
山肌に沿う幾何学模様や海とのコントラストが四季折々の表情を見せる。
実りの季節を前に、フォトジェニックな棚田をランキングした。
傾斜地が多い日本には、各地に棚田の風景がある。特に小さな田んぼが規則的に集積する場合は「千枚田」と呼ぶ。英語では「ライス・テラス」といい、稲作が盛んな国の景観として世界的にも認知されている。
地形に合わせたコメ作りの知恵が生んだ美観だ。棚田の研究者として知られる中島峰広・早稲田大学名誉教授は「見た目の美しさこそが魅力」と話す。「平地の田んぼは写真で見てもどの地域かすぐにはわからないが、棚田はその形状を見ればすぐにわかる」。だからこそ、観光地として人気が高まっているのだろう。
ベスト3は北信越だった。1位は唯一、選者10人が全員選んだ。四季に応じて色が鮮やかに変化し、人工物が写らない広大な里山の景観が望める。2位は日本海が間近に迫る絶景が見下ろせ、観光客を集めている。3位は水面に映る月が美しい「お月見スポット」としても知られる。
過疎化で農家が減るなか、地域の保存会が景観を支えている例も多い。9月には全国200を超える棚田の情報を載せた「全国棚田ガイド TANADAS」(NPO法人棚田ネットワーク編)も発売される。日本らしい景観を堪能できる各地の棚田を、外国の人にも訪ねてもらいたい。
人工物なく圧倒的スケール(新潟県十日町市)
棚田が多いことで知られる十日町市でも最も広い。東京ドーム6個以上の広さに約200もの田んぼがすり鉢状に並び、圧倒的なスケール感を誇る。広大なのに家や道路などの人工物が見えないのも特徴。「雲海が出現することが多い早朝は幻想的だ」(岩佐十良さん)。NHK大河ドラマ「天地人」のタイトルバックにもなった。全景が見下ろせる南側の展望台は撮影ポイントになる。
稲刈り後にも田に水を張るため、空を映し出す「水鏡」が寒い時期でも見られる。若葉、深緑、紅葉、銀白と四季ごとに色が変わり、「棚田の向こうに連なる山々も美しく見飽きない景色」(西村りえさん)が望める。「何度訪れても違う写真が撮れるのでリピーターが多い」(青柳健二さん)
コメの質も高い。棚田で育ったコシヒカリは全国最高級の魚沼産ブランドだ。
(1)ほくほく線「まつだい駅」からタクシーで約20分(2)電話025・597・3000(十日町市観光協会まつだい事務所)
迫る日本海の波しぶき(石川県輪島市)
国の名勝に指定され、世界農業遺産「能登の里山里海」を代表する棚田。「足元から海岸まで、1004枚の狭小な水田が見渡す限り連なっている姿は壮観の一言」(大下孝枝さん)
海と棚田が一緒に撮影できるのは、国土が狭い日本独特の景観だ。あぜが遊歩道になっているので田んぼの中を歩ける。お盆の時期は、外国人を含む観光客でにぎわった。隣接する道の駅では、棚田米で作ったおにぎりを味わえる。
日本海の波しぶきが田んぼにかかるほど迫る。「北国の厳しい風土に対峙した人々がしのばれ、冬季にも訪れたい」(酒井英次さん)。10月から2018年3月まで、太陽光を使った2万1000個の発光ダイオード(LED)によるライトアップを開催。「田植えの春、収穫の秋、イルミネーションの冬と四季を通じて楽しめる」(高橋俊宏さん)。
(1)のと鉄道穴水駅からバスで約50分(2)電話0768・23・1146(輪島市観光課)
水面を照らす「田毎の月」(長野県千曲市)
JR姨捨駅からも望め、国の重要文化的景観や日本三大車窓に数えられる。「江戸時代には松尾芭蕉が句を詠み、歌川広重が浮世絵に描いた、歴史・文学史上も重要な棚田」(青柳さん)。姨捨山伝説の地だが、イメージとは対照的に棚田の水鏡に映る「田毎(たごと)の月」で知られる月見の名所でもある。
棚田越しに善光寺平の街並み、戸隠連峰や妙高山が遠望できる。「街の灯がともる夕方、車窓から夜景を眺めるのも楽しい」(西村さん)。また「生産農家がちゃんとコメを作っている田んぼが多い」(岩佐さん)。
(1)JR篠ノ井線姨捨駅から徒歩約10分(2)電話026・261・3210(千曲市歴史文化財センター)
農民が築いたピラミッド(三重県熊野市)
広大な斜面に1340枚もの小さな水田が連なり、「一目千枚といわれる圧倒的なビューポイントが強み」(高野光世さん)。3人の選者が1位に選んだ。「山間の棚田の代表で、熊野古道から見下ろす全景は圧巻」(中島峰広さん)だ。熊野古道の通り峠に展望台がある。「農民の築いたピラミッドと称される」(酒井さん)。稲作体験などの行事も多く「距離を置いて全体を見ていると、昔の人々の開拓精神が読み取れる」(永田博義さん)。
(1)JR紀勢本線熊野市駅からタクシーで約30分(2)電話0597・97・1113(熊野市地域振興課)
10月には「棚田の夜祭り」(千葉県鴨川市)
東京から一番近い棚田として知られ、「日本で唯一、雨水のみで耕作している」(雨宮健一さん)。鴨川平野の奥に位置し「房総は海だけでなく里景色が素晴らしい」(西村さん)と高評価。「NPOが棚田保全を手掛けた先駆け」(岩佐さん)で、「保存会による保全活動は日本一を誇る」(中島さん)。10月20~22日には「棚田の夜祭り」が開かれ、10月23日~2018年1月4日まで太陽光LEDで毎晩ライトアップされる。
(1)JR外房線安房鴨川駅からタクシーで約30分(2)電話04・7092・0086(鴨川市観光協会内・棚田の夜祭り実行委員会事務局)