長澤まさみ 作家性にこだわった「自分だけの一品」
「世界の中心で、愛をさけぶ」「モテキ」「海街diary」など、多くの作品で輝きを放ってきた長澤まさみさん。今年30歳になった彼女が、好きな食器選びで決めているルールとは? そして「だいたいそれしか考えていない」というものとは?
本当に欲しいモノにはなかなか巡り合えない
「好きだけど、なかなか買えないのが食器です。食器は誕生日などにプレゼントされることが多くて、基本的にはいただきものでまかなえるんです。だから自分では『本当に欲しいと思ったものしか買わない』と決めています。でも、そうするとなかなか買いたいものに巡り合えないんですよね(笑)。
洋食器と和食器を合わせて使うのが好きなんです。でも和食器はあまり持っていなくて。本当に欲しい食器になかなか巡り合えない。だからずっと同じものを使っている感じです。
食器探しは、骨董屋さんに行って見てみたり、ネットで調べたり。今はSNSに自分のページを持っている陶芸家の方も多いので、それを見て考えたりもします。料理を作るのも嫌いじゃないので、作る料理に合うものをイメージして買うときもあります」
陶芸家のうち、『デザインが個性的で好き』というのは、1970年生まれの濱中史朗さん。出張料理人の助手を経て作陶に入り、現在はミラノサローネなどのデザインの祭典でも高い評価を受けている。
「モノを買うとき、デザインで選ぶことは多いです。最近買ったダイニングテーブルもそうでした。最初に作った作家のイズムを受け継いで、今も職人が同じ形で作っているテーブルなんですが、デザインはもちろん、そういう点もすてきだなあと思って。ずっと欲しかったので、30歳になる記念に、奮発して買いました。
今、欲しいものも食べ物絡み(笑)。カナダ人が作った和包丁です。日本で修行して今はアメリカで活動している、カナダ人の鍛冶職人がいるんですよ(編注:モーリー・カーターさん。学生時代に日本で和包丁を見て虜になり、日本の老舗製作所で修業し、現在は包丁をオレゴンで製作している)。テレビで見たその方の作る包丁が、柄にマーブル模様のような凹凸があって、デザインが格好よかった。ただ残念ながら日本では売ってないらしいので、何とか買えないかな、と思っています。
作り手が見えるモノを選ぶ、作家性にこだわるのは、長く使いたいから。モノを買うときはどのくらい使えるかも考えるのですが、ハンドメードのモノは一個一個が違っているので、『自分だけのモノ』という感じがして、思い入れが強くなる。自分が好きなもの、本当に欲しいものを買うと、自然にそれをずっと使い続けたいと思うじゃないですか。だから買った後も大切にする。使い捨てみたいなことをしない。それがいいんです」
大事なのは「相手役を本当に好きになる」
9月9日公開の主演映画は、「散歩する侵略者」。劇作家・前川知大率いる劇団「イキウメ」の舞台を映画化した作品だ。ある日、侵略者に心身を乗っ取られて帰ってきた夫に戸惑う女性・加瀬鳴海を演じる。「宇宙からの侵略」というSF的な設定を、「岸辺の旅」(15年)でカンヌ国際映画祭「ある視点」部門監督賞を受賞した黒沢清監督は、日本のどこにでもあるような街の日常から描いていく。
「私は女子なので、どうしても現実的な考え方をしてしまいがち。だからファンタジー要素が強すぎる作品より、こういう『本当にあるんじゃないか?』と思えるようなリアルな雰囲気の作品が好きです。それに黒沢監督はずっと憧れていた存在。お話をいただいたときは、また一つ夢がかなったなと。
自分の役について最初に思ったのは『ずっと怒っているな』ということ。でもその怒りがどこに向いているものなのか、自分の中でふに落ちなかったんです。そこで監督に『何に対して怒っているんですか?』と聞いたら、『自分の身近なことではなく、世の中とか、もっと大きな、目に見えないものに対して怒っているんだ』と。それを聞いて、私はすごく納得できて。この役を演じる上で、大切にしなきゃいけないことだと思いました。
この映画にはサスペンスやアクションなどいろいろな側面があるのですが、私が演じたのは『愛の物語』の部分。だから本気で(夫を演じる)松田龍平さんのことを好きになる、大切な人だと思うことが大事だと思って、撮影期間は、そのことに集中しました。
松田さんも、そういう思いをすべて、お芝居で受け止めてくれた。例えば私が松田さんをたたくシーンがあるのですが、監督に『フランス映画でも、女性は男をボコボコにする。思い切りたたいてください』と言われて(笑)。そんなシーンも松田さんは『遠慮しないで』と受け止めてくれました。痛かったと思うけど(笑)。
どの作品でもそうですが、小道具や衣装も助けになりました。特にセットには感動しましたね。アート作品のような雰囲気もありながら、無機質で、キレイで。……ただ、撮影したのが夏だったので、部屋のシーンは地獄のような暑さになっていて。やっぱり撮影って大変だなあと(笑)」
自分で作ったルールに縛られている
『散歩する侵略者』で興味深いのは、侵略者が人間の「概念」を奪っていくという設定だ。「家族」「仕事」「自分」……さまざまな概念がまるでモノのように奪われていく中で、人間を縛っている概念、そして人間にとって大切なものが浮き彫りになる。
「私たちは固定概念にとらわれたり、自分たちで作ったルールで反対に自分たちの首を絞めていたりするようなところがあるじゃないですか。守らないといけないことはたくさんあるけど、そこから自由になりたい人も多いから、こういう作品が生まれるのかもしれない。見る人によって、いろいろなメッセージをたくさん感じられる作品だと思います。
でもそんなに深く考えず、まずは単純に楽しんでもらえたらうれしいですね。今までに見たことのないような新しいエンターテインメント作品になっているので。『地球のどこかで、本当にこんなことが起きているかもしれない』と思いながら、映画を楽しんでいただけたら」
最後に、もし侵略者がやってきたとして「奪われたくない概念」は何かと尋ねてみた。
「『食べる』という概念。だいたい私、食べることしか考えていないから(笑)。『何も食べなくてもいいよ』なんて言われたら、悲しすぎる。好きなお肉も和食も食べられなくなるから、侵略者が来ても『食べる』概念は奪わないでほしいです」
1987年生まれ、静岡県出身。2000年に第5回「東宝シンデレラ」オーディションでグランプリを受賞。03年の初主演映画「ロボコン」で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。その後の主な映画に「世界の中心で、愛をさけぶ」(04年)、「涙そうそう」(06年)、「モテキ」(11年)、「海街diary」(15年)などがある。今年は「SING/シング」(吹き替え版声の出演)「追憶」「銀魂」が公開。スポーツブランド「UNDER ARMOUR」とコラボした、銭湯で激しく踊るPVも話題になった。
「散歩する侵略者」
失踪後、別人のようになって帰った夫の真治に戸惑う鳴海。真治は毎日、何事もなかったかのように散歩に出かけていく。同じ町で、一家惨殺事件が発生。取材に来たジャーナリストは、「地球侵略に来た」という少年と出会う。監督・黒沢清 原作・前川知大「散歩する侵略者」 脚本・田中幸子/黒沢清 出演・長澤まさみ、松田龍平、高杉真宙、恒松祐里、長谷川博己 9月9日(土)全国ロードショー
(ライター 泊貴洋、写真 藤本和史)
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