
白河 しかし、男性も考えてくれないと、女性は困りますよね。
中原 そうです。逆にいえば、そもそも、この問いを女性だけに投げかけること自体、ジェンダーバイアスなんですよ。本来ならば、子どもを産もうと共に決断した男性にも投げかけるべき言葉であり、それに対する答えが男性側にも必要です。ある意味、育児が女性のワンオペ化していることの証左なんです。
トーマツイノベーションさんと私どもの、追加調査では、ワーキングマザーがいかにして仕事と家庭育児を両立して成果を残しているのか、ということをテーマにしています。でも、ここでワーキングマザーだけに聞いてはいけないんです。同じ設問を、上司、同僚、パートナーにも聞いています。
何を言いたいかというと、ワーキングマザーの働き方は、本人だけでは決まらない。環境に大きく影響されるということです。
ワーキングマザーの働き方は、「本人の努力×上司の努力×パートナーの支え」というかけ算で表すことができるといえます。どれかがゼロになると、全部ゼロになってしまうのです。
昭和をアンインストールすべき

白河 厳しい! 多くの場合、どれかがゼロですよね。会社の人事部に、ワーキングマザーについて質問すると、よく「制度に甘える人がいる」と言われるのですが、私はそのセリフを聞くたびに腹が立つんです。そもそも制度を作ったのは会社です。そうであるにもかかわらず、「制度を使うな」「制度に甘えるな」というのは、おかしいでしょう。
ワーキングマザーは、先ほどのかけ算でいえば、いずれかの項がゼロになるとうまくいきません。仕事と家庭育児を両立できている人は3割強しかいないということですが、残りの7割は、「脚の欠けた椅子」に座っているような状況ですよね。ワーキングマザーが制度に甘えているように見えたとしても、そうならざるを得ない事情があると思います。
中原 制度とは、会社という組織にとって、必要なアウトプットを生み出すためのものです。そして、制度には、かならず「逆機能」や「副作用」が生じます。人事や経営の観点に立つのであれば、性善説に立っても、性悪説に立っても、その制度を導入したときに何が起こるかということは考えておくべきです。
白河 女性比率の高い会社であっても、30代のライフイベントが起こりやすい時期に入れば、何%の社員が産休に入る可能性があるかなど、試算できるはずです。しかし、実際は、「妊娠した女性社員はそれほど会社に残らないだろう」「仕事をしたい女性は出産しないだろう」という甘い見通しで制度を作った企業が多いのではないかと感じることがあります。
中原 僕はさまざまな場所で講演するとき、「昭和をアンインストールしてほしい」と伝えています。ワーキングマザーの就業率は、2004年は約50%、今では60%を超えています。今後はもっと上がってくるでしょう。「妊娠した女性は会社に残らない」というような昭和時代の価値観をアンインストールしなければ、女性活躍推進などできないのです。
(以下、後編の「女性の昇進意欲 年収など管理職の魅力伝え、背中押す」で、ワーキングマザーが成果を出すためには、どのような環境づくりをすればよいのか、詳しくお聞きしました)

(ライター 森脇早絵)