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意外に筆まめだった談志師匠 当時最速のレスポンス

立川談笑

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NIKKEI STYLE

どうやら近ごろは「手紙」って書かないんですよねえ。「年賀状」をテーマにしたとき、気づいたはずだったのに。またしても気の毒なテーマを弟子たちに押し付けてしまったのかなあ。と、もやもやしています。ってなわけで、これから手紙について、つらつらと書きつづってみます。まずは落語に登場する手紙の話から。

古典落語で手紙が大きな役割を果たしているものといえば、「文違い(ふみちがい)」でしょう。舞台は新宿の岡場所です。女郎が隠していた手紙を客に読まれてしまうことで、話が大きく展開します。現代とはずいぶんかけ離れた世界の話のようですが、大事なメールを絶対に送ってはいけない人に送信してしまった……と考えると、スリリングな状況が分かる気がしませんか。

昔は無筆といって字が読めない、書けないなんて人はいくらもありまして……と始まる落語、「手紙無筆」があります。

字が読めない八五郎。おじさんから届いた手紙を読んでもらおうと、兄貴分を訪ねます。ところが日ごろは博識ぶっている兄貴分も、実はまるで字が読めない。知ったかぶりをしたまま手紙を解読することになります。

「えー、拝啓。謹啓。前略。前文ごめんくだされたくそうろう。しからば……。どうだ。この中から好きなのを選べ」

「おかしな手紙だねえ」

「おまえ、最近そのおじさんに会ったりしなかったか?」

「そうそう。この間、広小路の角でばったりと会いましたよ」

「そうだ。ほうら、書いてあるぞ。『この間、広小路の角でばったりと会ったっけな、ござそうろう』」

「なぁんだいそりゃ」

手紙独特の古めかしい言葉がたくさん登場します。こういう軽いネタをさらっと演(や)れる落語家にあこがれます。

手紙を読むシーンを念入りに演じるのが「天災(てんさい)」。扇子の骨を数本開けた状態が、封筒。上を破って、フッと封筒の中に息を吹き込み、手紙を取り出す。巻いてある紙を開く(扇子を広げる)。そして文面を読みながら、

「おお、はいはい。聞いておりますですよ、はい。ふむ、なるほど。うーん。いかん。うっはっは。これはいかんな。はっはー、なるほど」

と、この手紙を読むシーンでは、間合い、目つき、表情で客席から大きな笑いが起きるところです。字で書いても、ぜんぜん伝わりませんねえ。

そろそろ落語の話は切り上げましょう。最後にひとつだけ。「女給の文(ふみ)」、別名「ラブレター」なんてのもあります。

「へそかいくて。へそかいくて?」

「いそがしくて」

「べつだん、へそなめた」

「ぶつだんへ、そなえた」

手書きの文字が下手すぎることからくる読み間違いが楽しい一席です。

 話変わって。師匠談志は筆まめでした。お中元、お歳暮をはじめ何かいただき物をしたり、世話になった人には、すぐに手紙やはがきを書く。あの立川談志から直筆の手紙が届くのですから、相手はとても喜びます。千社札も貼ってあります。世間一般に傲慢なイメージもありましたから、初めて手紙を受け取った人はそのギャップに驚きもしたでしょう。

前座のころ、「これ、切手を貼って出しといてくれ」と預かったはがきを見るたびに、ずいぶんマメな人だなあと感心したものです。

私の記憶では万年筆を使うことが多かった。達筆ではないけれども、味わいのあるいい字です。親交があったイラストレーター、山藤章二先生の影響かと思ったり。

また手紙上の言葉遣いは、あくまで丁寧です。別人かと思うくらいに丁寧。そして、よく文末に添えていた言葉が、「感謝デス」。ここだけカタカナ。照れがありながらも素直な感謝の気持ちが伝わるというか。あのフレーズが好きで、私もまねしています。

ただちょっと変わっていたのは、使うはがきや便箋です。鳩居堂で買ってくる立派なもの……ではなくて、どこかでタダでもらってきたものを利用していました。タダでもらえるはがきって、意外とあちこちにあるんです。ホテルに泊まると、客室のデスクに必ず備えてありますよ、便箋や封筒が。あれをそっくり持ってきちゃう。あるいは飛行機に乗ったときには、航空会社の絵はがきをもらってくる。

その結果どうなるかというと、そうめんを贈っていただいた御礼の手紙が、なぜか唐突にジャンボジェットのコックピットの絵はがき。そんな事態になったりして。うーん、あれはまねできません。面白いけど。

「礼状はすぐに出せ」とは、よく弟子たちが言われたことです。実際、若いころの師匠のエピソードとしてこんな話が伝わっています。

スーツの内ポケットには、常にはがきが準備されている。差出人としての自分の住所氏名はもちろん、なんと文面までも、すっかり書いてあるのです。「このたびは不徳の致すところで……」と謝罪をしたためたものが右ポケット。左ポケットには「大変お世話になりありがとうございます」と御礼を書いたもの。そして、たとえばどこか訪問先を出たらすぐその場で、もらったばかりの名刺から宛先を書き写してポストに投函(とうかん)する。すると翌日、相手に丁寧な御礼のはがきが届く。相手、驚いて喜ぶ、と。当時としては最速のレスポンスだったはずです。

天国の師匠へ。どれほど早く手紙を書いたとしても、それをうっかりした弟子に預けることによって、投函が数日も遅くなってしまうことがあったのはご存じでしたか。

 ◇   ◇   ◇

次回テーマは「困った話」。笑二から、たのむぜ!

(次回9月3日は立川笑二さんの予定です)

立川談笑
 
1965年、東京都江東区で生まれる。海城高校から早稲田大学法学部へ。高校時代は柔道で体を鍛え、大学時代は六法全書で知識を蓄える。93年に立川談志に入門。立川談生を名乗る。96年に二ツ目昇進、2003年に談笑に改名。05年に真打昇進。古典落語をもとにブラックジョークを交えた改作に定評がある。十八番は「居酒屋」を改作した「イラサリマケー」など。

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