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「家なき子」で相続税を節税 土地評価額を8割減らす 「小規模宅地等の特例」の条件を確認しよう

2017/8/26

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 相続税の計算では、亡くなった人の自宅の土地を同居していた家族が相続すると、その評価額を8割も減らせる特例がある。残された家族の生活拠点を脅かさないためだ。もっとも、別居家族であっても持ち家に住んでいなければ、特例の適用を認められる規定がある。この「家なき子」と呼ばれる規定を活用し、節税を考える人が増えているようだ。

 「1000万円以上ですか? そんなに節税できるのなら……」。東京都の会社員Aさん(60代)は一昨年、税理士の勧めで一戸建てのマイホームを長男(30代)に贈与した。

 Aさんは、離れて一人で暮らす父(80代)の自宅をいずれ相続する予定だが、家は都心部にあって地価が高い。そのまま相続すれば重い税負担は避けられない。そこで考えた対策が、マイホームの子への贈与。自分が特例の適用対象「家なき子」になるためだ。

 故人の自宅の土地を、配偶者や同居していた親族が相続すると、その土地の相続税評価額を330平方メートルまで8割減にできる。「小規模宅地等の特例」という。例えば路線価で5000万円の土地は1000万円と計算。税率が20%なら800万円もの節税になる。

 たとえ故人と同居していなかったとしても、特例が適用されるのが通称、家なき子だ。故人に配偶者などがおらず、「相続前の3年間、本人あるいはその配偶者が所有する家屋に住んだことがない」というのが主な条件だ。

■基準は「家屋」のみ

 Aさんの場合、長男への贈与により自分の持ち家はなくなった形となり、贈与から3年経過すれば条件を満たす。贈与後もその家に住み続けており日常生活に支障はない。節税策として取り組みやすい面がある。

 贈与税がかさみそうだが、実はAさんの長男は数万円しか納税していない。家なき子かどうかの判断の基準はあくまで「家屋」。その固定資産税評価額が200万円足らずと低かったからだ。土地はAさん所有のまま。アンカー税理士法人(東京・千代田)の今田隆幸税理士は「古い家屋なら贈与税がかからないこともあり得る」と指摘する。

 家屋の評価が高いと贈与税は重くなる。評価1500万円の家屋を20歳以上の子に贈与すると約360万円が課税され、不動産登記などの費用もかかる。住宅ローンが残っていると原則、金融機関から了承を得なければ贈与できないことにも留意が必要だ。

 持ち家から賃貸住宅に引っ越すことで家なき子になる手もある。だがほとんどの税理士は節税目的だけでの転居を勧めない。いつ発生するか分からない相続のために不自由な仮住まいを強いられるからだ。子どもの独立を機にコンパクトなマンションに住み替えたいといった主目的があるなら検討してもいいだろう。

 実は家なき子になれるのは「子」に限らない。条件を満たせば親族でいい。親族は血族6親等まで、結婚でつながる姻族3親等までと広い。このため、マイホーム贈与も引っ越しもできなければ、故人の孫を家なき子に仕立てるという手がある。先祖代々ずっと手放さずにきた土地であれば、子をとばして孫に相続させる選択肢は有力だろう。

 ただし、相続が発生してからでは手遅れ。生前に土地を孫に相続させる遺言を書いておかなくてはならない。このほか、孫を養子にしておく方法もある。孫の相続税は2割加算されるが、一般に家なき子の節税効果のほうが大きい。

 孫が複数いる場合は、相続トラブルの火種にならないよう親族間でよく話し合っておきたい。土地の所有者となる孫が信用できる人物か見極めておく必要もある。フジ相続税理士法人(東京・新宿)の高原誠税理士は「孫がお金ほしさで土地を売ってしまうかもしれない」と安易な孫相続に警鐘を鳴らす。

 相続財産に占める自宅土地の割合が大きいと、同特例で相続税がゼロになることがあるが、その場合も税務署に申告はしなければならない。国税庁によると、相続税の基礎控除が縮小された2015年分は相続税ゼロの申告が約3万件と前の年分に比べて8割近く増えた。同特例によるものも多いとみられる。

 同特例は相続税を大きく左右するが、高原税理士は「正確に理解している人はほんの一部。亡くなった人の自宅なら無条件で適用されると思っている人も多い」という。同居親族として特例を使いたい場合も「同居」とみなされる条件をよく確認しておきたい。

■区分所有は適用外

 例えば二世帯住宅は、親世帯と子世帯がマンション住戸のように区分登記されていると、特例が適用されない。14年から家屋の構造などではなく登記の形式で判断されるようになったためだ。それ以前に建てて区分登記した二世帯住宅は生前に合併登記の手続きをすれば特例が使える。

 同じく14年から、亡くなった人が要介護や要支援の認定を受けて老人ホームに入居したのであれば、それ以前の自宅の土地に特例が適用できるようになった。ただし、空き家となった自宅にだれかが住んだり、事業をしたりすると、その時点で特例は使えなくなる。

 同特例はこうした改正が繰り返されてきた経緯があり、マイホーム贈与で家なき子になるなど本来の制度趣旨に沿わない節税策はいずれ封じられる可能性もある。いざ相続が発生したときに「知らなかった」と悔やまないよう、特例の仕組みを正しく理解して改正の動きも注視しておきたい。

(表悟志)

[日本経済新聞朝刊2017年8月19日付]

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