子どもが欲しいか分からない…3年悩んで出した結論犬山紙子さんインタビュー 妊娠・出産への迷いと戦い続けて

日経ウーマンオンライン

(写真:小野さやか)
(写真:小野さやか)
日経ウーマンオンライン

「私、子ども欲しいかもしれない。」――これはアラサー女子の独り言ではなく、エッセイスト・犬山紙子さんの新刊タイトルです。しかしこのつぶやきのような書籍名に、ドキっとした方も多いのではないでしょうか。

「産みたいかどうか分からない」状況で3年間悩み続けた結果、2017年1月に無事長女を出産するに至った犬山さん。今回、子どもに関する「どうしよう」と戦い続けた彼女に、妊活・出産を経た今の率直な心境を語っていただきました。(聞き手は、小泉なつみ)

自然と子どもが欲しいと思えなかった自分

――妊活前から出産まで、リアルな「どうしよう」という悩みをつづられていて共感するところばかりだったのですが、最終的に「子どもつくるぞ!」となったきっかけはなんだったのでしょうか。

「35歳を超えると高齢出産」ということは知っていたので、30歳を過ぎたあたりから子どものことが頭をよぎるようになっていたんです。でもちょうどその頃、卵巣のう腫が見つかって手術することになりました。そのときお医者さんから、「術後1年間は妊娠しやすいよ」と言われたんです。それでもやっぱりまだ子どもが欲しいとは思えず、「私、ビッグチャンスをみすみすスルーしたな……」と思いながら、なにもせずにいました。

犬山紙子 イラストエッセイスト。トホホな生態を持つ美女たちを描いた「負け美女 ルックスが仇になる」でデビュー。多くの女性から「私の周りにも負け美女がいます!」との声が上がり、共感を得て話題に。「SPA!」や「anan」などにも連載を持ち、テレビやラジオなどにコメンテーターとしても出演中。近著は「私、子ども欲しいかもしれない。」(写真:小野さやか)

その後、今度は結婚をきっかけに周りから子づくりについて聞かれる機会が増え、いよいよ真面目に向き合わないとなと思いました。でも本当に困ったことに、「赤ちゃんが欲しい」という欲求が湧いてこない。自分は著しく母性に欠けていて異常なのかと心配になって、周りの女性に聞きまくってみたんです。すると、私のように自然に子どもが欲しいと思えなかった人も案外存在していることが分かった。そうして自分と違う立場の人の妊娠・出産・育児に対する考え方を聞くうちに、私自身の頭の中も整理されていく感覚があったので、じゃあいろんな人に話を聞きながら、自分も産むかどうか考えようと思ったんです。そのさまを丸ごと連載にして本にしてしまった、というワケなんですね。

緩い妊活を始めてから、徐々に心境の変化が

ただもう序盤で、「これ、いくら聞いても悩み続けるな……」って気付いてしまった(笑)。だって出産や育児が大変だって話は当然あるし、一方で子どもがかわいくて仕方ないって話も聞く。これは絶対に決められない……と思っていましたが、不安はたくさんあるものの、「産みたくない」って思うことはなかったんです。だったら運を天に任せるということで、避妊はしないくらいの緩い妊活を始めました。

すると、生理が来るたびに毎月がっかりしている自分がいることに気が付いて。だから私の場合は突然「子ども欲しい!」となったわけではなくて、妊活という行動を取ったことによって徐々に子づくりに目覚めていったような感じでした。

――妊娠・出産がどれほど仕事に影響を及ぼすのか、心配している働く女性も多いと思います。犬山さんが妊娠中や産後も仕事を続けていく上で事前に準備したことはありますか。

自分がどれほどつわりがひどいのか、また子どもが夜泣きするかどうか、不安は尽きないですよね。でもこれはもうギャンブルで(笑)、どう転ぶかは妊娠・出産しないと分からない。ただ仕事に関して私が感じたのは、いつだって忙しいし仕事はしたいってこと。

子づくりのタイミングを「キャリアができたら」とか「仕事が一段落したら」と考える方は多いですよね。でも年上のバリキャリの方から話を聞いたとき、キャリアがあったらあったで今度は若い人たちに抜かれちゃ困ると、また忙しく働くようになるらしいんですよ(笑)。もし仕事がヒマになったとしても、「じゃあ営業でもしよう」となって、結局、仕事を続ける限りゆっくりできるときなんてほとんどないってことなんです。だから仕事の心配をしても仕方ないので、自分の体を優先させて考えたほうがいいのかなと思いました。

赤字覚悟でも、家事・育児の負担は夫婦平等にする

あと、保育園に入れないとか寝られないとか、とにかく育児に関するネガティブな情報ばっかり入ってきていたので、妊活中から出産後の環境づくりには心を砕きました。

夫が夜中にしか帰ってこられない仕事だからといって、妻だけが家事・育児を負担するのは絶対避けたほうがよいと思うんです。睡眠も取れないなかでの孤独な重労働は、心身ともに病気になってもおかしくないですから。子どもが小さいうちは、妻一人きりで育児を担うワンオペ育児にならないよう、家事・育児の時間を捻出できない夫がお金を払って代行サービスを頼むなど、赤字覚悟で、夫婦で知恵を絞ることが本当に大切だと痛感しています。

私、妊娠中に病院で夫婦の愛情曲線データを見せられて。そのグラフによると、夫から妻に対する愛情ってほぼずっと一定なんですが、妻から夫への愛情は、産後にどれだけ家事・育児を一緒にやったかで大きく異なっていて、夫が全く参加しなかった場合、老後までずーっと彼への愛が冷めていくという恐ろしいグラフで(笑)。

なので夫婦仲を保ち続けるという意味でも、早め早めにパートナーと出産後の生活について話し合うことは本当に大切だと思います。

――妊娠・出産に焦りを感じている読者にメッセージをお願いします。

私自身ずっと自分本位で生きてきて、「そんな人間が本当に子育てなんてできる?」「子どもをかわいがれるの?」と猛烈に不安でした。でも、今のところ大丈夫です。子どもは最高にかわいいし、子育てはめちゃくちゃ楽しいし。

やりたいことができなくなる恐怖もあると思いますが、私はむしろ産後のほうがやりたいことができているんです。仕事にかけられる時間が短くなってもスピードが格段に上がりましたし、そもそも自分のやりたいことが育児だから、娘と散歩しているだけで信じられないくらい幸せで。子どもは合法のドラッグですね(笑)。

といっても私は決して皆さんに出産を勧めたいわけではないんです。

私の場合、子づくりを悩んでいるときは「産まないで後悔したらどうしよう」っていう恐怖が大きくて、自分は間違った選択をしているんじゃないかという感覚がすごくあった。でもこの本を作るに当たってたくさんの女性に話を聞いて分かったのが、自分の人生をちゃんと尊重できていたなら、子どもがいようといまいと幸せになれるってことなんです。

社会の風潮はまだまだ「女の幸せは子どもを産んで育てること」って考え方がメジャーですが、今回子どものいない人にとったアンケートで、「子どもを持たないことで生まれる悩みや迷いはありますか」と聞いて一番多かった回答は「特にない」。唯一あるとしたら、周りからの「産まないの?」という言葉という結果でした。

ここからも分かるように、「産まなかったけど幸せ」という人が事実たくさんいるってことを、まだまだ社会が隠しているんですよね。だから、子どもを持つことだけが幸せになる道ではないってことがもっと浸透すれば、変に焦らなくてもすむんじゃないかなと思います。

(ライター 小泉なつみ、写真 小野さやか)

「私、子ども欲しいかもしれない。」 犬山紙子 著(平凡社)

[nikkei WOMAN Online 2017年8月18日付記事を再構成]

注目記事