AIが投信・外貨で活躍 定石以外に、レア情報も分析人の想像力が及ばない情報も処理

2017/8/27
PIXTA
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投資信託や外貨預金などに人工知能(AI)を活用する動きが広がってきた。AIには、人海戦術では扱いきれない大量の情報を処理できる絶対的な強みがある。もちろん万能ではないが、銘柄の選択や為替の予測など人からAIに委ねる役割は、期待とともに膨らむ。金融の世界を舞台にしたAI活用術の動向を追った。

「人と違って感情にとらわれず、冷静に利益を追求してくれそう」。東京都に住む自営業の男性(39)は今年に入り、三菱UFJ国際投信(東京・千代田)のファンド「AI日本株式オープン」を500万円分購入した。男性はこれまでに外債の購入など5年ほどの投資経験があるが、AIを運用に活用した投信を買うのは初めてだった。実際に買ってみると「株価が下がってもぶれ幅が少ない」。こう満足げに話す。

言葉の表現解析

安定収益を目指すこのファンドのモデルを開発したのは三菱UFJ信託銀行。すべての上場銘柄から100~150ほどを組み入れるが、銘柄の選択権はAIにある。

では判断する際の「ネタもと」は――。決算など数値データだけでなく、有価証券報告書など文字情報も読み込みながら、日々学習を重ねる。だれが見ても「ポジティブ」ととれる材料や銘柄から利益は出ないというのが投資の世界の常識だが、「AIは人では気づかない材料を見つけてくる」(同社)。

日本語の様々な言い回しを学習させ、投資判断に使える1243種類の表現をAI自ら抽出。有報や日々の経済ニュースなどから、日本語で多く使われる「急騰」「上方修正」といった前向きな表現、そして「下落」や「下方修正」など後ろ向きな表現をともに拾い上げる。表現の回数をもとにして、銘柄を選ぶにあたって基礎的な点数を独自に積み上げていく仕組みだ。

運用をAIに委ねた投信は、この1年ほどで相次ぎ登場した。ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントは2月、AIが運用する投信を個人向けに設定。あわせて3種類あり、約290~460銘柄に投資する。

AIは企業関連のニュースに加え、サイトへのアクセス数など表面的にはわからない情報も分析対象にしている。アストマックス投信投資顧問の商品の裏側で働くAIも「人の想像力が及ばない領域のデータまで分析する」(同社)。ネット上の天気予報も分析対象に組み込んだ。

為替相場も予測

読みにくい為替相場をAIが分析するサービスもある。じぶん銀行は6月、フィンテックベンチャーと組んで、スマートフォン(スマホ)アプリに新機能「AI外貨予測」を加えた。米ドルをはじめ5種類の外貨で相場の動きを分析。「1時間」「1営業日」「5営業日」の3つの期間に分けて上下動を予測する。

ここでのAIのネタもとは「波形記憶」。過去10年ほどの相場の変動を波の形で記憶。値動きを画像としてとらえる仕組みで、逐次更新されていく。熟練トレーダーの思考をAIで再現することを目指しており、予測の勝率は今のところ6割程度。通貨によっては7~8割と、人の予測を超える実績まで残す。

住信SBIネット銀行は日立製作所と組み、AIを使った個人向け融資の審査システムの開発に乗り出している。預金残高や返済履歴に地理情報システム(GIS)などのデータを組み合わせ、融資の上限額など最適な条件をAIが割り出す。貸し倒れリスクの算出をより精緻にして実用化を目指す。

投資や金融の世界でAIが人に代わる存在になり得るかは未知数。また英国の欧州連合(EU)離脱など急激な市場変化の予測が難しいのはAIと人どちらも同じだ。ただニュースや企業の発信があふれる時代にあって、情報の量と質を早く正しく解析する力が欠かせない。様々な手法で学習を続け、進化を続け、精度も高めるAI。少なくとも、この存在をひとときのブームとして扱うのは惜しい。

(大島有美子)

[日本経済新聞朝刊2017年8月19日付]