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丸井グループの新倉さんの活動がLGBTにも対応した浴衣を生んだ

丸井グループの新倉さんの活動がLGBTにも対応した浴衣を生んだ

会社員が個人で参加する本格的なNPO活動を、会社が"公認"する動きが広がっている。働き方改革で、国が副業・兼業を後押しする方針を打ち出す中、企業も幅広い視点を身に付けられる複数の名刺の価値を評価し始めている。

神奈川県葉山町の海の家に7月下旬、身長155センチのメンズ向け、180センチのレディース向けなどの浴衣が並んだ。「男女の区別を迫られる服装に困っている」との声に配慮した新作。LGBT(性的少数者)を支援するNPO法人、グッド・エイジング・エールズ(東京・渋谷)のイベントに丸井が提供した。

きっかけを作ったのは丸井グループのカード会社エポスカード(同・中野)で働く新倉智宏さん(43)だ。別のNPO法人、二枚目の名刺(同・渋谷)が各地のNPOを支援するプロジェクトをしていたのに賛同。紹介を受けたグッド・エイジング・エールズの活動に約3カ月間携わった。

新倉さんは「LGBT問題への理解が深まったのと同時に、自分に何ができるか探っているうち結果的に、衣料販売という本業周りの仕事にもつながった」と思わぬ成果に驚く。

丸井グループ自体、イベント開催などNPOとの関係を企業として重視しているが、新倉さんは「人々の価値観が多様化する中、個人が興味のあることに参加するだけでも、知見や価値観の幅が広がる」とNPOと関わる意義を強調する。

NPO法人、二枚目の名刺が進める支援プロジェクトはNPOと、企業などで働く社会人が期間限定で、共同で事業に取り組む。社会人は本業の傍ら、主に平日の夜や休日に活動する。企業が人材研修に利用する事例もあり、昨年度は20件に114人が参加した。

衣料品販売のギャップジャパン(同)で西日本地区の店舗運営を統括する堀順哉さん(41)は参加者の一人。NPO法人、シャプラニール=市民による海外協力の会(同・新宿)の広報体制の見直しに携わった。同法人は貧困層の職業支援などに取り組む。「金銭の援助だけで根本的な貧困問題は解決できないことを学んだ」という堀さん。ギャップ自体、ボランティア活動に積極的な会社だが「企業がNPOを支援する場合も、目的を明確にすることが重要だと知った」。

NPO法人、二枚目の名刺は代表の広優樹さん(37)が日本銀行の在籍中に始めた。メンバーには自治体職員もいる。現在は商社に転職した広さんは、長時間労働をなくすと、今度は職場以外の時間を持て余す「自分探し難民」を生む可能性があるとみる。

「決まった時間と役割の中で最大限のパフォーマンスを出すべきなのは、社内も社外も同じ」と広さんは言う。「一つの企業や組織の価値観が、個人と完全に一致することはない。人生のバランスを自分でとるためにも『まずは複数の名刺を持ってみる』という選択の意味は大きい」

金融、メーカーの営業、経営コンサルタント、公認会計士や税理士――。本業最優先、全員副業を徹底するNPO法人、Living in Peaceに集まる約100人の職業は様々だ。

貧困層の生活改善を金融で手助けするマイクロファイナンスなどを手掛ける。理事の鈴木瞳さん(33)は「有給でもおかしくない仕事を無給でやるのが我々の強み」と強調する。メンバー全員に本業があるからこそ活動資金集めに時間をかけず、活動自体に費やせるという。

とはいえ、寄付を依頼するための企業回りなど平日の日中でなければ難しい仕事の場合、本業との調整が必要になる。鈴木さんは「長時間労働をなくすことイコール、早い時間に退社することとは限らない。日中の業務の『中抜け』など自由な時間の使い方が本質ではないか」と提言している。

人件費抑制、NPOに効果

本業を持ちながらNPOの活動に関わる人が増えると、NPOの人件費抑制につながり、財政面の影響は大きい。一方でボランティア色が強くなり過ぎると、運営などで課題が生じる可能性がある。

育児・保育にかかわるNPO法人、フローレンス(東京・千代田)働き方革命事業部マネージャーの陣内一喜さん(38)は「NPOを始める初期段階でボランティアの存在意義が大きい」としたうえで「組織の規模や業務の専門性にもよるが『可能な範囲でお願いする』関係が続くと、責任をもって活動をやりきれるかマネジメントが難しいこともある」と話す。

フローレンスには4月から、サイボウズ人事部マネージャーの青野誠さん(33)が勤務している。月1回のミーティングなどを通じて業務に携わる。個人事業主ではなく、企業に勤める有給スタッフはフローレンスで初。青野さんには「NPO業界に不足しがちな組織の運営力や、コンプライアンス部門のスキルを発揮してほしい」(陣内さん)という。

NPOに詳しい大阪大の山内直人教授(公共経済学)はNPOを巡る副業・兼業の解禁は、視野や人脈が広がる個人、社会貢献を訴えたい企業、企業のノウハウや技術を学べるNPOの「いずれにもメリットがある」と話す。そのうえで「貢献に見合う報酬が支払われない場合、労働法規上の問題が生じる恐れもある」と指摘する。

(嘉悦健太)

[日本経済新聞夕刊2017年8月30日付]

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