動画配信を大画面で 30型超えディスプレーが人気
パソコン用の液晶ディスプレーが堅調に売れている。21.5~24型クラスの製品が売れ筋だが、ニッチな存在と思われていた30型オーバーの大型モデルが指名買いされることが増えているという。低価格化が進み、良質な製品が手ごろな価格で入手できるようになったこともあるが、パソコンとの接続が目的ではない新たな使われ方が需要を押し上げていた。
31.5型の大きなフルHDモデルが意外に売れている
液晶ディスプレーの価格はすっかり手ごろになった。売り場を歩くと、フルHD表示に対応した売れ筋の21.5~24型モデルは1万円台で買えるものが多数並んでいる。ひと昔前は「低価格モデル=表示品質に妥協が必要」というイメージがあったが、現在はそういうことはほぼなくなった。以前は高価格帯の製品にしか搭載されなかったIPS方式の液晶パネルが、低価格品にも波及したことが大きな理由だ。
液晶ディスプレーの品ぞろえに力を入れているパソコン工房 秋葉原BUYMORE店では、マウスコンピューター(iiyama)の「ProLite X3291HS」(2万9999円)が同店ではトップクラスの売れ筋となっていた。31.5型の大画面タイプで、従来のIPS方式よりも色再現性を高めたAH-IPS方式パネルを採用した高性能モデル。ほぼ真横からでも色が反転せずに表示内容がしっかり見え、色の再現性も優れる。応答速度も5ms(GtoG)と高速で、動画の再生も残像が気にならない。
同等サイズでは、LGエレクトロニクス・ジャパンの「32MP58HQ-W」(2万7980円)や、フィリップスの「323E7QDAB/11」(2万3750円)など、2万円台で買える31.5型モデルがいくつか並んでいた。
これらの製品の特徴は、31.5型の大画面ながら解像度がフルHD(1920×1080ドット)であること。このクラスの大型モデルは、WQHD(2560×1440ドット)や4K(3840×2160ドット)などの高精細表示に対応した製品が中心なので、解像度的に物足りないようにも感じる。
だが、高精細モデルは価格が一気に高くなる。同じiiyama製品でも、WQHD表示に対応した「ProLite B2783QSU-B1」はひとまわり小さい27型ながら4万円を超える。LGエレクトロニクス・ジャパンの4K対応の27型モデル「27UD58-B」は4万円台半ばで推移する。「これだけ大型なのに2万円台で買えるなら、フルHDでも構わない」と評価されているのだ。
価格は関係なく、あえて大型のフルHDモデルを選ぶ動きもあるそう。同店の猪狩秀司氏は「パソコンを接続して使いたいと考えるシニア層が購入するケースが増えた。老眼で視力が弱っている人にとって、31.5型のフルHD表示は文字が大きく表示できるので都合がよい。ウインドウをいくつも開いて作業するわけではないから、情報量の少ないフルHDでも問題ない」と語る。
動画配信サービスを楽しむために購入する動きも
インターネット経由で視聴できる動画配信サービスの隆盛も、格安の大型液晶ディスプレーの需要を盛り上げる一因になっているという。
動画配信サービスは、無料で視聴できるYouTubeやAbemaTV(アベマTV)、有料のNetflixやHulu、Amazonプライム・ビデオなどさまざまなサービスが存在し、若年層を中心に人気を集めている。これらのサービスは、スマホやタブレットで視聴している人がほとんどだろう。だが、いずれもフルHD画質を持っているので(一部サービスは4K画質での配信も実施)、「地上波放送を見ないので自宅にテレビはなかったが、これらの動画を大画面で楽しみたい」と考える単身者などがパソコン用の液晶ディスプレーを求める動きが出てきているのだ。
パソコン用の液晶ディスプレーではなく、素直に一般的な液晶テレビを選べばよいのでは…?と思うかもしれない。だが、液晶テレビは選択肢が限られるうえに高価なのだ。
32型の液晶テレビは、各社とも価格を重視した低価格モデルという位置づけになっている。それもあり、ソニーの「BRAVIA KJ-32W730C」などごく一部の機種を除き、パネルの解像度がフルHDではなくHD(1366×768ドット)にとどまる。しかも、KJ-32W730Cは実売価格が5万円近くするので、先に紹介したパソコン用の31.5型液晶ディスプレーの倍以上と高い。「液晶テレビではなく、フルHD表示で安いパソコン用液晶ディスプレーで十分」という流れができているのだ。
HDMI接続のセットトップボックス(STB)が充実してきたことも、液晶ディスプレーの需要を後押しする。STBをHDMI端子に接続するだけで、さまざまな動画配信サービスが利用できるだけでなく、ちょっとしたゲームも楽しめる。地上波や衛星放送を見るだけの機能しかない低価格液晶テレビを買うよりも、格段に多くの機能が利用できるのだ。アマゾンのスティック型デバイス「Fire TV Stick」のように、わずか4980円で購入でき、HDMI端子に差し込むだけで手軽に利用できる製品が出たことも、STBの人気を押し上げている。
STBを利用することで、「内蔵スピーカーの音質が悪い、内蔵スピーカーがない」という液晶ディスプレーの欠点をカバーできるメリットもある。多くのSTBはBluetooth機能を内蔵しており、手持ちのBluetoothスピーカーで音声を再生できるからだ。
(ライター 白石ひろあき)
[日経トレンディネット 2017年8月3日付の記事を再構成]
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