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転ばぬ先の不動産学

登記を信じてはいけない 不動産取引で「なりすまし」 不動産コンサルタント 田中歩

2017/8/23

PIXTA

 8月初め、真の所有者ではない何者かが売り主になりすましたことによって、買い主の大手住宅会社が63億円もだまし取られたとされる問題が明らかになりました。この問題は都内の超一等地を舞台に起こり、土地の購入代金が非常に高額だったことから注目を集めています。その巧妙な偽造の手口から、取引の相手は「真の所有者」だと買い主が誤認しても仕方なかったといわれています。

■一般的な取引でもトラブルの可能性

 一般的な住宅の売買ではこのような問題に巻き込まれることはあまりないと考えられますので、「なりすまし」についてあまり過敏になりすぎる必要はないと筆者は考えています。一方、一般的な売買取引でも、実際には真の所有者ではない者が売り主となる取引がないわけではなく、それが元でトラブルとなることもあるので注意が必要です。

 たとえば次のようなケースです。

 Aさんは子供のBさんに「自分が所有しているアパートをいつかはBさんに贈与してもよい」と話していました。これを受けてBさんはそのアパートを勝手に自己名義に変更してしまいました。そのうえでBさんは知人のCさんにアパートを売却。Cさんはそのアパートを自己名義で登記しました。ところが後日、Cさんはアパートの真の所有者であるAさんから明け渡しを請求されてしまった、という事案です。

■登記に「公信力」はない

 「登記事項証明書にBさんの住所と氏名が書いてあるのだから、登記を信じたCさんは救われるべきではないか」と感じる人も多いと思います。しかし、買い主のCさんが登記事項証明書の名義人であるBさんを「真の所有者」だと信じて取引をしても、保護されないこともあるのです。これが「登記に公信力はない」ということなのです。(公信力とは、登記上の表示を信頼して不動産取引をした者は、登記の内容がたとえ異なっていても保護されるということ)

 もちろん、Cさんは真の所有者ではないBさんに対して不法行為を理由とする損害賠償を請求できるとは思いますし、Aさんに対しては登記識別情報などの書類管理や実印管理に関する過失責任を問える可能性もあります。しかし、登記制度上はCさんは保護されていません。ですから、権利関係を確認するために登記を調べることは重要ではありますが、登記を全面的に信頼することも危険だということを認識しておく必要があります。

■贈与後すぐの売却には注意

 筆者が懇意にしている神永信吾司法書士によると、このようなケースは実際に起こりうる事案で、贈与があった後、さほど期間を空けることなく売却するケースについては、万が一ということも想定されるため、念のため前の所有者に本当に売買契約や贈与契約があったかどうかを確認することもあるそうです。

 一般の住宅取引では、不動産業者が売り主の自宅を訪問するなどして、登記済権利証(または登記識別情報)や取得時の売買契約書を見せてもらったりすることで真の所有者かどうかの確認をしているはずです。また、運転免許証やパスポート、印鑑証明書に記載された氏名と住所がそれぞれ一致しているか、運転免許証などの顔写真と本人が一致しているか、実印と印鑑証明書の印影が合致しているかといったことも確認していると思います。買い主は、こうした手続きを不動産業者がきちんと行っているか、売買契約を結ぶ前に確認しておくと安心でしょう。

 日本においては、登記に公信力はありません。まずこのことを改めて認識しましょう。冒頭で触れた問題のように巧妙な偽装をされてしまうと、真の所有者かどうかを確認することは極めて難しくなります。だからこそ買い主は無用なトラブルに巻き込まれないためにも、信頼できる不動産業者や司法書士を自らの目で選ぶことが大切なのです。

田中歩
 1991年三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入行。企業不動産・相続不動産コンサルティングなどを切り口に不動産売買・活用・ファイナンスなどの業務に17年間従事。その後独立し、ライフシミュレーション付き住宅購入サポート、ホームインスペクション(住宅診断)付き住宅売買コンサルティング仲介などを提供。2014年11月から個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクションなどのサービスを提供する「さくら事務所」に参画。

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