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カリスマの直言

つみたてNISA アクティブが果たす役割(渋沢健) コモンズ投信会長

2017/9/11

「つみたてNISAによって、日本でも長期投資が普及するよう大いに期待したい」

 金融庁は8月末、2018年1月から始まる積み立て型の少額投資非課税制度「つみたてNISA」の対象となる投資信託が120本になる見込みと発表した。これを受け、各金融機関はつみたてNISAの口座開設の受け付けを10月から開始する。日本でも長期の積み立て投資が普及するよう、大いに期待したい。

 つみたてNISAは年間40万円までの投資で配当や売却益が20年間非課税になる。投信のタイプで異なるが金融庁が示した主な要件は、販売手数料がゼロ、信託報酬を1.5%以下(日本株のアクティブ投信の場合は1.0%以下)に抑えるといった内容だ。条件が厳しく、3月末に要件を発表した時点では約6000本ある公募投信のうち50本ぐらいしか対象にならないとの見方があった。

■つみたてNISA、アクティブ型は少数

 運用業界では当初「もうけが少なく、商売にならない」といった不満があった。しかし、顧客である投資家の高齢化が進む中、若い世代の取り込みは急務であることから、低コストの新商品を出したり、手数料を引き下げたりして対応。条件に合うような商品を増やした。

 とはいえ、低コストを前面に打ち出しているだけに投信の中身を見ると、ほとんどがパッシブ運用のインデックス型ファンドとなった。日本株のアクティブ型ファンドは大手運用会社のラインアップには見当たらず、弊社コモンズ投信、レオス・キャピタルワークス、鎌倉投信という独立系運用会社など一部に限られたようだ。

8月初旬に投資先企業、シスメックスの基幹工場である「アイ スクエア」(兵庫県加古川市)を見学した。将来はお医者さんになりたいという子供の夢を応援したい

 日本株アクティブ型ファンドに独立系運用会社が目立つ理由は明白だ。日本全国の一般個人に良質な長期投資を届けるため、独自の運用哲学に基づいたアクティブ型ファンドの積み立て投資を推奨してきたからだ。長期投資では手数料などのコストが運用成績に大きく影響する。各社は低コストを追求するため、販売会社を介さない「直販」投信を取り扱っており、同投信の販売手数料はゼロである。信託報酬も1%程度と低く設定している。つみたてNISAに対応して、弊社の場合、信託報酬は9月19日から1.15%(税抜き)を0.98%へと1%以下に引き下げる。

 一方、大手金融機関の系列など既存の運用会社はアクティブ型ファンドの手数料の引き下げには及び腰だ。証券会社や銀行など販売会社の反対が根強いためだ。販売会社にとって良質とは売れ筋のファンドのことを指す。運用実績より、販売手数料の獲得に重きを置いているからである。

■長期投資の魅力が理解される時代に

 売れ筋の投信が次々と設定され、少々利益が出たら次の新しいファンドへの乗り換えを推奨して販売手数料を稼ぐ。これが業界の日常であり、そのような状況で長期投資の良質な文化が日本社会に根付くわけはなかった。

 08年のリーマン・ショック前後、日本株市場が氷河期に突入したタイミングに独立系各社のファンドは設定された。日本に良質な長期投資を根付かせたいとの切なる思いからだったが、直販というもうからないビジネスモデルに対し「偉いですね~」と業界から冷ややかな声を浴びせられたのを鮮明に覚えている。

 しかしながら、独立系投信も少しずつ実績を積み上げ、今では長期投資の魅力が理解してもらえる時代になった。金融庁も顧客の利益を最優先にする「フィデューシャリー・デューティー(受託者責任)」を業界に求めており、風向きは変わりつつある。

 一方、投信の購入者である一般個人からは、信託報酬が0.2%を切る水準のファンドもあるインデックス型に比べ「アクティブ型ファンドの信託報酬は高い」という声も依然として根強い。確かにコストの面だけを判断基準にするのであれば、インデックス型の方がアクティブ型より魅力的である。だが、それは投資という行為の一面にすぎない。

■大切なのは信託報酬に見合った満足

 大切なのは投資家が信託報酬に見合った満足を得られるかどうかだ。インデックス型の場合、企業の良しあしを問わず全てをポートフォリオに放り込む。これに対し、アクティブ型は持続的な価値創造が可能と判断した企業にのみ厳選投資する。投資家はアクティブ型ファンドを通じて企業の価値創造にかかわり、社会をより良くする取り組みに参加できる。投資先を選ぶにあたっては綿密なリサーチが必要で、弊社はこうした「付加価値」の対価として信託報酬をいただいていると思っている。

 また、弊社では投資先企業とさまざまな側面から「対話」している。例えば、8月初旬には投資家とともにシスメックスの基幹工場(兵庫県加古川市)を見学した。親子で先進的な工場現場を見学した後に、同社の血液検査機器の組み立ても体験した。子供たちの目がキラキラと輝き、大人たちも夢中になった。

10月初旬に都内でコモンズ社会起業フォーラムが開催される。今回も社会変革を目指す若手精鋭が集う

 さらに弊社は投資家からいただく信託報酬の一部を社会起業家の活動支援プログラムに充てている。長期的視野で良識ある成長性資金を社会に循環させることが、弊社の存在意義であると確信しているからだ。

 これらの取り組みから得られるワクワク感を「無用なもの」と感じるのであれば、それはそれでいい。それなら迷わずインデックス型ファンドを選ぶべきだ。

 いずれにしても、つみたてNISAのスタートは日本に長期投資が根付く契機になる可能性がある。同制度を通じて「投資とは特殊な人が特殊なことをやっている」という今までの感覚が変わり、「普通の人が普通のことをやっている」という認識が日本社会へ広まることを大いに期待している。そのために我々のアクティブファンドが果たす役割は小さくないと思っている。

渋沢健
 コモンズ投信会長。1961年生まれ。83年米テキサス大工学部卒。87年カリフォルニア大学ロサンゼルス校MBA経営大学院卒。JPモルガンなどを経て、2001年に独立し、07年コモンズ株式会社(現コモンズ投信)を創業、08年会長就任。著書に『渋沢栄一 100の金言』(日経ビジネス人文庫、2016年)など。

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