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薬物、酒、ギャンブル… 脳科学で克服する「依存症」

日経ナショナル ジオグラフィック社

2017/9/3

ナショナルジオグラフィック日本版

コカインの元常用者の脳画像を分析するアナ・ローズ・チャイルドレス教授。コカインの画像を0.033秒間だけ見せるという、意識にのぼらない刺激でも、脳の報酬系が活性化する。(Max Aguilera-Hellweg/National Geographic)

 薬物依存症を電磁波で治療するお医者さんがいるんだって――母親にそんな話を聞かされても、パトリック・ペロッティは鼻で笑うだけだった。イタリアのジェノバに住む38歳のペロッティは、17歳のときにコカインに手を染めた。しだいに常用するようになり、ついにはコカイン欲しさに生活のすべてを犠牲した。恋をして息子が生まれ、レストランを開店したが、依存症のせいで家庭生活も商売も破綻した。

 母親に説得され、ペロッティがその医師に電話すると、治療の内容を説明してくれた。自分は座っているだけでいいという。医師のルイジ・ガリンベルティが頭の左側に装置を近づけて刺激を与えると、コカインに対する欲求が収まる――少なくとも理論的にはそうした効果が期待できるとのことだった。

 精神科医のガリンベルティは、依存症の治療を30年間行ってきた。従来の治療の限界を痛感していた彼は、ここ数年で目覚ましく進んだ依存症の研究にヒントを得て、「経頭蓋磁気刺激法」(TMS)による治療を試みている。

■磁気の刺激で治療

 近年の研究で、依存症者の脳内では欲求、習慣の形成、快楽、学習、感情の制御、認知に関わる神経ネットワークとその働きが妨げられていることがわかってきた。脳がもつ驚くべき可塑性(柔軟に変化できる性質)があだとなり、依存症に陥ると神経回路が変わって、薬物やアルコールを最優先するようになってしまう。

 「依存症は病的な形での学習ともいえます」と、米国立薬物乱用研究所(NIDA)の神経学者アントネッロ・ボンチは話す。

 ボンチ率いるNIDAと米カリフォルニア大学サンフランシスコ校の合同研究チームは、コカインを求めるようになったラットのニューロン(神経細胞)の活動電位を測定し、行動の抑制に関わる領域が異常に不活発になっていることに気づいた。試しにこの領域のニューロンを活性化させてみると、コカインにほとんど興味を示さなくなったという。人間の脳の前頭前皮質にある行動抑制に関わる領域を刺激すれば、薬物を求める激しい衝動を抑えられるかもしれないと、ボンチらは論文に書いている。

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