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「早食いは太る」は本当 太らない食べ方のコツは? データで見る栄養学(3)

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2017/9/14

佐々木:ある大学で学生さんに「あなたの食べる速さは?」という質問をして、「かなり速い」「やや速い」「ふつう」「やや遅い」「かなり遅い」の5段階に分け、本人の主観で答えてもらいました。よく一緒に食事をする友達の客観でもこの質問に答えてもらいました。結果、本人と友達の回答が完全に一致したのは全体の46%で、一つだけずれていた場合を含めると9割以上というとても高い一致率でした[図5]。このことから、この研究は完璧ではないにしろ科学的根拠に基づいていると認められ、さまざまな研究で使われるようになりました。

【知っておきたい疫学研究の基本】

質問の回答が信頼できるかどうかを調べる研究を「妥当性研究」という。上の場合、
(1)本人と友達の答えの一致度が低い場合:
→本人か友達かどちらか(または両方とも)の回答が信頼できない。
(2)本人と友達の答えの一致度が高い場合:
→(2-1) 本人も友達もどちらの回答もかなり信頼できる。
→(2-2) 理由は不明だが、食べる速さを同じように誤認する何か共通した理由がある。
と考えられる。しかし、このような質問があることは事前に知らせず、友達と相談しないで回答するようにお願いしたため(2-2)は考えにくく、(2-1)が妥当となる。このような質問もやり方によって「科学的根拠」を支える要素の一つになるという例。

■なぜ「早食い」は太るのか

編集部:どうして早食いだと太るのでしょうか?

佐々木:一つは満腹中枢の働く速さに関連するもの。速く食べると満腹中枢が働きだす前に必要以上に食べ過ぎてしまうのかもしれないという考え。もう一つは、早食いの人は速く食べやすいものを選んで食べる傾向があるのではないかという考えです。それは、よくかまなくても飲み下せるものや、量(かさ)の小さなもの、食物繊維が少ない食べ物です。

編集部:速く食べると血糖値が急激に上がり、それを下げるためのインスリンが多く分泌され、結果、余分な糖が体脂肪として蓄積されやすくなるといいますね。早食いというと、「ハンバーガーをコーラで流し込む」とか、「丼ものをかき込む」とか「麺類をすする」などが想像できますが、主食、主菜、副菜に分かれている「和定食」を三角食べする場合、そんなに速くは食べられないですね。

佐々木:和食には、野菜、豆、きのこ、海藻など食物繊維が豊富なものが多く、よくかまないと食べられないですからね。図4の大学生女子を対象にした研究では、食べる速度が速い群ほど食物繊維摂取量が少ないことが分かりました。食物繊維の摂取量が少ないと肥満になりやすいことは数多くの研究で明らかにされています。また、早食いの人は、ゆっくり食べる人よりも糖尿病に2倍近くもかかりやすいという報告もあります[注7]

■「野菜先食べ」「三角食べ」のススメ

編集部: 肥満や糖尿病を防ぐには、とにかく、よくかんでゆっくり食べることが重要なのですね。野菜先食べや三角食べはそのための一つの手段になると。

佐々木:はい。野菜先食べも三角食べもどちらも血糖コントロールに役立ちます。あえて分類するなら、食事に時間をかけたくない(または、かけられない)人には野菜先食べを、食事に味わいと楽しさを求める人には三角食べと口内調味を勧めたいと思います。

編集部:食事くらいゆっくり食べたいものですね。

佐々木:食事はおいしく、楽しく、正しく(科学的に)食べたいものです。そういう意味では、今流行のパワーブレックファストとかパワーランチって、僕は嫌いです。

編集部:会議を兼ねた食事ですね。食事と仕事が同時に済むので効率がいいように感じますが……。

佐々木:得しているようで、実は損しているんですよ。ゆっくり食べられないし、食べ物に集中できませんよね。「太めの人は自分が食べているものをかなり少なく考えている」という研究結果があります[注8]。食べたものを忘れてしまうんです。食べ過ぎないためには、目の前の食べ物一つ一つを丁寧に楽しむことが大切です。ひょっとしたら、会議にも集中できていないかもしれません。さあ、あなたはどんな食べ方を選びますか?

[注7]Sakurai M, et al. Self-reported speed of eating and 7-year risk of type 2 diabetes mellitus in middle-aged Japanese men. Metabolism. 2012;61:1566-71.

[注8]Okubo H, et al. The influence of age and body mass index on relative accuracy of energy intake among Japanese adults. Public Health Nutr. 2006;9:651-7.

【データで見る栄養学】

第1回 健康情報の落とし穴 「××は体にいい」を疑ってみる

第2回 大人気の「糖質制限」 他の方法より効果的?

佐々木敏さん
東京大学大学院医学系研究科 社会予防疫学分野教授。医学博士。1994年、大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了、ルーベン大学大学院医学研究科博士課程修了(ベルギー)。2007年より現職。早くからEBN(evidence-based-nutrition:根拠に基づく栄養学)に注目し、日本初の食事摂取基準の策定に貢献。日本の栄養疫学研究の中心的存在。近著は『佐々木敏の栄養データはこう読む! 疫学研究から読み解くぶれない食べ方』(女子栄養大学出版部)。

(ライター 村山真由美、図1以外のグラフデータ提供 佐々木敏)

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