ビールだと水よりたくさん飲めるのはなぜ?
この記事では、今知っておきたい健康や医療の知識をQ&A形式で紹介します。ぜひ、今日からのセルフケアにお役立てください。
(1)ホント
(2)ウソ
(3)一部ホント
正解は、(3)一部ホント です。
夏真っ盛りの今の時期は、やはりビールが最高です。ビール好きなら、大ジョッキ(700mL程度)を何杯も飲む人も珍しくありません。しかし、ただ水を飲むだけだと、あまり飲めないという人が多いのではないでしょうか。
胃や腸などの消化器系のメカニズムに詳しい東海大学医学部内科学系消化器内科学教授、内視鏡室長の松嶋成志さんは、「実際にビールの飲める量を計測したわけではありませんが、ビールだと大ジョッキで3~4杯程度飲まれる方がいらっしゃいます。一方で、水の飲める量については、『飲水試験』で検証されています。それによると、人間が一気に飲める水の量はせいぜい1~1.5L程度という結果が出ています[注1]。もちろん個人差がありますが、ビールの方が多く飲める人がいるというのは確かでしょう」と話します。
では、なぜビールだと多く飲めるのでしょうか。この理由として、よく言われているのが、「水は胃では吸収されず、腸でしか吸収されない。一方でアルコールは胃でも吸収される。だからビールはたくさん飲める」というものです。実際、ネットで検索すると、こういった説明が散見されます。
胃からのアルコール吸収は数%程度だった
しかし、ビールのアルコール分は5%程度。ビールを1L飲んだとして、仮にそのアルコール分がすべて胃で吸収されたとしても、たったの50mLでしかなく、残りの水分は胃に残ってしまいます。さらにアルコールは胃だけでなく、小腸でも吸収されるといいます。となると、「アルコールは胃で吸収されるから、ビールはたくさん飲める」という理論は説明がつかなくなります。
松嶋さんは、「アルコールが胃で吸収されるという側面は確かにあります。しかし、胃で吸収されるアルコールはせいぜい5~10%程度で、残りは小腸で吸収されます。ですから、その影響はわずかといえるでしょう。そもそもビールの大半は水分で、水分は胃では吸収されません。つまり、ほとんどが胃に残ることになります。ですから、ネットなどに書かれている『アルコールは胃で吸収されるからたくさん飲める』という説は主たる要因にはなりえません」と説明します。
ネットの情報は一部正しいものの、あくまで補助的な要因だったわけです。では、主な要因は、何なのでしょうか。
胃から分泌される「ガストリン」の影響?
松嶋さんによると、明確な定説はまだないものの、影響している可能性があると考えられているのが、胃から分泌される「ガストリン」いうホルモンの存在だそうです。
ガストリンは、胃の幽門(胃の出口)前庭部に存在するG細胞という細胞から分泌されるホルモンで、主な働きは、胃の運動の促進、胃酸分泌促進、ペプシノゲン分泌促進、胃壁細胞増殖作用、インスリン分泌促進作用などです。
「ガストリンには、胃の入り口近くの部分の運動を抑制し、出口近くの運動を促進させる働きがあると報告されています[注2]。これは、胃の中に多くの量をためこむことを可能とし、出口近くのものを押し出すのに役立つことになります。ドイツ・エッセン大学などの研究によって、ビールにはガストリンの分泌を促進させる効果があることが明らかになっています[注3]。ビールを飲むことで、胃の排出効果が高まり、結果としてたくさん飲めるという結果になっていると考えられるわけです」(松嶋さん)
この研究によると、酵母の働きによって糖をアルコール分解して醸造する、ビールやワインなどの「醸造酒」に見られる効果で、醸造酒の中でもビールの効果が高いようです。
「このように、ガストリンが『ビールならたくさん飲める』要因になっている可能性はあります。ただし、ガストリンが理由のすべてかどうかはわかっていません」(松嶋さん)。現状ではまだ詳細は解明されていないようです。今後の研究の進展に期待しましょう。
[注1]Am J Phosiol Gastrointest Liver Physiol. 2003;284:G896-G904.
[注2]World J Surg. 1979;3:545-552.
[注3]Gastroenterology. 1991;101:935-942.
[日経Gooday 2017年8月7日付記事を再構成]
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