市場を揺らす米政権 「大混乱」は本当か(藤田勉)一橋大学大学院特任教授

「トランプ氏の白人至上主義を容認すると受け取られかねない発言により、政権基盤が弱体化するとの観測から一時株安が進んだ。しかし、筆者の見方は異なる」

米トランプ政権を巡り、世界の株式市場が揺さぶられている。トランプ氏の白人至上主義を容認すると受け取られかねない発言により、政権基盤が弱体化するとの観測から一時株安が進んだ。しかし、筆者の見方は異なる。

日本では一連の騒動について「トランプ政権大混乱」といわれ、一時的に株安・円高になった。だが、本当にそうなのだろうか。筆者の目にはトランプ政権の政治的基盤はむしろ安定していくと映る。

政権は穏健派が運営

政権内で対立を生んだバノン首席戦略官、スカラムチ広報部長、プリーバス首席補佐官が退任し、海兵隊大将を務めたケリー首席補佐官に権限が集中しつつある。

ケリー氏はトランプ氏に請われ、7月末にホワイトハウスを束ねる主席補佐官に就いた。ロシア疑惑や情報漏洩に揺れるトランプ政権の秩序を取り戻すための役割を期待されている。

今後政権はケリー氏をはじめ、穏健派といわれるペンス副大統領、コーン国家経済会議委員長、ティラーソン国務長官、クシュナー上級顧問、マクマスター国家安全保障担当補佐官、マティス国防長官らが中心となって運営することとなる。つまり、グローバル感覚のある穏健派と規律を重視する軍人が政権の中枢を占めており、政権は安定に向かうと考える。

最も重要なのは次期FRB議長

株式市場にとって最も重要であるのが、来年2月に予想される連邦準備理事会(FRB)議長の選任である。次期FRB議長の最有力候補であるコーン氏は、ゴールドマン・サックス時代に商品部門のキャリアが長く、市場感覚が十分である。トランプ一族からの信認が厚いとされ、ハト派的な金融政策を取るものと考えられる。

もとより、来年の中間選挙では、共和党が勝利する可能性が高い。現在、下院では共和党241議席、民主党194議席と大差がついているが、次回の選挙も共和党が多数を占めるという予想が一般的である。上院は共和党52議席、民主党48議席と競っている。上院は、2年に1度、3分の1ずつ改選されるが、来年改選を迎えるのが共和党8議席、民主党23議席(独立系2議席)である。つまり、2012年に民主党が大勝したときの議員が改選されるので、共和党が議席を増やす可能性が高いのだ。

以下に述べるが、この背景には日本と大きく異なる米独特の政治制度がある。米では日本のような戸籍や住民票がないため、事前に投票者は自分が投票する選挙区を確定する選挙人登録が必要になる。つまり、投票日になって思い付いて、投票に行くことはできない。投票率は大統領選挙と議会選挙が重なる年で50%前後、そして中間選挙では30%台まで下がる。

その結果、投票者の偏りが大きくなる。投票率が高い傾向にある有権者は高齢、高学歴、高所得、白人などであり、低い傾向にあるのが若年者、低学歴、低所得、ヒスパニックなどである。前者は共和党支持者が多く、後者は民主党支持者が多い。

共和党は選挙で優位

当然のことながら、選挙に行かない人の支持率は選挙結果に関係ない。例えば、党派別支持率は民主党35%、共和党23%と、圧倒的に民主党が多い(出所:ワシントンポスト―ABC、7月)。しかし、大統領、上院と下院の多数派の3つともを共和党が占めるのだ。

投票率が30%台しかない中間選挙においては、共和党の候補者にとって、投票率の高い共和党支持者の票固めが重要である。共和党は小さな政府を志向するティーパーティーや熱心なキリスト教プロテスタントの投票率が高い。彼らは熱心に政治活動を行い、政治献金額も大きい。

上記の世論調査ではトランプ大統領の支持率は全体では36%(不支持率は58%)と低い。しかし、実は共和党支持者のトランプ支持率は82%と圧倒的に高い(不支持率は15%)。海外のマスコミは、反トランプ一色の米国主要メディアの報道を要約して記事にすることが少なくない。全体の世論調査を見て、米国の政治を分析すると間違う可能性がある。

仮に共和党支持者による高支持率が続けば、共和党議員に対するトランプ大統領の影響力は高まるであろう。そうなれば、議会の同意が必要な大型減税など、株高につながる政策の実現度が高まる。

トランプ氏のリスクは残る

とはいえ、トランプ氏自身のリスクは残る。今回の混乱の引き金を引いたのは他ならぬトランプ氏だった。人種差別を容認するような発言にユダヤ系米国人であるコーン氏は激怒したとされ、国家経済会議委員長の辞任観測が一時流れた。既に経済界ではトランプ離れが起きており、仮にコーン氏やケリー氏が辞任するようなことがあれば、それこそ「トランプ政権大混乱」という表現が正しくなろう。

また、バノン氏の更迭はこれまで熱心にトランプ氏を支えてきた支持者の離反という副作用を生む可能性もあり、政権にとってはもろ刃の剣といえる。メキシコとの壁建設にこだわるトランプ氏は政府機関の閉鎖も辞さない姿勢を見せており、市場は振り回されている。

「乱気流」に備えておくべき

筆者は基本的に、米国市場は好業績、低金利、株高というトレンドにしばらくの間、大きな変化はないとみている。ただし、前回コラム「世界株高に感じる黄信号 乱気流に備えよ」でも述べたとおり、そろそろ株価が大きく動く「高値波乱」に気をつける時期だと考える。永遠に上げ続ける相場はない。下落のきっかけはトランプ政権ではないかもしれないが、今から用心しておくべきだろう。

藤田勉
一橋大学大学院国際企業戦略研究科特任教授、SBI大学院大学教授、シティグループ証券顧問。2010年まで日経ヴェリタスアナリストランキング日本株ストラテジスト部門5年連続1位。経済産業省企業価値研究会委員、内閣官房経済部市場動向研究会委員、北京大学日本研究センター特約研究員、慶応義塾大学講師を歴任。一橋大学大学院修了、博士(経営法)。1960年生まれ。
近づくキャッシュレス社会
ビジネスパーソンの住まいと暮らし
注目記事
近づくキャッシュレス社会
ビジネスパーソンの住まいと暮らし