「日常生活で困難感じるか」 ADHD、判断の境界に
ケアレスミスや忘れ物は誰しもあること。では、ADHDとの境界線はどこにあるのだろう。「ミスや忘れ物で生活に困難を感じている場合、ADHDの可能性がある。診断がつき、努力してもできないのはADHDの特性のせいだと知って、ほっとする人も少なくない」と昭和大学医学部精神医学講座の岩波明教授は話す。ADHDかもしれないと感じたら、発達障害に詳しい精神科を受診してみよう。
医療機関では、発達検査、心理検査、知能検査、幼少期からの成育歴をもとに診断される。特に成育歴は、「ADHDは成人して急に発症するものではないために重視する」(どんぐり発達クリニックの宮尾益知院長)。
治療は、ADHDの特性を理解することから始める。そのうえで、認知行動療法などで考え方と行動を変えていく。
それだけでは生きづらさを解消できない場合や、症状が原因で会社をクビになりそうなど急を要する場合は、薬物療法も併せて行う。「現在、大人のADHDの治療薬として認可されているのは『コンサータ』と『ストラテラ』の2種類。いずれも脳の神経伝達物質のバランスを整える作用があり、思考の多動性が和らぎ、自分の問題を冷静にとらえられる」(岩波教授)
服用期間は個人差が大きいが、最初は少量・短期間が基本。「生活でどのような問題を抱えているのかに応じ個別の対処法を考える。これらの治療薬は病気自体を治すものではないが、ADHDの特性による症状を見違えるように改善した例もある」と岩波教授は言う。なお、2017年5月に発売された新薬の「インチュニブ」は、現時点では子どもにしか使えない。
ADHDの患者が集うグループ療法を行って効果を上げている医療機関もある。昭和大学附属烏山病院では「患者同士が悩みを話し合い、対処法の情報交換をしている。共感できる仲間と出会えることが、社会で孤立しがちなADHD患者の心理面にプラスに働くようだ」(岩波教授)と言う。
昭和大学医学部精神医学講座教授。医学博士、精神保健指定医。発達障害の臨床研究を行う。2015年より昭和大学附属烏山病院長を兼任、ADHD外来を担当。著書に『大人のADHD』(ちくま新書)ほか。
どんぐり発達クリニック(東京都世田谷区)院長。医学博士。専門は小児精神神経学、発達行動小児科学、神経生理学。発達障害の臨床経験が豊富。監修書に『女性のADHD』(講談社)ほか。ADHDの子どもの親も診療を行っている。
(ライター 海老根祐子、構成:日経ヘルス 羽田光)
[日経ヘルス2017年10月号の記事を再構成]
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