飲み続けたいならまず禁煙 がんのリスクたばこが助長

日経Gooday

お酒を飲む際は、タバコが欠かせないという人も少なくないだろう。お酒とタバコをセットにすると、がんのリスクはどうなるのだろうか(c)Katarzyna Bialasiewicz-123rf
お酒を飲む際は、タバコが欠かせないという人も少なくないだろう。お酒とタバコをセットにすると、がんのリスクはどうなるのだろうか(c)Katarzyna Bialasiewicz-123rf

2020年の東京オリンピックを控え、喫煙問題が改めて注目されている。喫煙が、がんをはじめとした様々な病気の原因になることは広く知られている。一方で、お酒の飲み過ぎが体に悪いことも繰り返し紹介してきた。では、タバコと飲酒の2つが重なるとどうなるのだろうか。がんになる危険性が一層高まるといったことはないのだろうか。酒ジャーナリストの葉石かおりが、日本のがん研究の総本山である国立がん研究センターに取材して話を聞いた。

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タバコと酒、ダブルになったときのリスクは?

昔と比べ、今はだいぶ少なくなったものの、左党には喫煙者が案外多い。現に新橋あたりの渋い居酒屋に行くと、タバコの煙で視界が曇るほどである。実際、「お酒を飲むときはタバコも吸わずにはいられない」という左党の読者も少なくないだろう。

私的なことだが、実父は喫煙が主な原因のCOPD(慢性閉塞性肺疾患)で他界していることもあって、個人的にはタバコの煙がもくもくの中での飲酒は苦手である。タバコはアルコール同様、嗜好品なので、個々が楽しむ分には問題ないと思っている。しかし以前から問題視されている受動喫煙の被害を考えると、クリーンな空気の中で心おきなく酒をおいしく飲みたいと思う。国でも2020年の東京オリンピックを前に、受動喫煙防止の法整備の議論が交わされている。国レベルでの対策となると、気にせずにはいられない。

タバコが体に悪影響をもたらし、がんをはじめとした様々な病気の原因になることは、論をまたないところだと思う。また、飲酒も適量以内ならいい影響もあるとはいえ、飲み過ぎが体に悪いことは、これまで記事で幾度となく紹介してきた。では、タバコと飲酒の2つが重なるとどうなるのだろうか。

実際、私の周囲の左党で、かつ喫煙する人の中には、がんに罹患した人が何人かいる。このため、私はかねがねタバコと飲酒の因果関係を疑っていた。それぞれ単独ではよくないことは分かっているが、ダブルになるとリスクがより高まるのではないだろうか。具体的には、タバコががんの原因になることは周知の事実だが、飲酒によってその危険性がより高まるのではないだろうか。

そこで今回は、国内におけるがん研究の総本山ともいえる国立がん研究センターで、がんや慢性疾患の疫学研究や大規模コホート研究[注1]を手がけてきた、社会と健康研究センター コホート連携研究部部長の井上真奈美さんに、タバコと飲酒のコンビによるリスクについて話を伺った。

タバコは百害あって一利なし

まずは、タバコのがんへの影響を改めて井上さんに確認してみた。

「タバコにはニトロソアミン、ヒ素、カドミウムといった発がん物質が約70種類含まれています。このため、肺がん、咽頭・喉頭がん、胃がん、食道がんなど、さまざまな部位のがんの発症リスクを確実に高めます」(井上さん)

国立がん研究センターでは、日本人のがんと生活習慣との因果関係の評価を行っている。国内外の最新の研究結果を基に、全体および個々の部位のがんについてリスク評価を「がんのリスク・予防要因 評価一覧」としてホームページで公開している。最も信頼性が高い評価から順に「確実」→「ほぼ確実」→「可能性あり」→「データ不十分」となっている。

国立がん研究センターの「科学的根拠に基づく発がん性・がん予防効果の評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究」の「エビデンスの評価」の一部。喫煙(タバコ)の影響は、一番上の欄に表示されている(国立がん研究センターのホームページより一部抜粋)

「タバコとがんの罹患については、全がん、肺がん、肝がん、胃がん、食道がん、膵臓がん、子宮頸がん、頭頸部がん、膀胱がんの発症リスクの信頼性が、最も高い『確実』と評価されています。他の部位のがんについても、乳がんや大腸がんが『可能性あり』となっており、リスクがあると考えられます。そう、タバコは百害あって一利なしなのです」(井上さん)

百害あって一利なし――。

ある程度予測できたこととはいえ、ここまでハッキリ断言されると、改めてその怖さがよく分かる。実際、上のがんのリスク評価の表を見ても、信頼性が「確実」である濃い茶色の欄が、圧倒的に多いのが「喫煙」であることがよく分かる。さらに井上さんはこう続ける。

「世界的には、今は、タバコにはどういった健康への害があるかを研究する段階を脱し、『どうやってタバコのない環境を実現するか?』という『対策』のフェーズにあるといえます。言い換えれば、それほどタバコによる健康被害は甚大で、確実に体に影響があるということです」(井上さん)

喫煙リスクをはっきり示されると、周囲の愛煙家に禁煙を勧めたくなる。では、ここに飲酒によるリスクが加わると、どうなるのだろうか。

[注1]特定の集団(コホート)を対象として長期的に経過を追跡する調査手法のこと

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飲酒とタバコを同時進行させると、がんのリスクが2倍