投資のワナを避ける知恵 損切り素早く、利食い急ぐな相場観を持って売り時を判断

買った株式が値下がりして損失が膨らんでいるのに、いつまでも売れずに持ち続けてしまう――。投資で陥りがちなワナの典型が損切り(損失限定の売り)の先送りです。その理由を解き明かしてくれるのが、心理学を経済分野に応用した「行動経済学」です。その理論から、投資にのぞむ際に必要な心構えを考えてみましょう。

図は、人間の心理と投資の損益の関係性をイメージしています。後にノーベル経済学賞を受賞した米ダニエル・カーネマン氏らが、1979年に発表したプロスペクト理論を基にしています。

図を見ると、損したときの悲しみ(A)は、得したときの喜び(B)よりも大きいことがわかります。人は受けたショックがあまりに大きいと現実から目を背けたくなり、「損切りを先送りする傾向がある」と説明されます。

もうひとつ見てとれる心理があります。損失がどんどん膨らんでいくと今度は、それほど悲しみが深まらなくなっていきます。次第に損失に鈍感になっていく傾向です。こうなると、ずるずると損切りの時機を逸しかねません。

傷つきたくないという心理は、利益の場面でも投資行動に影響します。買った株式が少しでも値上がりすると、すぐに利食い(利益確定の売り)をしがちです。そのままにして損失に転じる事態だけは受け入れがたいためです。

日本の株式市場には古くから「利食い急ぐな、損急げ」「見切り千両」という言葉があります。こうした格言も、売り時を見極める難しさを投資家に教えてくれます。

投資家が意識しておきたい人間心理をもうひとつ紹介しましょう。動物の群れを意味する英語に由来する「ハーディング現象」です。人は安心を得たいがため、周囲の人々に同調したり他人の行動に追随したりしがちです。羊の群れのうち1匹が左の方角に向かうと、群れ全員が同じように左へ向かうイメージです。

投資の世界でもこの現象はたびたび起きます。米国では2006年ごろから株価が上昇を続けていました。当時、プロの多くは、後に金融危機を招くサブプライムローン問題に気付いていました。それでも、「音楽が鳴っている間は踊らなければならない」とばかり、危うい投資競争から降りられませんでした。

08年秋、大手証券会社の破綻を機にバブルはついにはじけ、株価は暴落しました。相場が上がり続けるという根拠もないのに、群集心理に陥り、投資を続ければ、後に大きな痛手を被りかねません。

法政大学の真壁昭夫教授は「心理に縛られて合理的に判断できなくなるのが人間」と話します。だからこそ、その心理を理解し、対処法を考えたいものです。「周囲に流されず、自分の相場観を持って売りどきを判断する必要がある」のです。

最近、米国株は本来の実力に比べて買われすぎとの指摘が出ています。日経平均株価は軟化する場面がみられます。北朝鮮の弾道ミサイル発射問題もあり不安を感じる投資家もいるでしょう。自分の心の持ちようを冷静に見つめ、正確な情報や知識を基に判断する姿勢が求められます。

[日本経済新聞朝刊2017年8月26日付]

近づくキャッシュレス社会
ビジネスパーソンの住まいと暮らし