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「侍と忍者は今もいる」 訪日客に大人気、人手不足に 殺陣や剣舞の習得が必要、将来は人気の職業?

2017/10/2 日経MJ

名古屋城で外国人観光客に人気の「徳川家康と服部半蔵忍者隊」(名古屋市中区)

 えっ、侍、忍者、車夫がピンチ!? 今、観光産業が思わぬ人材不足に悩んでいる。急増するインバウンド(訪日外国人)が全国各地の観光施設に足を運び、ショーの演者たちはてんてこ舞い。ブームに乗り遅れまいと新しい施設もどんどん生まれる。インバウンドブームを支える重要な兵力をどう確保するのか? 人気が一巡した後はどうする? ニッポン、大丈夫か!?

■侍がタクシーに乗って奔走

 刀を持った侍がタクシーに飛び乗り、次のショーの会場へ――。

 日本有数の観光地、浅草や原宿で日本の文化体験を提供する夢乃屋エンターテイメント(金沢市)。10人の侍が、体験指導や出張ショーで慌ただしい日々を送る。外国人客からの予約がこの1年で一気に増えたためだ。角田知弘社長は「とてもうれしいが、せめてあと5人くらい侍がいれば」と話す。

 だが募集をしてもそう簡単には集まらないし、何よりスキルが求められる。そこで侍を自ら育てることに。同社はプロ向けの殺陣・剣舞の教室も運営し、生徒の受け入れ人数を増やしている。「最近は日本文化の習い事をしたい人が増えているのが追い風」(角田社長)。一人前になったときに、侍として自社で働いてもらえるようにオファーを出す構想だ。

 「大口の予約とショーの予定が重なると、人繰りが相当に厳しい」。日本殺陣道協会(大阪市)でも侍不足に直面している。同協会が運営する大阪の殺陣教室「クイックサムライ」は外国人客に大人気。昨年は延べ1500人が参加し、2017年も7月末時点で既に約1000人が侍を体験。その大半が外国人客だ。

大阪市の殺陣教室「クイックサムライ」も、深刻な侍不足に直面している

 クイックサムライは50代前後の侍7~8人が指導しているが、全員、本業が別にある「副業侍」。侍のショーへの派遣も増え、テンヤワンヤな毎日だ。八木哲夫会長は「できるならあと数人若い侍がほしいが、おもてなしの心も持ち合わせていないとダメ。向き、不向きがある」。理想の人材の確保に頭を悩ませる。

■まだ職業として認知されず

 侍以上に深刻なのが、「忍者不足」だ。

 「よう来てくださったのう」「にんにん」

 7月の週末、名古屋城(名古屋市)で闊歩(かっぽ)しながら、観光客に声をかける人たち。愛知県が観光PRを目的に結成した「徳川家康と服部半蔵忍者隊」だ。

 米国からホームステイで来日していた女子高生、ブルックスさん(16)は「初めてホンモノの忍者を見た」と興奮気味に話す。

 16年春、忍者隊の新メンバーを募集した際は「自治体が月給制で忍者を募集している」と国内外で話題になり、235人の応募があった。ところが、17年の応募数は22人に激減。事務局は「各地で忍者をテーマにした施設が増えており、忍者の不足感が強まっている」ことが一因とみる。

 北海道登別市の「登別伊達時代村」の売りは、忍者のショー。外国人客の増加で、1日4回の公演を4月下旬からは6回に増やした。ただ、8人の忍者でぎりぎり対応している上、「今は1人ケガをして、7人で回している」(登別伊達時代村の山田桂司さん)。

 ところかわって、佐賀県、嬉野温泉にある「元祖忍者村 肥前夢街道」。演者、音響、照明など2人の忍者が対応し、ここもご多分に漏れず人手が足りない。河野進也専務は「忍者が職業として世間一般で認められておらず、親族からの反対もあるだろう」と不足の原因を分析する。

 ただ、涙ぐましい努力を怠らず、集客には余念がない。例えば朝の営業活動。「さあ、おいでござる!」。忍者自ら旅館まで忍び寄り、観光客の心に訴える。

東京・歌舞伎場の「手裏剣道場 忍者からくり屋敷」は40分程度の手軽な体験が受けている

 人手不足を解決する「忍術」はないが、打開のヒントは転がっている。

 「臨兵闘者皆陣裂在前!」。忍者の格好をした湯本智之社長が呪文を唱える。それをポカーンと見守る外国人客ら。ここは東京・歌舞伎町の忍者体験施設「手裏剣道場 新宿忍者からくり屋敷」。30坪ほどの小さいフロアで、手裏剣投げや殺陣の体験ができる。時間は1回40分ほど。

 「体験時間が長すぎず、短すぎず、ちょうどいいね」。7月に訪れた英国人のトニーさん(43)は満足げ。スペースが狭いから体験人数は限られ、その分、人手は少なくてもOKだ。基本、湯本社長が受け付けから、忍者役、後片付けまで一人で務める。

 神奈川県小田原市はソフトパワーで勝負する。同市も忍者で観光客の誘致に力を入れるが「忍者施設はない」(観光協会)。年1回の祭りでは外部から忍者を呼んで、本格的な演舞を披露。出場者を全国から公募し、手裏剣打ちなどを競う「天下一忍者決定戦」などユニークなイベントが目白押しだ。施設や忍者を抱えなくても工夫次第でPRはできる。

■車夫もフクロウも不足

 明治から昭和初期にかけ移動手段として用いられた人力車。その人力車を引く車夫も足りなくなっている。東京・浅草。ある日の午後、雷門前にバルセロナから来たヒメネスさん(44)がいた。視線の先には人力車。「スペインなら馬車はあるけど、人が引く車は初めて見た。本当に日本っぽい」とうれしそうに乗り込んだ。

 全国で人力車を展開する大手「えびす屋」。浅草店では外国人客がこの5年で2倍に増えるなど、慢性的な車夫不足に悩まされている。全店で計300人弱の車夫が在籍しているが、「あと50人増やしたい」(本部営業企画部)。外国人の車夫を採用したこともあるという。

 お客さんに任せた――。福岡市の「博多人力屋」の取り組みはユニークだ。人手不足で編み出したのが、何とお客さんに車夫になってもらう作戦。4人の団体が予約をした場合、2台の人力車が必要になるが、客の1人に車夫体験をしてもらえば、用意する車夫は1人で足りる。興味津々で車夫体験をしたいと名乗り出る人もいるそうだ。

 時代劇でおなじみのフクロウも足りない。

 フクロウカフェを運営するオウル・ファミリー(大阪市)。25羽がいる同市の本店には多い時で1日130人が来店し、このうち7割は外国人客だ。ストレスを与えないため1羽の「勤務時間」は1日2時間にとどめているが、勤務中は大忙し。あと5羽くらいはほしいとか。

 丸岡由佳社長は「最近は全国でフクロウカフェが続々と生まれ、このブームの一端を担っているのは間違いなく外国人客」と指摘。人気でフクロウの仕入れ値が以前に比べ1.5倍程度に跳ね上がっているという。

◇  ◇  ◇

■外国人の7割「侍はいまもいる」

 日本人が想像する以上に、忍者や侍に対する外国人の関心は高い。エジプト人のインジーさん(32)は「最初は侍が好きで、最近は忍者の素早い動作がカッコイイと思ってる」と話す。日本忍者協議会(東京・千代田)の忍者グローバル調査では、約50%が「忍者になりたい」と回答。侍については7割近くが「現在も存在している」(愛知県の調べ)とみる。

 もっとも、今は人気がうなぎ登りだが、はやりすたりは忍者のように早いもの。観光学が専門の跡見学園女子大学の篠原靖准教授は「外国人客一辺倒の対応になるのはリスク。日本人も楽しめるエンターテインメントとして育てていくことが必要」と指摘する。

 侍や忍者に萌(も)える日本人女性も少なくない。東京都内に住む石井真理枝さん(33)は「己の道を貫く侍魂が大好き」。人気ゲーム「刀剣乱舞」を始めたことをきっかけに刀に興味を持ち、地方の博物館にも刀を見に行くように。いわゆる、刀女子だ。

 8月中旬に東京ビッグサイト(東京・江東)で開かれた、漫画やアニメのファンが集まるイベント「コミックマーケット」。会場内には忍者のコスプレをした女性もちらほらいた。

 2020年東京五輪・パラリンピックに向け、外国人客はますます増加し、彼らは日本に古くからあるコンテンツの魅力を気付かせてくれる。「侍や忍者ってちょっとかっこよくない?」。工夫次第では、街中で若者からこんな声が聞こえてくる日もそう遠くないかもしれない。

(細川倫太郎、高尾泰朗)

[日経MJ2017年8月30日付]

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