菅田、窪田、小栗、長谷川 「バランス型男優」に脚光
近年の男優界を振り返ると、2013年に堺雅人主演の『半沢直樹』のヒットや、『八重の桜』での西島秀俊人気で、40歳以上のベテラン俳優が再評価された。15年になると、福士蒼汰、山崎賢人といった20代の俳優が台頭し、連ドラや映画で主演を務めるように。続く16年は、新井浩文や高橋一生のような実力派や、ミュージシャンとしても活躍する星野源、ディーン・フジオカらがブレイクし、30代俳優の層の厚さが際立った。
そして現在は、全体の傾向として、映画とドラマの両方に出る「バランス型男優」が目立ってきている。20代前半では菅田将暉、20代後半では窪田正孝、30代では小栗旬、40代では長谷川博己らが代表格だ。では、彼らがトップランナーである理由はどこにあるのか。
まず映画界の状況を見ると、08年を境に興行収入で邦画が洋画を逆転(グラフ1)。近年の邦画の好調は、特に若手に追い風となっている。17年7月公開の『君の膵臓をたべたい』や『ストロボ・エッジ』(15年)など、多数の青春映画をプロデュースしている東宝の臼井央氏は、「休日の過ごし方やイベントとして、若い層が洋画でなく邦画を見ることを選ぶようになったという体感はあります。その需要に向けたコンテンツとなると、主人公の年代がお客さんに近い、少年・少女マンガ原作の企画は自然と増える。若手のチャンスは広がっていると思います」と話す。
映画専業は成り立たない
別の側面で見ると、シネコンの増加でスクリーン数は増えているものの、単館系と言われるミニシアターは閉館に追い込まれている。14年に『ロング・グッドバイ』で、デビュー25年にして初めて連ドラに主演し、2017年は『A LIFE』に出演した浅野忠信の例が象徴的だが、活動の場を映画だけにこだわるのは今は厳しい。
一方でテレビは、配信サービスの充実やスマートフォンの普及があり、若者のリアルタイム視聴が年々減少。ドラマをテレビで楽しむ層は40代以上が中心となり、その層に向けた作品ということで、ゴールデン・プライム(GP)帯(19~23時)では学園ものやラブストーリーではなく、刑事ドラマや医療系、職業ものが増えた。主演男優の年齢は総じて高め(グラフ2)。こちらは、映画出演歴の豊富なベテランも活躍できる場が多く、遠藤憲一のように、50代半ばにしてブレイクを迎える例も出てきた。また、深夜帯を中心に配信向けストックコンテンツを意識した若者向けドラマが増えてきたため、若手にも十分チャンスはある。
映画とドラマの垣根がなくなりつつある今、オファーやチャンスがあったときに、「ジャンルで仕事を選ばない」という姿勢は、実はメリットが大きい。近年は『ひるなかの流星』(17年)など、マンガ原作の青春映画を手がけることが多く、17年7月期は若手男優が多数出演するドラマ『僕たちがやりました』(フジテレビ系)の演出をした新城毅彦監督は、「(『僕たちがやりました』主演の)窪田正孝君もそうですが、今の若手の子たちは、映画とドラマの現場を濃い密度で行ったり来たりするから、吸収と成長が早い。映画はある程度時間をかけられますが、ドラマってすごいスピードで撮っていくんですよ。両方の現場を経験しているからか、抽象的だったり感覚的なことを言っても、それに対してキャッチボールのようにレスポンスできる。ドラマの仕事は鍛えられるんだと思います」。
ドラマをブレイクスルーに
また、10月公開の『あゝ、荒野』や、『何者』『聖の青春』(共に16年)など、映画のキャスティングを数多く手がけるおおずさわこ氏は、見る人の手間にならず、一番広く存在を知ってもらえる好機となるのがドラマだと指摘する。「映画もスポンサー企業の存在が大きく、いい俳優でも知名度がないと、大役にはキャスティングしづらい。結局、新井浩文君も、ムロツヨシさんも、ドラマに出たことで一般的に知られるようになりました。男優の場合は実力があれば年齢は関係なく、知名度が上がるとともにはじける可能性が高い」
さらに言えば、今は主役にこだわらず、脇役もこなせる人のほうが面白がられる。SNSの普及もあり、光るものがあれば、役の大小に関わらずスポットが当たることも増えた。「女優さんだと難しいかもしれませんが、男優さんは主役にこだわり過ぎると損です。今は女性も第一線で働いている方が多く、男性目線でも世の中を見ています。だからこそ、脇を固める男優が演じる役に女性が共感することも多いです」(おおず氏)。
菅田、窪田、小栗、長谷川は共に映画とドラマをバランスよくやり、ドラマをきっかけに飛躍的に知名度を高めた。各世代を代表する主役級男優となった現在も、主演以外の役でも存在感を示している。ちなみに、実力が磨かれる舞台経験を大切にしていることも共通要素の1つ。菅田は秋に公演を控え、小栗は今年2作品に出演。窪田も13年に蜷川幸雄演出の舞台を経験しており、長谷川博己は文学座出身だ。力をつけるための舞台出演は、ロールモデルとして重要視されていくだろう。
「今の子たちは芝居がうまい。」(新城監督)。その良さを生かし、当たり役に出合えるか。あるレベルまでいった人なら、2回目のブレイクを果たせるか。映画とドラマ、主役と脇役は「選ばずにやる」というのが1つの突破口であり、王道スタイルとなりそうだ。
(ライター 内藤悦子)
[日経エンタテインメント! 2017年9月号の記事を再構成]
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