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投機で仮想通貨拡大 取引所トップ「決済へ広がりを」 仮想通貨の実相(2)

2017/9/5

ビットコインキャッシュはビットコインが分裂し誕生した

 どんな市場でも発展過程では多かれ少なかれ、利益を貪欲に求めて駆け回る投機資金の力を借りる。ビットコインなどの仮想通貨も例外ではない。上場会社の子会社として初の仮想通貨取引所ビットポイントジャパンを運営するリミックスポイントの小田玄紀社長も「投機が99%」と認めたうえで、今後の市場拡大に期待を寄せる。仮想通貨市場の現状と将来性について聞いた。

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■分裂後もシステムは正常稼働

小田玄紀 2004年東大法卒。在学中に始めた事業の売却資金で投資活動を始める。12年にリミックスポイントに入社し、16年3月に仮想通貨取引所のビットポイントジャパンを立ち上げる。16年12月より現職

 ――8月初めのビットコイン分裂後の混乱は収束し、ビットコインや分裂で生まれたビットコインキャッシュ(BCC)の価格は大きく上昇しました。ビットコインのドル建て価格は5000ドルを一時超えています。

 「ビットコイン分裂後に口座開設が相次ぎ、新規会員数は分裂前の倍以上に増えた。比率は男性が9割と圧倒的で、女性は1割。30~50代が目立ち、20代がそれに続く。外国為替証拠金(FX)取引に慣れた投資家が多い」

 「分裂によってビットコインが使えなくなるのではないかとの不安はあったが、サービスを一時停止するなど適切な対応をとり、ブロックチェーン(仮想通貨の取引記録を分散して管理する仕組み)は分裂後も両方とも正常に稼働した。振り返れば分裂騒動は結果的にビットコインの基本技術の安定を示し、仮想通貨の投資に関心をもつ人が増えるきっかけになった」

■円相場膠着でFX投資家が食指

 ――ビットコインは価格変動が大きく、急落時には投資家の資産が大きく目減りするリスクもあります。

 「厚みがある他の金融・資本市場のようにいかないのはその通り。現段階では当社の取引の99%が投機目的だ。価格変動の大きさは収益機会の大きさととらえ、様々なリスクを理解したうえで、より大きなリターンを上げられる可能性に魅力を感じて参入している」

 「FX投資家が主な取引対象としている円の対ドル相場の方向感がここにきて薄れ、2017年の前半に比べてFXでの収益積み増しが難しくなっているのも仮想通貨の需要拡大の背景にあると思う。運用額を投資額の何倍にも膨らませる『レバレッジ』取引について参加できる投資家に制限を設けているが、レバレッジなしの現物取引については、保有量なども含めて制限はなく、現段階で検討もしていない」

■7割が買い、3割が売り

 ――取引にはどんな傾向がみられますか。

 「だいたい7割が買い、3割が売りから参入する。上昇過程で価格がちょっと調整したときのいわゆる『押し目買い』ニーズは特に強い」

 「新規に口座を開設する人のうち、7~8割は仮想通貨の初心者だ。取引額は拡大傾向で、16年末くらいまでは10万円くらいからスタートするケースが多かったが、直近では個人で何千万円、何億円と買う人もいる。専業の個人投資家も現れた」

 ――為替市場ではコンピューター経由の自動取引「アルゴリズム」の存在感が強まっています。

 「仮想通貨のディーリングでも最近では簡単なアルゴ・プログラムを使い、ビットコインの価格が設定水準まで下がったら買い、上がったら売りといった仕組みにして取引する投資家が出てきた。0.1ビットコイン単位で売買を繰り返し、1日で1500ビットコイン分もの取引をすることも珍しくない。今後、仮想通貨の世界でもアルゴを駆使する投資家は増えそうだ」

■18年3月以降に決済サービス本格化

 ――小売店舗での活用など決済ツールとしての将来性はどうみていますか。

 「導入準備を進める企業や店舗は多い。来年の3月以降くらいからは決済サービスの展開が本格化しそうだ。宿泊施設やアパレル、車など単価が高めの項目で、決済手段として普及するのではないか。現在はまだ投機マネー主導の市場がこの先、ショッピングの決済や海外送金といったふだんの生活をよりよくしていくための『実需』に広がり、市場が活性化していくのが理想だ」

 「決済サービスの拡大に向けては、現行の資金決済法で9月末までと定められている仮想通貨の販売・交換業者の登録手続き完了を提携の条件とする企業が少なくない。登録申請を重要課題として取引システムの強化などに注力し、8月10日に申請書を提出した」

■国内取引所は5つぐらいに淘汰

 ――仮想通貨の取引所はかなり増えていますね。いずれ淘汰されていくのでしょうか。

 「登録申請すること自体が難しく、現状では大手でも申請できていないところがあると聞く。どうやって申請したらいいか問い合わせを受けるほどだ。小さいところを含めると現在、国内には30程度取引所があるが、いずれは5つくらいに絞られるのではないか」

 「国内での競争激化を見込んで香港などアジアの証券会社やFX会社と提携している。複数の取引所の注文を集めて『リクイディティ・プール』と呼ばれる仕組みも作っている。今後、取引プラットフォームの提供を通じた海外展開も強化する予定だ」

【解説】

 ビットポイントがウェブサイトで提示するビットコイン円建て価格の売値と買値の差(スプレッド)は8月29日の13時時点で1000円程度(ドル建て換算で9ドル程度)。時間帯によっては2000円(18ドル程度)を大きく超えることもある。そんなときに売り買いどちらかに傾きが生じれば相場はあっさりと2000円動くわけだ。

 半面、外国為替証拠金(FX)取引における円の対ドルスプレッドは0.3銭程度ときわめて狭い。適度なスプレッドは仲介会社の経営を安定させるが、外為の銀行間(インターバンク)市場のような厚みがない仮想通貨市場では、まとまった規模の注文が続いたときの振れ幅はおのずと大きくなる。

 仮想通貨で時価総額1位のビットコインでさえ貿易決済や海外送金での利用がすぐ広がるとは考えにくい。市場で自由に取引できる体制(流動性)を法定通貨に近づけるには、投機マネーの呼び込みと法整備を急がざるを得ない。

 外為市場ではかつて、主要な金融機関のディーラーが売り買い双方の注文を出す「マーケット・メイク」業務を手掛け、投資家が自由に取引できる「流動性」(リクイディティ)を供給した。2008年のリーマン・ショックをへて銀行などにリスク管理の制約がきつくなると、アルゴリズムの一種であるHFT(高頻度取引)がマーケットメイクで存在感を示す。だが、金融機関に比べて体力が劣るHFTアルゴは突発的なイベントにきわめて弱い。

 15年1月の「スイス中央銀行ショック」や16年6月の英欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)決定後などにHFT勢はまったく流動性を提供できなかった。為替のインターバンク市場でさえこうなのだから、歴史の浅いビットコインやイーサリアムの市場を安定させるのは容易でない。

 HFT以外のアルゴはプログラムの指令通り、おおむね一本調子に注文を執行していく。あるシステム会社の社長は「欧米ヘッジファンドなど『大勝負』を仕掛ける投機筋の用途に耐えるプログラムが仮想通貨用にも出ている」と話す。ファンドのアルゴ経由の巨額マネーが市場をかき回し始めると混乱は深まる。

 ビットポイントは複数の取引所と連携して値付け率を高める「リクイディティ・プール」を提唱するが、課題は多い。市場拡大に伴って必要な流動性は増すからだ。リミックスの小田氏が「5つ程度に絞られる」と予想する取引所の整理・統合は、体力の弱いところが市場の健全育成の足を引っ張るリスクを抑えるとともに、流動性強化の観点でも「待ったなし」かもしれない。

〔日経QUICKニュース(NQN) インタビュー=尾崎也弥、解説=編集委員 今晶〕

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 「仮想通貨の実相」はビットコインやイーサリアムの取引現場での最新トピックや関係者の発言を紹介します。掲載は不定期です。

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