受験業界の「黒船アプリ」 なぜリクルートが創れたか
リクルートマーケティングパートナーズ山口文洋社長×BCG杉田浩章代表
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リクルートマーケティングパートナーズ(東京・中央)が2011年に立ち上げた小中高生向けのオンライン学習サービス「スタディサプリ」(旧受験サプリ)。進学塾・予備校に代表される受験業界にあらわれた「黒船アプリ」だ。このサービスでは、場所や時間に縛られず、月額980円でカリスマ講師の授業などを受けられる。ボストンコンサルティンググループの杉田浩章氏が、「スタディサプリ」生みの親・山口文洋社長に話を聞いた。
自分の事業をなんとかしたい
杉田:「スタディサプリ」は、累計の有料会員が増えており、非常に好調です。教育の地域格差、経済的格差の解消に取り組むサービスとして、社会的なインパクトも大きいと思います。始めたきっかけは何だったのでしょうか。
山口:収益をあげる新しいサービスを作りたかった、というのが一番の理由です。峰岸(真澄リクルートホールディングス社長)さんに、かつて「事業にはロマンとそろばんこそ大切だ」といわれたことがあります。受験サプリ(現スタディサプリ)は、この「そろばん」をはじく過程で生まれたものでした。教育機会の格差を是正したい、という「ロマン」は、後から生まれたものでした。
私は、28歳でリクルートに中途入社しました。たまたま配属になったのが、高校生に大学や専門学校の情報を発信し、マッチングすることで収益を得る進学情報の事業でした。この事業部の業績がかんばしくなかった。当社はとてもドラスチックな会社で、収益が伸びる事業に戦力を集中させ、うまくいかない事業は、支援を減らされてしまう。私たちの事業部がまさにそうだった。入社して4、5年がたち、事業への愛が芽生えるにつれて、なんとかして収益をあげたい、悔しいという気持ちが募っていったのです。
試行錯誤しているうちに、教育事業には我々が未開拓の「学習領域」という、数兆円規模のビッグマーケットがあることに気付いたのです。行きたい大学に合格するため、高校生の大半は塾に通い、かなりの費用をかけている。私たちは高校生との接点を持っていても、この塾・予備校、通信教育といった「隣の市場」にはまったく手を出していなかった。
月額980円で人気講師の授業を動画配信する『オンライン予備校』で、2011年に配信を始めて、スマホで受講できることや、授業時間にしばられない自由度が地方在住の受験生らの人気を呼び、累計、42万人の会員を獲得している(2017年2月時点)。中学受験から大学受験まで5教科18科目、1万本以上の動画を配信している。