検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

NIKKEI Primeについて

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

/

震災被災者の認知症 住宅被害や社会的結びつきが左右

詳しくはこちら

NIKKEI STYLE

日経Gooday(グッデイ) カラダにいいこと、毎日プラス

全国のおよそ20万~30万人の高齢者を対象にしたJAGES(Japan Gerontological Evaluation Study,日本老年学的評価研究)プロジェクトでは、健康状態に影響を及ぼす様々な社会・環境要因について調べている。そのうちの一つ、宮城県岩沼市での定点調査で、東日本大震災の前と後の高齢者の認知機能の変化について調べた。その結果、住宅の全壊は脳卒中や歩行時間の変化と同等以上に認知機能低下の大きなリスク要因であることや、「社会的結びつき」を持つことが認知症予防に効果があることが明らかになった。

「住宅の全壊」は認知機能悪化のリスクを最も高める

JAGESは健康長寿社会のための予防政策の科学的基盤づくりを目標とした研究プロジェクトで、全国の大学、国立研究所などの30人を超える研究者が、全国39の市町村(2016年の調査時)と共同し、ほぼ3年ごとに各地で高齢者を対象とした調査を行っている。

同プロジェクトでは、たまたま2010年8月に宮城県岩沼市で、全高齢者を対象に暮らしに関する調査を行っていた。東日本大震災の7カ月前のことである。その後、2011年3月11日の東日本大震災で、海に面した岩沼市は大津波に襲われ、大きな被害を受けた。それまで住んでいた所を離れざるを得ない住民も多数いた。

そして、震災後2年半がたった2013年10月、同プロジェクトの一環で、ハーバード大学公衆衛生大学院リサーチ・フェローの引地博之氏は、岩沼市の同じ高齢者の認知機能の調査を実施した[注1]。「被災の経験が認知機能低下と関係しているかどうか」を調べたのである。調査対象3566人の高齢者のうち38%が災害で親戚や友人を失っており、59%が浸水や構造的損傷など何らかの住宅被害を受けていた。また、震災前に認知症の判定を受けていた回答者は4.1%だったが、震災後は11.5%まで増加していた。

この2013年の調査で、「認知機能の低下」と「住宅の被害」の間には統計的に有意な関連性が見られた。つまり、住宅が全壊した高齢者は、住宅被害がまったくなかった高齢者に比べ、認知機能が低下しやすいことが示されたのだ。

引地氏は、「住宅の全壊は、歩行時間、脳卒中の発症、年齢、世帯所得、高血圧、糖尿病、高脂血症、飲酒、喫煙といった認知機能に与える様々な影響を差し引いても、それ自体が認知症発症の大きなリスク要因であったことが分かりました。住宅が全壊した人は、生活基盤を失ったうえ、慣れない環境への転居を余儀なくされたり、うつ症状を発症することで、認知症が発症したり悪化したりした可能性が高いと考えられます」と分析する。

「社会的結びつき」が認知症の進行を緩和

引地氏らは次に、「被災地での認知機能低下を防ぐ方法はないか」という視点で、引き続き同じデータを基に、「震災前に比べて社会的結びつきが改善した人は、住宅被害が認知機能に及ぼす影響が小さいかどうか」を検証した[注2]。その結果が2017年7月に発表された。その内容を一言で言うと「震災前に比べて社会的結びつきが改善した人は、住宅被害によって引き起こされた認知症の悪化が緩和されている」ということだ。

[注1]Hikichi H,et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2016;113(45):E6911-E6918.

[注2]Hikichi H,et al.The Lancet Planetary Health. 2017;1(3):E105-E113.

3560人の「震災前」の社会的結びつきのデータがあるので、それを基準にまず、震災後に「社会的結びつきが悪化した人」と「改善した人」に分けた。図1を参照してほしい。これが今回発表された研究結果だ。縦軸は震災前と後の「認知症度」(後述する8段階)の変化(震災後マイナス震災前)で、横軸は住宅被害の程度(被害なし~全壊)、赤線は震災後に社会的な結びつきが弱くなった人、青線は震災後に社会的な結びつきが改善した人の結果を示している(住宅被害がない人でも平均して1点程度は認知症度の得点が増加している)。

「認知症度」を測る尺度には、介護保険データの認知症自立度(1:症状なし~8:専門医療を必要とする状態の8レベルで重症度を判定)を使用、「社会的な結びつき」を測定する尺度としては、友人や知り合いに会う頻度(1: 会っていない~6: 週4回以上)、1カ月の間に会った友人・知人の人数(1: いない~5: 10人以上)、スポーツクラブに参加する頻度、趣味の会に参加する頻度(ともに、1: 参加していない~6: 週4回以上)などを尋ね、これらの平均値を算出した(最大で約6点)。

図1から分かるように、震災前に比べて社会的な結びつきが弱く、かつ住宅被害が大きい人は、認知症度の悪化が顕著だったのに対し、震災後に社会的な結びつきが改善した人は、住宅被害が大きくても認知症度の悪化が抑制されていることが示された。

「解析結果から、震災前後を通して社会的結びつきを完全に喪失した人は、住宅被害による認知症度得点が約0.24点増加したと推計され、それを脳卒中の発症(0.16点)やうつ症状の発症(0.10点)と比較すれば、社会的結びつきの喪失と住宅被害の相乗効果はより大きいということになります」と引地氏は説明する。

「この研究から、住宅の損壊を経験しても、震災前に比べ社会的結びつきが改善した人は、認知機能に及ぼす影響が小さいことが示されました。震災前に行われていた地域の防災活動や、震災後に仮設住宅で催された住民同士の交流を促すイベントなどを通して社会的結びつきが強まり、それによって認知機能の悪化が抑えられたと考えられます」(引地氏)

被災地に限らず、「社会的な結びつき」は有効

実は引地氏は、JAGESプロジェクトの一環で、この研究よりも前に、愛知県武豊町でも社会的結びつきと認知症の関係について調べている。

武豊町では2007年5月から、高齢者の介護予防を目的とした「憩いのサロン」の事業が進んでいる。このサロンでは、高齢者が、軽い体操、おしゃべり、すごろくなどのゲーム、幼稚園児との交流といった様々なプログラムに参加することができる。2013年までに町内に10カ所のサロンが設置されている。

そこで引地氏らは、「憩いのサロン」に参加することが認知症の発症を予防するかどうかを探るべく、武豊町の高齢者約2600人を2006年から2013年の7年間追跡した。サロンに来ている人と来ていない人で、認知機能の低下のスピードが違うのではないかという視点である。

その結果、加齢によって認知症発症のリスクは高まるものの、サロンに多く参加した人は認知症の発症リスクが3割減になることが判明(図2)。「地域で高齢者の社会的結びつきを促す交流の機会づくり・社会参加が、認知症予防に有効」ということが示唆された。

そして、今回の宮城県岩沼市における研究結果によって、認知症を予防、抑制するうえでの「社会的結びつき」の大切さが、被災地でも確かめられた形だ。

「今回の研究で、住宅を失うほどの大きな被災を経験した人であっても、社会的な結びつきを改善することで、認知機能の悪化を抑制し得ることが示唆されました。震災の被災地では、被災者の社会的な交流を促す様々な取り組みが進められてきましたが、愛知県武豊町で実践されているようなサロン活動は、震災の被災地でも、認知症の発症を予防する取り組みとして有効である可能性があります」と引地氏は話す。

引地博之さん
 ハーバード大学公衆衛生大学院リサーチ・フェロー。東北大学大学院文学研究科(心理学)にて博士号取得後、日本福祉大学健康社会研究センター主任研究員、千葉大学予防医学センター特任助教を経て現職。東日本大震災被災地での健康調査研究に従事するとともに、愛知県武豊町で実施している介護予防を目的とした「憩いのサロン」プロジェクトの評価研究にも携わっている。

(ライター 金沢明)

春割ですべての記事が読み放題
有料会員が2カ月無料

有料会員限定
キーワード登録であなたの
重要なニュースを
ハイライト
登録したキーワードに該当する記事が紙面ビューアー上で赤い線に囲まれて表示されている画面例
日経電子版 紙面ビューアー
詳しくはこちら

ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
春割で無料体験するログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
春割で無料体験するログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン

権限不足のため、フォローできません

ニュースレターを登録すると続きが読めます(無料)

ご登録いただいたメールアドレス宛てにニュースレターの配信と日経電子版のキャンペーン情報などをお送りします(登録後の配信解除も可能です)。これらメール配信の目的に限りメールアドレスを利用します。日経IDなどその他のサービスに自動で登録されることはありません。

ご登録ありがとうございました。

入力いただいたメールアドレスにメールを送付しました。メールのリンクをクリックすると記事全文をお読みいただけます。

登録できませんでした。

エラーが発生し、登録できませんでした。

登録できませんでした。

ニュースレターの登録に失敗しました。ご覧頂いている記事は、対象外になっています。

登録済みです。

入力いただきましたメールアドレスは既に登録済みとなっております。ニュースレターの配信をお待ち下さい。

_

_

_