女性の意識が低いは嘘! 「昭和の価値観」が最大の壁東京大学 大学総合教育研究センター 中原淳准教授インタビュー(前編)

白河桃子さん(写真:稲垣純也、以下同)

働き方改革の一つの成果として「ダイバーシティー(人材の多様性)実現」が挙げられます。ダイバーシティーはイノベーションには欠かせないもの。そして人手不足の今、ジェンダーダイバーシティー、人口の半分である女性の力が、ぜひ必要と思う経営者も増えてきました。

しかし、「女性は意識が低い」「せっかく昇進を打診しても断られる」という言説をよく耳にします。それは、本当なのでしょうか。2017年5月に発表された、東京大学 大学総合教育研究センターの中原淳准教授とトーマツイノベーションとが共同で実施した女性活躍推進研究プロジェクト (2017)「女性の働くを科学する」によると、女性活躍を妨げているものは、女性たちの意識の低下ではなく、「環境」だということが明らかになりました。

では、女性たち、特に時間制約を抱えたワーキングマザーたちが本当に活躍するためには、どんなことが必要なのでしょうか。中原准教授に詳しくお話を伺いました。

女性の意識が低いからではない

白河桃子さん(以下、敬称略) 早速ですが、「女性が活躍しないのは、意識が低いから」という話は事実なのでしょうか? 管理職層からは「昇進の打診をしても断られちゃうんだよね」と言われます。

中原淳准教授

中原 独立行政法人 国立女性教育会館の「男女の初期キャリア形成と活躍推進に関する調査」で、次のようなことが分かりました。新規学卒者の「働く意欲」「キャリア意識」について、入社から5年間にわたって追跡調査をすると、女性は入社2年目になると、「管理職になる」「キャリアを伸ばす」という意識ががくっと低下するんです。トーマツイノベーションさんと私の共同研究では、学生時代の「キャリア」意識は、男女差はあまりないという結果が出ています。ここから類推するに、つまり、女性の意識が低いのではなく、もともとは高かったのが、就職後に急に落ち込んでしまうということがいえるのかと思います。

白河 入社後に、女性の意欲がそがれるような出来事が起こっているのですね。

中原 さらに、今回の僕らの調査でも興味深いことがありました。今回の調査は、5402名の回答者を「実務担当者」「リーダー」「管理職」の3つの職位について、それぞれ「男性」「女性」の2つに分け、合計で6つの社会集団のボックスを作って解析しています。

出典:トーマツ イノベーション×中原淳 女性活躍推進研究プロジェクト (2017)「女性の働くを科学する:本調査」(https://www.ti.tohmatsu.co.jp/npro/2017/)
出典:同「女性の働くを科学する:本調査」

「できるだけ長く仕事を続けたい」「やりがいのある仕事がしたい」と考えるのは、女性のほうが多いんです。

ところが、「実務担当者」に限ると、女性は男性より自分の能力を低く見積もる傾向が出てきます。入社後に、「自分の能力はこんなものだから、このくらいの働き方にしよう」と考えるようになる。

この状態は、実務担当者の時期にはずっと続きますが、リーダーや管理職に昇進すると逆転します。女性のほうが、自己評価を上げていくんです。

出典:同「女性の働くを科学する:本調査」
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