長澤まさみ 作家性にこだわった「自分だけの一品」

「私は女子なので、どうしても現実的な考え方をしてしまいがち。だからファンタジー要素が強すぎる作品より、こういう『本当にあるんじゃないか?』と思えるようなリアルな雰囲気の作品が好きです。それに黒沢監督はずっと憧れていた存在。お話をいただいたときは、また一つ夢がかなったなと。

自分の役について最初に思ったのは『ずっと怒っているな』ということ。でもその怒りがどこに向いているものなのか、自分の中でふに落ちなかったんです。そこで監督に『何に対して怒っているんですか?』と聞いたら、『自分の身近なことではなく、世の中とか、もっと大きな、目に見えないものに対して怒っているんだ』と。それを聞いて、私はすごく納得できて。この役を演じる上で、大切にしなきゃいけないことだと思いました。

この映画にはサスペンスやアクションなどいろいろな側面があるのですが、私が演じたのは『愛の物語』の部分。だから本気で(夫を演じる)松田龍平さんのことを好きになる、大切な人だと思うことが大事だと思って、撮影期間は、そのことに集中しました。

松田さんも、そういう思いをすべて、お芝居で受け止めてくれた。例えば私が松田さんをたたくシーンがあるのですが、監督に『フランス映画でも、女性は男をボコボコにする。思い切りたたいてください』と言われて(笑)。そんなシーンも松田さんは『遠慮しないで』と受け止めてくれました。痛かったと思うけど(笑)。

どの作品でもそうですが、小道具や衣装も助けになりました。特にセットには感動しましたね。アート作品のような雰囲気もありながら、無機質で、キレイで。……ただ、撮影したのが夏だったので、部屋のシーンは地獄のような暑さになっていて。やっぱり撮影って大変だなあと(笑)」

自分で作ったルールに縛られている

『散歩する侵略者』で興味深いのは、侵略者が人間の「概念」を奪っていくという設定だ。「家族」「仕事」「自分」……さまざまな概念がまるでモノのように奪われていく中で、人間を縛っている概念、そして人間にとって大切なものが浮き彫りになる。

映画には愛の概念をめぐる「ラブシーン」といえる場面も。「ただ、見た目の表現がエロスになっていないところが、カッコいいなと思いました」

「私たちは固定概念にとらわれたり、自分たちで作ったルールで反対に自分たちの首を絞めていたりするようなところがあるじゃないですか。守らないといけないことはたくさんあるけど、そこから自由になりたい人も多いから、こういう作品が生まれるのかもしれない。見る人によって、いろいろなメッセージをたくさん感じられる作品だと思います。

でもそんなに深く考えず、まずは単純に楽しんでもらえたらうれしいですね。今までに見たことのないような新しいエンターテインメント作品になっているので。『地球のどこかで、本当にこんなことが起きているかもしれない』と思いながら、映画を楽しんでいただけたら」

最後に、もし侵略者がやってきたとして「奪われたくない概念」は何かと尋ねてみた。

「『食べる』という概念。だいたい私、食べることしか考えていないから(笑)。『何も食べなくてもいいよ』なんて言われたら、悲しすぎる。好きなお肉も和食も食べられなくなるから、侵略者が来ても『食べる』概念は奪わないでほしいです」


長澤まさみ
1987年生まれ、静岡県出身。2000年に第5回「東宝シンデレラ」オーディションでグランプリを受賞。03年の初主演映画「ロボコン」で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。その後の主な映画に「世界の中心で、愛をさけぶ」(04年)、「涙そうそう」(06年)、「モテキ」(11年)、「海街diary」(15年)などがある。今年は「SING/シング」(吹き替え版声の出演)「追憶」「銀魂」が公開。スポーツブランド「UNDER ARMOUR」とコラボした、銭湯で激しく踊るPVも話題になった。
配給:松竹/日活 (C)2017『散歩する侵略者』製作委員会

「散歩する侵略者」

失踪後、別人のようになって帰った夫の真治に戸惑う鳴海。真治は毎日、何事もなかったかのように散歩に出かけていく。同じ町で、一家惨殺事件が発生。取材に来たジャーナリストは、「地球侵略に来た」という少年と出会う。監督・黒沢清 原作・前川知大「散歩する侵略者」 脚本・田中幸子/黒沢清 出演・長澤まさみ、松田龍平、高杉真宙、恒松祐里、長谷川博己 9月9日(土)全国ロードショー

(ライター 泊貴洋、写真 藤本和史)

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