がん保険、通院保障が充実 治療技術の進歩で入院減少がん医療費に備える(上)がん保険

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金曜の夜、良男と幸子がダイニングテーブルでどら焼きをほお張っていると、娘の恵がとぼとぼと帰ってきました。眉間にしわを寄せ、なにやら深刻そうな様子です。手にはたくさんの保険のパンフレットを持っています。

筧幸子(かけい・さちこ、48=上) 筧良男(かけい・よしお、52=中)  筧恵(かけい・めぐみ、25) 

 幸子 何かあったの? 

  元アナウンサーの女性みたいに若くてもがんで亡くなる人のニュースを見て、私もがんに備えて保険に入らなきゃと思って。資料をたくさん取り寄せたけど、いろんな保障があって、どの保険に入れば安心なのか、さっぱり分からないの。

 幸子 がんに備える保険となると、やはりがん保険ね。がん治療の潮流に合わせ、がん保険も様変わりしてきているわ。これまでは、がんと診断されたら一時金が受け取れる「診断給付金」、入院した日数に応じて受け取れる「入院給付金」、そして「手術給付金」の3種類の保障がセットになっている形が一般的だったの。契約件数で圧倒的なシェアがあったアフラックを筆頭に、多くの保険会社が「セット型」を基準にがん保険を取り扱っていたのよ。

  がん治療の潮流?

 幸子 医療技術の進歩で、がんの治療方法はどんどん変化しているの。かつてはがんと診断されたときには深刻な状況で、長期入院や手術が必須の場合が多かったわ。今は検査技術の向上や予防医療の啓発もあって、早期にがんを見つけやすくなったの。抗がん剤や放射線だけで、手術をしない治療法も増えたおかげで入院期間は格段に短くなったのよ。さらに、通院で普段通りの生活を続けながら治療できる患者も増えているわ。厚生労働省によると、2014年10月時点で、入院治療をしている人は約129万人だったのに対し、通院は約171万人。今から10年ほど前に通院治療の患者数が入院患者を逆転して、その差が広がっているのよ。

 良男 入院や手術をしないなら、保険に入ってもお金を受け取れないんじゃないか?

 幸子 通院治療の増加に伴い、旧来のセット型の保険では十分な保障が受けられないケースも増えてきたわ。それで新たなタイプの保険が出てきたの。その1つが入院の有無にかかわらず給付金を出す保険。たとえばメットライフ生命保険は、三大治療と呼ばれる手術、抗がん剤、放射線のいずれかを受けると、一時金が受け取れる保険を取り扱っているわ。入院給付金は主契約に含まず、後付けできる特約としているのが特徴ね。診断一時金に特化した保険も人気。保険会社ごとに特徴を強く打ち出しているから、「個性型」の保険ともいえるわね。

 良男 いろんなタイプのがん保険があるんだな。

 幸子 主契約の保障内容をかなり絞り込んで、必要な保障をパズルのように組み合わせるがん保険もあるの。言ってみれば「追加型」かしら。たとえばチューリッヒ生命のがん保険は、主契約に含むのは放射線と、抗がん剤やホルモン剤といった化学療法に対する給付のみ。手術や診断一時金など、必要な保障を加入者が選んで特約で追加していくしくみなの。

  どんながんを患うか分からないから、特約などですべての保障をつけたいわ。

 幸子 そうすれば、どんな部位のどんな状態のがんになっても何かしらのお金は受け取れるかもしれないわね。でも、保障を上乗せすればするほど保険料は上がるわ。そもそも生涯がんにならない可能性もあるし。余裕を持って払い続けられる保険料かという視点も大事よ。

 良男 いっそのこと、貯蓄で備えられないのかな。

 幸子 使い道が限定されない貯蓄は、治療にも通院にかかる交通費にも備えられる万能の「保険」といえるわ。10年にNPO法人の日本医療政策機構(東京・千代田)が実施した調査によると、がん患者が治療や後遺症の軽減などに費やした自己負担額の平均は年115万円。回答者の割合でも年100万~150万円が最も多かったの。150万円くらいあれば、当面の治療費はまかなえそうね。

  150万円なら貯蓄で何とか備えられそうだわ。

 幸子 お金の面で気をつけたいのは、今はがんが治る時代だということ。国立がん研究センターによると、06年から08年にがんと診断された人の5年生存率は62.1%。1990年代に比べると格段に生存率は上がっているわ。がんを克服しやすい環境になったことは喜ばしいことだけれど、予防的な投薬も含めると長期に治療が続く可能性も高いということね。

 良男 公的な保障はないの?

 幸子 ファイナンシャルプランナーの田中香津奈さんは「まずは高額療養費制度で自分の負担限度額がいくらかを把握すること」と話しているわ。限度額を超えた分を健康保険が払い戻してくれる制度で、収入に応じて限度額は異なるの。実際の限度額はねんきん定期便などで確認できる標準報酬月額で決まるわ。たとえば、70歳未満で年収600万円の人なら月約9万円(4カ月目以降は約4万4000円)が医療費の自己負担限度額。年収1200万円の高収入の人なら月約26万円(同約14万円)よ。この金額を長期的に払い続けることが負担でなければ、貯蓄で備えるのも手ね。

  限度額を知ったうえで、不安な分をがん保険で備えれば、万一がんになってもお金の心配は小さくできそうね。

■基本は一時金、負担も考慮
ファイナンシャルプランナー 田中香津奈さん
がんを発見しやすくなったことで、がん保険の保険料も上がりました。保障も細分化し、商品の選び方が非常に難しくなっています。「上皮内新生物にも100%の一時金」「三大治療に手厚い」といったキャッチコピーが躍りますが、惑わされてはいけません。保険選びで最も重要なのは、日々の生活の負担にならない保険料かどうかです。どんな特約をつけても保障の対象にならなければ、保険料が上がるばかりで1円も受け取れません。
お金に色はないので、何にでも使える診断一時金を重視したいです。また、がんと診断された後も保険料を払うかどうかも重要です。払い込み免除ならその分、保険料は割高になります。治療中も保険料を払う負担と、日々の保険料が上がる負担。どちらを許容できるかも保険選びのポイントです。
(聞き手は岡田真知子)

[日本経済新聞夕刊2017年8月16日付]

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