトプットの問題じゃないんだなと思ったんです。観客と豊かにコミュニケーションを取れる作品なら、映画館だけでなく、テレビでも、ネットカフェでもいいはずだと。

だから『A LIFE』は、映画への前向きな一歩として引き受けたんです。真逆といえる木村さんと、どこまで僕が対峙できるかという興味もありました。というか、木村さんとじゃないと、僕は勝負のしがいがないわけですよ。結果、木村さんからたくさんのことを得られましたし、今後は、テレビドラマもやっていくつもりです」

「海外」「テレビドラマ」などを経た浅野の最新主演作が、公開中の『幼な子われらに生まれ』だ。演じるのは、子連れの女性と再婚した41歳の会社員・田中信。思春期の長女に嫌悪感を露わにされながらも、耐えに耐えて、良い父親になろうとする。

「一見、信が新しい家族に振り回されながら、良いお父さんになろうと頑張っている話に見えるじゃないですか? でも脚本を何度も読んで思ったのは、信は本当は図太くて、タチの悪い傲慢なヤツじゃないかということ。変わろうと振る舞っているけど、実は周りが、何も変わらない男に振り回されてる。そう考えて脚本を読むと、めちゃくちゃ面白くなるんです(笑)。だから信は耐えてるわけじゃない。役を演じて辛くなったとか、そういうことは全然なかったです。

キツかったのは、現場が役者を主体に回っていなかったこと。例えばコップを机に置く時に、役者は好きな場所に置きたいわけです。でも今の日本映画は、俳優がカメラや照明に合わせることを求められる。感情が動いて、『今、撮ってほしいのに』という時に、柔軟に撮ってもらえないことも多い。

もっとピュアに、その瞬間、瞬間で『面白い』『面白くない』を考えて作品づくりをした方がいいと思うんですよ。『普通はこういうフレームで撮るから』とか、そんなことはどうだっていい。日本映画が何かヘンなルールに縛られてるんだったら、海外と比べるととってもつまんないよ、と思います」

僕を呼ぶヤツは正しい

日本映画の現場は面白くない?と聞くと「面白くないですね。はっきり言って」と即答する。そんな日本映画に、なぜ出るのか?

「僕は面白いからですよ。僕は面白いから『僕が面白くする!』っていう。だから僕が参加している作品は絶対に面白いし、僕を呼ぶヤツは正しい、と思ってます。

40代になって変わったのは、自分が見たいものに対して、わがままを言うようになったこと。今回の現場でも『もうヤダ』『帰りたい』とよく取り乱してました。完成した映画は面白かったので、後で監督に謝りましたけど(笑)。あと、若い頃は面白くないことはやりたくなかったけど、今は面白くないこともやりたい。なぜなら『どうしたら面白くなるか』を考えたいから。だから台本をもらって、面白くなかったら、『面白くない。よし、やろう!』と思うんです(笑)」

(ライター 泊貴洋)

[日経エンタテインメント! 2017年9月号の記事を再構成]

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