中国の新種恐竜 4つの翼を持つのに飛べなかった?
中国で発見された恐竜の化石が、飛行の起源を解明しようとする科学者の間でちょっとした議論を巻き起こしている。
体の大きさは現代のキジとほぼ同じで、4つの翼を持つ新種恐竜は、セリコルニス・スンゲイ(Serikornis sungei)と名付けられた。中国の同じ地域では、前肢と後肢にびっしりと羽が生えて、4つの翼になっている恐竜がほかにも複数見つかっている。だが、古生物学者にとって意外だったのは、極めて保存状態のよい化石が示す証拠を見るかぎり、セリコルニスが空を飛べなかったらしい点だ。
「ほかの四翼恐竜と違って、セリコルニスでは小羽枝が一切見つかりませんでした。小羽枝とは、羽ばたくときに空気の抵抗を利用するための微細構造です」と、研究を率いたベルギー王立自然科学研究所の古生物学者ユリス・ルフェーブル氏は説明する。
「中国で発見された多くの獣脚類の恐竜がそうであったように、セリコルニスも羽毛の生えた4つの翼を持っていましたが、地上や樹上から飛び立つことはできなかったようです」
ルフェーブル氏の研究チームは、羽毛は持っているが飛行にはうまく適応していなかった初期の四翼恐竜の下位グループにセリコルニスを加えることを提案している。翼を羽ばたかせたり、木々の間を縫って滑空することもできず、ただ地面を駆け回って一生を過ごしていたと考えている。
絹のような手触りの恐竜
およそ1億6000万年前のものと見られるセリコルニスの化石は、2014年に中国東北部の遼寧省で発見され、2017年8月22日付けで科学誌「The Science of Nature」に掲載された。ほかにも遼寧省からは、初期の鳥類や羽毛恐竜の化石が数多く見つかっている。
遼寧省で四翼恐竜が初めて発見されたのは2000年のこと。体が小さく、ミクロラプトルと名付けられた。セリコルニスが見つかった岩石層からは、これまでにもアウロルニスやアンキオルニスなどの四翼恐竜が発見されている。多くの専門家は、これらの恐竜が初期鳥類の仲間で、古代中国の森林を飛行または滑空し、後に完全な飛翔能力を持つ鳥類の祖先になったのではないかと考え始めている。
ルフェーブル氏とその研究チームは新種恐竜に名を付ける際に、研究のために化石を提供してくれた遼寧古生物博物館の科学者の孫革(スン・ゲ)氏と、ギリシャ語で「絹」を意味するSerikosにちなんで、セリコルニス・スンゲイとした。セリコルニスの体表は、絹のような手触りだったと考えられているためだ。
セリコルニスは体長45センチほどで、小さく鋭い歯を持っていた。体は薄く柔らかい羽毛で覆われていたが、四肢には複数の異なる種類の羽毛が生えていた。中には、現代の鳥類の羽のように中央に軸が通っている長いものもあった。
議論が起こっているのはこのためだ。ルフェーブル氏によると、セリコルニスの翼に生えた羽には、重力に逆らって推進力をつけるだけの軽さと硬さがないという。では、飛べないのになぜ四肢にこんな造りの羽があったのだろうか。氏の見解は、羽の主な役割は、寒さから体を保護したり、敵を追い払ったり、仲間を呼び寄せたりすることだったのではないかというもの。つまり、こうした肢の羽も最初は飛行と関係なく進化していたことになる。
ベルボトムのような歩きにくさ
今回の発見をはじめ、羽毛恐竜の多様性については近年様々なことがわかってきている。羽毛には、ただ単に飛ぶだけでなく、他にも様々な機能があったと、米メリーランド大学カレッジパーク校の古生物学者トーマス・R・ホルツ氏はいう。
「ジュラ紀や白亜紀の羽毛恐竜には未知の新種がまだまだいるはずで、今後も新しい発見が期待されます」
ホルツ氏はさらに、セリコルニスの他にも多くの初期鳥類や羽毛恐竜が、肢に長い羽を持っていたと付け加える。「これらの羽は、空を飛ぶ生物の中でもうまく立ち回れるよう、旋回するときに使われていたかもしれません。でも、飛べない種の場合、羽にはほかの機能があったはずです」
しかし、セリコルニスが飛べなかったという説に、全ての専門家が同意しているわけではない。英ブリストル大学の古生物学者マイク・ベントン氏は、そう判断するには証拠が乏しいとしている。
「後肢の翼は、地上を駆けまわるには不便なのです」と、ベントン氏。「ももとふくらはぎの長い羽は、ベルボトムのズボンのように、歩いたり走ったりするときにこすれたり引っかかったりしてしまうでしょう」
だがベントン氏も、4つの翼というスタイルが飛行の起源のモデルであるという説を支持している。「セリコルニスのような初期の四翼恐竜が、おそらく虫や樹上生活をする生き物を追って木をよじ登り、敵から逃れたり移動するために枝から枝へと滑空していたのでしょう」
ルフェーブル氏も、この小さな恐竜がパラシュートのように木から地上へ落下できた可能性は否定しない。だが、だからといって飛べたかというと、それはまた別の話だとしている。「セリコルニスの羽毛では、現生鳥類のようには飛べません。しかし、ゆっくりと下降することは確かにできたと思います」
セリコルニスにはまた、その近縁種と同じように大きな爪があり、木の幹をよじ登ることができただろうと、ルフェーブル氏は付け加えた。「ただし、さらなる研究と化石の発見がないと、はっきりとは言えません」
(文 John Pickrell、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2017年8月31日付]
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