「早食いは太る」は本当 太らない食べ方のコツは?データで見る栄養学(3)

日経Gooday

「時間がないから」と早食いが習慣化すると、体形維持はできないかも(c)Vadim Guzhva-123rf
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日経Gooday(グッデイ) カラダにいいこと、毎日プラス

忙しくてゆっくり食事がとれない……。そんな人も多いだろう。かつてはできるビジネスパーソンの鉄則だった「早飯」。しかし、早食いすると食後の血糖値が急上昇し、肥満や糖尿病になりやすくなるため、お勧めできない。では、早食いのクセがついた人や、忙しい人でも無理なく実践できる「太りにくい食べ方」とは? 例えば最近人気の「ベジ・ファースト(野菜先食べ)」や、和食の特徴の一つである「三角食べ」はどうだろう。どちらが血糖値の上昇が緩やかで、太りにくいのだろうか。東京大学大学院医学系研究科社会予防疫学分野教授の佐々木敏さんに、栄養疫学の視点からひもといてもらった。

「野菜先食べ」と「三角食べ」、どっちが血糖値上昇が緩やか?

編集部:このシリーズの第1回「健康情報の落とし穴 『××は体にいい』を疑ってみる」で「野菜を先に食べると血糖値が上がりにくい」という研究結果はあるけれど、それが私たちの生活に役立つかどうかは分からない、というお話をしていただきました。

佐々木:私たちは普段、ご飯とおかず、汁物などを順に食べる「三角食べ」をしているので、「野菜を先に食べ切るほうが、ご飯を先に食べ切るよりも血糖値が上がりにくい」という研究結果を、普段の生活にそのまま反映することはできないという話ですね。

編集部:そうです。研究結果はあっても、そこで思考を止めず、何と何を比較したものかを見て、それが実生活に役立つかどうか考えることが大切、というお話でした。では、「三角食べ」と「野菜先食べ」を比較した研究はないのですか?

佐々木:近いものとして、2型糖尿病の患者さんを、「野菜を主食(炭水化物)よりも先に食べる群」と、「順序を決めずに食品交換表[注1]に基づいて食べる群」に分けてヘモグロビンA1c(HbA1c)[注2]の変化を追った研究があります[注3]

研究の「結果」だけでなく「条件」を見る

日本人の2型糖尿病患者101人を、野菜を主食(炭水化物)よりも先に食べる群(69人)と食品交換表を基づいて食べる群(32人)に無作為に分け、2年間にわたって指導を行い、HbA1cの変化を追った介入試験。最後まで続けた人はそれぞれ65人と27人だった。

編集部:図1を見ると、どちらの群も最初の3カ月でHbA1cは大きく下がっていますね。しかし、その後は、野菜先食べ群はさらに下がっています。やはり、野菜先食べのほうが血糖値を下げる効果があるのですね!

佐々木:結果だけ見るとそのように思えますね。しかし、話はそう単純ではありません。図2の「各群にどのような食べ方を勧めたか」を見てください。

編集部:あれ? 野菜先食べ群は、食事の順序を変えただけではなかったのですね。

佐々木:はい。野菜先食べ群は、野菜を先に食べることに加えて、緑黄色野菜を積極的にとり、果物を控え、20回かみ、グリセミック・インデックス[注4]の低い食べ物を選ぶことが勧められました。一方、食品交換表を使う群は、1日当たり野菜を350gと果物を80kcal食べるように勧められました。

編集部:つまり、両群で食べる順序以外の条件が違ったということですね。ということは、野菜先食べ群のほうがHbA1cが下がったからといって、その理由は、必ずしも野菜を先に食べたからだとは言い切れないということ?

[注1]日本糖尿病学会が推奨する一般的な糖尿病の食事療法。食品を栄養素で6つのグループに分類し、1単位80kcalという単位を使い、エネルギー計算や献立づくりを簡便にしたもの。何をどれだけ食べればいいかが分かり、自然とバランスのよい献立になる。食べる順序には言及していない。

[注2]血糖値の指標の一つ。赤血球中のヘモグロビンのうちどれくらいが糖と結合しているかを示す。過去1~2カ月の血糖値の平均を反映する。

[注3]Imai S, et al. A simple meal plan of ‘eating vegetables before carbohydrate’ was more effective for achieving glycemic control than an exchange-based meal plan in Japanese patients with type 2 diabetes. Asia Pac J Clin Nutr. 2011;20:161-8.

[注4]その食品を食べた後に血糖値がどれだけ早く上がるかを示した指標。最も上昇スピードが速いブドウ糖を100とした場合の相対的な値を示す。

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ゆっくり食べることの意義