羽生王座vs.中村六段 将棋王座戦五番勝負・直前特集

2017/9/3

 羽生善治王座(46、棋聖)に中村太地六段(29)が挑戦する第65期将棋王座戦五番勝負(日本経済新聞社主催)が5日開幕する。通算タイトル獲得数100期まであと2期の羽生王座は王座戦5連覇中で、今期は通算25期という節目をかけた戦いになる。本格派の若手実力者、中村六段は4年前に王座挑戦をはね返された雪辱の機会を得て、念願の初タイトルを目指す。両者の対戦成績は羽生8勝、中村2勝。大横綱と期待の新鋭による五番勝負は、若手が旋風を巻き起こしている棋界の今後を占う上でも注目のシリーズとなる。

■羽生善治王座―節目の25期ねらう スピード感ある展開に

1970年埼玉県所沢市生まれ。故二上達也九段門下。85年四段、史上3人目の中学生棋士に。94年九段。96年史上初の七冠独占。92~2010年の王座戦19連覇は同一タイトル連覇の最長記録。タイトル獲得は歴代最多の98期。今年度成績は13勝10敗(2日現在)

 中村さんは基本的にアグレッシブ(攻撃的)な棋風で、自分から動いて局面を作る。以前、棋聖戦と王座戦の五番勝負をそれぞれ戦ったが、最新形にも通じていると感じた。お互いじっくり相手の出方を待つタイプではない。早い仕掛けからスピード感ある展開になるだろう。

 安定した実績を積み重ねている印象のある中村さんだが、盤上以外でもテレビ出演や普及イベントの切り盛りなどで活躍している。本当にしっかりしていて、バランス感覚に優れた棋士だと感じる。

 このところ将棋界は若い世代の層が厚くなり、底上げが進んでいる。今年は棋聖、王位のタイトル戦でそれぞれ手ごわい20代とぶつかり、一局一局はハードでも、ひとつの刺激として前に進むきっかけになっている。対局日程は厳しいが、自分なりにコンディションは悪くない。

 王座戦五番勝負の連続出場は早いもので26期、四半世紀となった。さすがに最初の頃の記憶はうっすらしている。長く続けてきた形としてとても愛着はあるが、新たな気持ちで臨みたい。あと2期となった通算タイトル100期の記録は意識しないで戦いたい。

 史上最年少棋士で中学生の藤井聡太四段の活躍で、将棋に注目が集まっている。将棋そのものの魅力を広く知ってもらうためにも、今回の五番勝負が熱戦となるよう全力を尽くしたい。

中村太地六段―悲願の初タイトルへ 自分見つめ総力戦で

1988年東京都府中市出身。故米長邦雄永世棋聖門下。2006年四段。11年度、史上2位の8割5分1厘で勝率1位賞。12年棋聖戦でタイトル初挑戦、六段に。13年王座戦挑戦。早大政治経済学部卒でテレビ出演も多い。今年度成績は12勝4敗(2日現在)

 挑戦まで大変だったので率直にうれしい。4年前に王座戦で羽生さんと戦ってから、タイトルが視野に入るところまで勝ち上がれなかった。羽生さんとの対局も前回挑戦以来だ。

 自分より若い棋士が次々とタイトル戦に出ている。今回の本戦トーナメントも準決勝、決勝の相手は年下。やや焦りもあったので、もう一度この舞台に立ててホッとしている。

 前回の五番勝負でも自分の力は発揮できた。しかしタイトルに手が届かなかった点で、うまくいかなかったシリーズだ。技術面ではほんのあと一歩だったかもしれないが、終盤のポイントで間違った。それには伏線があったはずだ。

 羽生さんの最近の戦いぶりは充実している。いろいろな引き出しがあり、つかみどころのない人でもある。攻略法を探るより、私は自分自身を見つめることが大切になるだろう。

 どちらかというと攻め将棋が得意で、戦型は横歩取りが多かったが、このところ幅が広がった。前回の五番勝負では斬り合いになるかと思いきや、長手数のねじり合いや二転三転という将棋になった。今回も総力戦になるのは覚悟している。

 今、将棋界に注目が集まる中でタイトル戦を戦えるのは励みになる。前回の王座戦に縛られることなく、まっさらな気持ちで伸び伸びと対局に臨み、持てる力を全部発揮して結果を残したい。

◇展望を聞く

 五番勝負の見通しを、両対局者とそれぞれ同世代の、藤井猛九段(46)と広瀬章人八段(30)に聞いた。=文中敬称略

 ――中村が勝ち上がった。

広瀬章人八段

 広瀬 尻上がりに調子を上げている。2次予選では競り合いを制したが、本戦は圧倒的な勝ち方になった。2回戦で当たった時は途中からこちらにチャンスがなくなった。

 藤井 若手の活躍が目立つ本戦で同世代との戦いを制した。挑戦者決定戦は最近見かけない陣形にして完勝ともいえる内容。こんな手まで研究しているのかと驚いた。本戦で、すべて後手番で勝ったのも珍しい。

 広瀬 意図的に乱戦に持ち込み成功している。定跡形だと先手の勝率が高いが、力戦だと後手でも早めに攻勢に出やすい。コンピューター将棋の影響もあるかもしれない。

 ――羽生の調子は?

 藤井 関西の有望株、斎藤(慎太郎七段)との棋聖戦は3勝1敗で防衛。圧勝ともいえる内容で驚かされた。夏場に負けが目立つが毎年の傾向なので心配ない。菅井(竜也七段)が挑んだ王位は失ったが、失冠しても影響を受けないのが羽生。常人と違うところだ。

 広瀬 タイトル戦は若手との防衛戦ばかりだが、名乗りをあげてくる若手の特徴、傾向を指しながら把握し、戦法や時間の使い方を臨機応変に変えてくる。さすがというほかない。ただ、最近は詰みのある局面で、あえて安全な勝ち方を選ぶときがある。

 ――戦型予想は。

 広瀬 中村は攻め将棋だが、攻めと受けの割合が以前の「8対2」から「6対4」くらいに変わり、受けるべきところはしっかり受けるようになった。なので一直線の将棋にはならないと思う。中村後手のときは本戦のときと同様、角換わり、早繰り銀など相居飛車の力戦形。中村先手のときが難しいが相居飛車の定跡形を目指すのではないか。

 藤井 羽生は最新戦法が大好き。将棋への強い探究心によるものだろう。中村が最新形で挑めば間違いなく受けて立つ。終盤力に自信があるからで、若い時は当たり前に強く、40代後半になれば落ちるが、羽生にはあてはまらない。

 ――勝敗のポイントは。

 広瀬 大局観では羽生に一日の長があり、中村は瞬発力で勝負したい。力戦形だと、穴熊のように堅く囲うのではなく、広くバランスをとった玉の守りになる。どこが相手の急所か直感で見抜くのは、若手が得意とするところだ。

藤井猛九段

 藤井 五番勝負に出続けているので体に染みついているのだろうが、羽生は5時間の持ち時間の使い方がうまい。中盤で考えさせられるような手を指され、時間を使いすぎて、夕食休憩後の勝負どころで時間がなくなった経験を持つのは私だけではない。中村は勝負どころで時間を使うタイプ。前回の経験をどう生かすかもみどころだ。

 ――勝敗予想は。

 藤井 プロがプロを評価するとき、大事なのは「終盤の切れ味」より、簡単に土俵を割らない「倒れない力」で、羽生は依然、トップレベルにある。今年はタイトル通算100期が目前に迫りモチベーションも高まっている。簡単に勝てる相手ではないが、3勝2敗で防衛と予想する。

 広瀬 4年前、ぎりぎりで王座のタイトルを取り損ない、中村は悔しい思いをしたはず。再び取りにいく舞台は整った。テレビなどで見せる表情は柔和だが内に秘めた闘志はすさまじく「30歳前に初タイトルを」の思いもあるだろう。3勝2敗で奪取とみる。

◇本戦トーナメント回顧 若手の活躍目立つ

 「年の若い方が勝つ」パターンが1回戦の広瀬―糸谷戦を除き、2回戦終了まで続いた。青嶋五段は振り飛車穴熊を駆使して活躍。本命の佐藤名人を破る金星で勢いづき、準決勝で稲葉八段との関西対決を制した斎藤七段を下した。

 一方の山は広瀬八段を破った中村六段と、渡辺竜王を破った菅井七段が準決勝で激突。王位獲得を果たした菅井を、中村が圧倒した。

 年初の王将戦から5棋戦連続で関西勢が挑戦者になっていたが、関東勢同士の対決となった決定戦は中村が力で青嶋を封じ込めた。

五番勝負日程(持ち時間各5時間、午前9時開始)
対局日・対局場立会人・新聞解説
第1局9月5日(火)立会・塚田泰明九段
仙台ロイヤルパークホテル(仙台市)新聞解説・行方尚史八段
第2局9月19日(火)立会・福崎文吾九段
ウェスティンホテル大阪(大阪市)新聞解説・豊島将之八段
第3局10月3日(火)立会・中村修九段
龍言(新潟県南魚沼市)新聞解説・飯塚祐紀七段
第4局10月11日(水)立会・藤井猛九段
横浜ロイヤルパークホテル(横浜市)新聞解説・村山慈明七段
第5局10月17日(火)立会・屋敷伸之九段
常磐ホテル(甲府市)新聞解説・西尾明六段

大盤解説会情報(いずれも事前申し込み不要)
第1局仙台ロイヤルパークホテル(022・377・1111)
木村一基九段、宮宗紫野女流初段、午後3時、1000円
東京・大手町、日経本社2階「SPACE NIO」(03・6256・7682)
渡辺明竜王、加藤桃子女王、午後6時、無料
第2局ウェスティンホテル大阪(06・6440・1111)
糸谷哲郎八段、船江恒平六段、大橋貴洸四段、里見咲紀女流初段、藤井奈々女流3級ら、午後1時、1000円(別料金で指導対局あり、問い合わせは日本将棋連盟関西本部=06・6451・7272)
第3局龍言(025・772・3470)
広瀬章人八段、安食総子女流初段、午後2時、2000円
第5局常磐ホテル(055・254・3111)
豊川孝弘七段、鈴木環那女流二段、午後3時、1000円
東京・大手町、日経本社2階「SPACE NIO」
佐藤天彦名人、藤田綾女流二段、午後6時、無料

◦ 「将棋王座戦中継サイト」(http://live.shogi.or.jp/ouza/)で対局の模様をライブ中継します
◦ 全局、「ニコニコ生放送」と「アベマTV」でプロ棋士の解説つき生中継があります(現地・日経本社の大盤解説会とは別のものです)
◦ 第4局の大盤解説会はありません

ALL CHANNEL