日本は、世界一高齢化が進む国。放っておけば、どんどん貧しくなっていきます。では、このまま貧しくなっていく方がいいのか。あるいは、貧しくならないように努めるのか。多くの人は、後者に賛同するでしょう。「ならば、生産性を向上させるしかありません」と話す、ライフネット生命保険創業者の出口治明さん。
前編の「出口治明氏『メシ・風呂・寝る』から『人・本・旅』へ」に引き続き、後編では生産性を上げるためのリーダーシップや、日本のとるべき政策について伺いました。
役職は「機能」であって「偉さ」ではない
白河桃子さん(以下、敬称略) 労働生産性を上げるために、どのようなリーダーシップが必要かということをお聞きしたいです。これについて私は、「不機嫌な上司はもう要らない」と思っているんです。

出口 その通りです。
白河 今、私は「社員同士の関係がよくなると、結果の質が上がる」という理論に注目しています。人間関係の質が上がると、思考の質が上がり、行動の質も上がり、おのおのが自分で考えるようになり、自律的に行動するようになる。結果、会社の業績が上がる。マサチューセッツ工科大学のダニエル・キム教授が提唱している「組織の成功循環モデル」です。
出口 おっしゃる通りで、中国の古典「貞観政要」にも、「上に立つ人間は、ポケットに鏡を入れておかなければならない」と書いてあります。カッとなったり、腹が立ったりしたら、鏡で自分の顔を見なさい、と。
白河 すべての経営者に鏡を配りましょう。
出口 上に立つ人間は、元気で明るく楽しい顔をしていなければなりませんし、それができない人は、上司になってはいけないという考えなんですね。上司が元気で明るく楽しそうにしていたら、職場は楽しくなるんですよ。楽しくなれば、みんな頑張るんです。
生産性を上げる一番の起爆剤は、「楽しい」ということです。楽しかったら、みんな、もっと楽しくしようとか、面白くしようとか、考えるでしょう。暗い顔や怖い顔をしている上司は、どんどんクビにしていけばいいんです。
白河 でも、その不機嫌な上司は、若い頃にがんばって成績を上げて今の地位まで昇進してきたと思うんです。結局、大事なのはその人も上機嫌な上司に変わっていかないと、全体の生産性を落とすということですね。
出口 その通りです。プレーヤーとマネジャーは違います。例えば、高校野球で言いますと、昔はエース4番がキャプテンも兼ねていたんです。でも、今は、補欠でもキャプテンをやっている選手がいっぱいいます。
白河 それは、野球もチームマネジメントの仕方を変えたということですね。

出口 そうです。よく考えてみたら、みんなをまとめるのがうまい人がキャプテンをやる方がいい。マネジャーは150キロの球を投げなくても、ホームランを打たなくてもいいんです。
そもそも、プレーヤーからマネジャーにするという考え方自体が間違っています。役職というのは、「偉さ」ではなくて、「機能」と考えなければならない。役職は、人の管理に適した人がやればいいのです。ところが日本では、「俺は仕事をがんばったから偉くなった」と錯覚してしまう人が多い。
以前、平均年齢70代の人たちが集まる講演会に行った時、名刺交換をしたら、3人くらいが「元○○会社常務取締役」などという肩書をつけていました。悲しくなりますよね。「昔、俺はがんばったから偉いんだ」と言っているわけです。
上司の価値観の押しつけが最悪
出口 上司の役割とは何かというと、部下の能力を上手に発揮させて、成果を出すことです。
以前、某メガバンクに講演に行った時のこと。人事担当者たちの前で、「上司が部下のことをよく見て、知って、彼らのやりたいことや得意なことをやらせてあげると、部下はがんばるのですよ」という話をしました。
白河 一律の仕事を部下に押しつけて、誰が一番伸びてくるかの競争を黙って見ることではない、ということですね。