出口治明氏「メシ・風呂・寝る」から「人・本・旅」へライフネット生命保険創業者 出口治明さんインタビュー(前編)

出口 働き方を変えるためには、価値観、意識を変えなければなりません。

白河 そうなんです。価値観の転換が、今、最も難しいところだと思っています。量から質、一律から多様、他律から自律へ、が働き方改革の本質ではと思っています。

「時間をかければいい仕事ができる」は幻想

出口 長時間労働の原因の一つに、「無限大の幻想」があります。人間は、賢くない動物ですから、「時間をかければ、いいものができる」と思ってしまうところがあるんです。

それは大きな間違いです。作家の松本清張さんは、本の校正を10回やっても満足されず、結局全部書き換えることになるほどの校正魔です。編集者としては、それをどこで止めるかが勝負になります。優れた編集者は、作者が直し始めると、「これ以上直したら、かえって悪くなる」と分かるんですよね。

白河 分岐点を見極めているんですね。

出口さんは会長退任後も講演などで忙しい日々を過ごしている

出口 そうです。人間は愚かですから、直せば直すほどいいものができると錯覚しています。でも、実は、本の原稿は1~2回直した時が一番いいものができるんです。それ以上直すと、どんどんクオリティーが落ちてゆく。ほかの仕事も同じです。

世界中の経営書でいわれることですが、いい仕事をする人は、みんな時間を切るんです。「この時間内でベストを尽くす」と。

白河 終わりの時間を意識する。時間資源は無限でないと意識するわけですね。

出口 そうです。無限大の幻想は、戦後に構築された「工場モデル」によってつくられてしまったものですから、変えないといけないんです。

白河 働き方改革というと、テレワークをやることや、AI(人工知能)を導入することなど、いろんなことが言われていますが、本質的には、時間に着目することが効果的なんですね。

出口 一番いいのは、業務終了時刻にパソコンの電源を切ることです。経営者も「人・本・旅」にシフトすると決めて、定時に冷房の電源も切ってしまう。そうなれば、帰るしかありませんね。

しかし、愚かな人は、「仕事を家に持って帰るだけだ」と言うんです。

白河 必ず、そんなことをしても持ち帰り残業が増えるだけという話が出ます。

出口 一人暮らしだったら、家でも仕事ができるかもしれませんが、多くの場合、家にはパートナーや子どもがいます。すると、みんなが足を引っ張るので、結局仕事などできません。

家に持ち帰っても仕事が進まないことが分かってくると、みんな仕事を持ち帰らなくなってきます。習慣が根付くまで、タイムラグがあるんです。人間は、強制がなければ、慣性の法則で、これまでの惰性で動きますからね。

白河 確かに、19時前退社をやっている大和証券グループ本社の鈴木茂晴最高顧問も同じように仰っていました。日本人はとにかく横並び意識が強いから、まずは形を決めてあげることがすごく大事だと。そこから、後から意識がついてくるということです。

出口 会議を減らそうと思ったら、会議室を潰せばいいんです。

白河 すると、人は「この会議は本当に必要なのか」と考えるようになりますよね。

出口 仰る通りです。ただ「長時間労働をやめろ」というパンフレットを作ったり、「早く帰れ」と言ったり、するだけでは意味がありません。退社時間になったら、強制的に電源を切る。冷房を切る。会議室を潰す。これが一番効果的だと思います。

後編の「出口治明氏『不機嫌な上司は不要、鏡で自分の顔見よ』」へ続く

白河桃子
少子化ジャーナリスト・作家。相模女子大客員教授。内閣官房「働き方改革実現会議」有識者議員。東京生まれ、慶応義塾大学卒。著書に「婚活時代」(山田昌弘共著)、「妊活バイブル」(講談社新書)、「産むと働くの教科書」(講談社)など。「仕事、出産、結婚、学生のためのライフプラン講座」を大学等で行っている。7月16日に「御社の働き方改革、ここが間違ってます!残業削減で伸びるすごい会社」(PHP新書)が発売。

(ライター 森脇早絵)