ネコが人の口をふさぐ理由 イヌが人の妊娠を悟るワケ
筆者の家で飼っている9歳のアメリカンショートヘアの「ワサビ」は、前脚でこちらの口をふさぐことがある。もしかするとワサビは、私に黙れといいたいのだろうか?
米ペンシルベニア大学の獣医で動物行動学者のカルロ・シラクーサ氏によると、もしそうであれば、ワサビは「ちょっと近づきすぎ」とでも言うように、体を使ってこちらを押しのけるはずだという。
ネコの行動に詳しい英ブリストル大学のジョン・ブラッドショー氏が言うには、おそらくワサビはじゃれているつもりで口をふさいでくるのであり、その原因は私か、あるいは以前の飼い主の反応にあるのだそうだ。また、子猫は前脚で人をちょんちょんとつついて遊びに誘うこともあるとシラクーサ氏は言う。
人間と同じように、ネコにも身に付いた習慣というものがあり、こちらの口をふさぐという行動には、何の悪意もないという。
それでも、もしこれを本当にやめてほしくなった場合には、いちばんいい対処法は無視することだそうだ。
イヌはなぜ人の妊娠がわかるのか
ナショナル ジオグラフィック誌のライター、キャサリン・ザッカーマン氏は、飼い犬であるコトン・ド・テュレアール種の「ズッコ」について不思議に思っていることがある。
ザッカーマン氏が妊娠してから、なぜかズッコが子ども部屋でおしっこをするようになったのだ。もしかするとズッコは、彼女の妊娠に気づいたために行動を変えたのだろうか。
彼女はまず獣医のところへ行き、ズッコに尿路感染症などの病気がないかどうかを確認すべきだと、シラクーサ氏は言う。
もし健康に問題がなければ、ザッカーマン氏が妊娠したことで起こっているホルモンの変化をズッコが感じ取り、その反応として、普段とは違う行動に出ている可能性も考えられる。たとえば、飼い主がホルモン療法を始めると、イヌがいつもとは違う行動に出る例はあるそうだ。
イヌは嗅覚が鋭いだけでなく、非常に感覚が鋭く、いずれにしろ人間の行動や習慣の変化にもすぐに気づく。そう語るのは、スイス、ホルゲンの応用動物行動学・動物心理学研究所のデニス・ターナー氏だ。(参考記事:「イヌが人懐こくなった理由 遺伝子変異でオオカミと差」)
たとえば子ども部屋を作るために家具を動かすといった一見ささいなことでも、イヌの日々の習慣を妨げ、ストレスの原因になることがある。こういった反応は「人間の子どもに見られる嫉妬と似たようなものです」とターナー氏は言う。(参考記事:「犬は人に『戦略的なウソ』をつく 実験で証明」)
シラクーサ氏が勧めるのは、ペンシルベニア大学獣医学部ライアン動物病院が公開している、赤ちゃんが家族に加わる変化にペットをうまく対応させるためのヒント集だ。対処法の例としては、毎日普段より少しだけ多くイヌにかまってあげる、ベビーベッドなどの新しいものは、赤ちゃんが来るよりもかなり前から用意しておく、といったものがある。
ネコが喜ぶはずの植物に反応しない理由
最後にもうひとつ、ネコについての疑問を解決してみたい。キャットニップ(イヌハッカ)はマタタビのようにネコを喜ばせる植物だが、中にはこれにまったく反応を示さないネコもいる。それはなぜだろうか。
シラクーサ氏によるとその理由は、一部のネコは、キャットニップに含まれるネコを夢中にさせる物質「ネペタラクトン」を感知するための遺伝子を持たないからなのだそうだ。(参考記事:「ネコは自ら人間と暮らし始めた? DNA分析で判明」)
ブリストル大学のブラッドショー氏は、ストレスを感じているネコや、神経質になっているネコも、キャットニップには反応しないと語る。
トラからイエネコまで、ネコの仲間はすべてキャットニップに反応を示すため、この反応は今から少なくとも1100万年前の、現代のあらゆるネコ科動物たちの祖先が中央アジアに現れた時代に獲得したものだという。
その理由として考えられるのは、キャットニップには昆虫を寄せ付けない効果もあることから、キャットニップの中でゴロゴロ転がるという行動が、ノミなどの寄生虫を追い払うために定着したというものだ。
ネコはキャットニップに対して反応する唯一の動物であり、ネペタラクトンの脳受容体を持っている動物はネコだけという可能性もあるとシラクーサ氏は言う。
(文 Liz Langley、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2017年8月23日付]
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