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ビジネス街の書店をめぐりながら、その時々のその街の売れ筋本をウオッチしていくシリーズ。2週間ぶりに定点観測に戻ろう。今回はリブロ汐留シオサイト店だ。前週はお盆休みでオフィス街は人出も少なく、書店を訪れる客も少なかった。そんな静かな週でも着実に売り上げを伸ばしていたのは、破格の企業買収や投資ファンド設立などで耳目を集め続ける経営者、孫正義氏の経営者像に迫ったノンフィクションだった。

経営者孫氏の本質を考察

その本は杉本貴司『孫正義 300年王国への野望』(日本経済新聞出版社)。日本経済新聞の現役記者が、孫正義氏という一代で売上高10兆円に迫る企業を築いた経営者の本質を解き明かそうと試みた意欲作だ。「6月の刊行で、発売からずっと安定してよく売れている」と店長の三浦健さん。客足の鈍かったお盆休みの週でも売れ行きが衰えず、ビジネス書では事実上のトップに立った。ソフトバンク本社が同じ汐留地区にあることも好調ぶりを支えているようだ。孫氏を扱った他の近刊2冊とともにメーンの平台の真ん中に目立つように置かれている。

「はじめに」で著者は問う。「いったい、孫正義とは何者なのだろうか」。そこに迫るために著者が提示したのは「彼を支える数多くの強者たちの群像劇」という視点だ。巻頭の見開き2ページに、写真入りの図表で「孫正義を支える面々」が示される。ご意見番、大番頭、財務、管理部門などと分類して図示される群像劇の登場人物たち。その中には創業期を支えた10人の恩人たちの名前もある。

決断の場面 リアルに再現

恩人の1人、元シャープ副社長の佐々木正氏との出会いから、500ページを超える長大な物語が書き起こされる。第1章は3兆3000億円をつぎ込んだアーム買収を追い、後継者と見込んだニケシュ・アローラ氏との別れを描く。第2章は、表題にもある300年王国という超長期ビジョンに込めた孫氏の思いへと迫り、サウジとの投資ファンド設立の意図を考察する。最近の動きを具体的な再現ドキュメントとして再構成しながら、孫氏の本質に肉薄する手法は、さながら小説を読むようなおもしろさだ。

第3章で創業期に立ち戻り、11章までほぼ時系列で孫氏の事業展開に従いながら孫氏のビジネスに通底する考え方、行動様式をあぶり出していく。最後の終章で初めて生い立ちに触れながら、孫氏の原点について考察を試みる。生い立ちから人物像を探る類書が多い中、ビジネスを展開する局面での孫氏の思考、行動に焦点を当て続けているのが本書の読みどころだ。創業期やブロードバンドへの挑戦など、過去の大きな決断やそのプロセスについても、その局面ごとにどう考え、どう動いたか、そして今ではどうとらえているのかが臨場感を持って描かれる。その生身の姿や拾い上げた孫氏の発言は、創業を志す人はもちろん、多くのビジネスパーソンに参考になるだろう。

日テレ制作者の伝える技術も売れ筋

それでは、先週のベスト5を見ていこう。

(1)いますぐできる! だれもでカンタン! オトナ女子のちゃっかり資産運用術宮園泰人著(幻冬舎)
(2)孫正義 300年王国への野望杉本貴司著(日本経済新聞出版社)
(3)「伝わるコトバ」の作り方藤田享著(ロングセラーズ)
(4)大前研一 「100日」で結果を出すM&A入門大前研一著(プレジデント社)
(5)2050年の技術英『エコノミスト』編集部著(文芸春秋)

(リブロ汐留シオサイト店、2017年8月14~20日)

1位はまとめ買いによるランクインで、紹介した孫氏のノンフィクションが2位で、店頭販売では1位となる。3位は日本テレビの報道番組などを手がける放送作家、プロデューサーによる伝え方と発想法の本。日本テレビの本社も近くのビルで、お膝元需要でよく売れている。4位は大前研一氏によるM&A(買収・合併)の入門書。合併後の統合技術に焦点を当てている。5位は英経済誌「エコノミスト」による未来技術の予測本。発売から4カ月がたつが、長く売れている。

(水柿武志)

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