ウィーン3兄弟へーデンボルク、日本でも「家庭音楽」
音楽の都の響き トリオ演奏にのせて
毎年の元日、音楽の都から全世界に衛星生中継されるウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の「ニューイヤーコンサート」。何年か前から第1ヴァイオリン、しばらくしてチェロに日本人風で、顔も似ている楽員の姿が映るようになった。日本人ピアニストを母、スエーデン人ヴァイオリニストを父にオーストリアではウィーンと並ぶ音楽の街、ザルツブルクに生まれたへーデンボルク兄弟である。
兄のヴィルフリート和樹(ヴァイオリン、1977年生まれ)は2001年、弟のベルンハルト直樹(チェロ、79年生まれ)は11年にウィーン・フィルの母体であるウィーン国立歌劇場管弦楽団に入団し、やがてフィルハーモニカー(ウィーン・フィルのメンバー)にも選抜された。へーデンボルク家にはもう1人、年の離れたピアニストの末っ子がいる。ユリアン洋(よう、90年生まれ)。偉大な兄2人に反発して16歳ころからへヴィメタルロックのバンドに加わり、ベースギターを弾いていたが、血は争えない。21歳でクラシックの世界へ戻り、すぐにピアノの大器と目されるようになった。
欧州には長く、世代と楽器、プロとアマチュアの違いを超え、家庭内で室内楽を奏でるハウスムジーク(家庭音楽)の伝統があった。オペラにコンサートに多忙なウィーン・フィル楽員も寸暇を惜しんで、ハウスムジークに興じる。ヘーデンボルク家もしかり。「兄弟3人、何も言わないでも、ぴたっと息が合う」という極上のハウスムジークを日本の聴衆にも届けようと、この秋、ヘーデンボルク・トリオ初の日本ツアーに臨む。
「ウィーンの室内楽の醍醐味は?」と、3人に聞いた。「歌劇場では歌手の伴奏をしながら耳のアンテナを張り巡らせ、お互いの音を聴き合う。オーケストラ演奏会でも指揮者、世界トップクラスのソリストと向き合いつつ、互いの音を聴く。いわば日常の『大きな室内楽』の体験を再び3人とか4人とか最小限の単位に戻し、互いの音の声部を際立たせ、より濃い密度で音楽の楽しみに興じる。これが職場、家庭の別を問わず、全身に染みついているのがウィーンの音楽家であり、室内楽なんだよ」。ウィーンに集う音楽家はとことん、室内楽が好きなのだ。
ヘーデンボルク・トリオが日本ツアーの中心に選んだのは、ウィーンで活躍した3人の作曲家。ハイドンの「ピアノ三重奏曲第31番」とベートーヴェンの「同第1番」、ブラームスの「同第1番(改訂版)」。9月16日、岐阜県大垣市(スイトピアセンター)が初日で、19日以降は東京都内で集中的に公演する。このうち22~24日は東京・赤坂のサントリーホールが主催する「チェンバーミュージック・ガーデン2017」に連続出演の予定。日本デビューに合わせ、ウィーンの室内楽を長年録音してきたレコード会社、カメラータ・トウキョウがベートーヴェンの「ピアノ三重奏曲第1、2、3番」のCDをリリースする。
(コンテンツ編集部 池田卓夫)
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