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カリスマの直言

相談役・顧問問題 本質は日本的社長選び(安東泰志) ニューホライズンキャピタル会長兼社長

2017/8/21

「東証が上場企業の相談役・顧問の役割を開示する制度を設けると発表した。開示を通じた企業統治の透明性向上を期待したい」

東京証券取引所は8月2日、上場企業が相談役・顧問の役割を開示する制度を設けると発表した。2018年から東証に提出する報告書で相談役・顧問の氏名や業務内容、報酬の有無などの開示を促すという。企業に株主らの説明責任を果たしてもらうためだが、なぜ今、見直す必要があるのかその背景について考えてみたい。

そもそも、相談役や顧問は会社の中でどのような役割を果たしてきたのだろうか。相談役や顧問には、外部の有識者が就任することもあるが、ほとんどのケースは社長や会長を退任した人が就く。そして大企業の場合、相談役や顧問は役員フロアの近くに部屋を持ち、秘書とハイヤーが手配されることが多い。

■不透明な相談役・顧問制度

その名前が示すように相談役や顧問は、現役の経営陣に対してアドバイスを与えるという役割を果たしている。筆者も大企業に長年勤務し、経営の中枢である企画部門に籍を置いていたが、重要案件については担当役員や経営トップのみならず、過去にその案件に関係していた相談役や顧問にも根回しをするのが当然のしきたりであった。そしてそこで有益なアドバイスを頂戴できて物事がスムーズに進められるのであれば、それは現役の経営陣にとって悪い話ではなかろう。

一方で、相談役や顧問は、大事な取引先や会社のOBとの窓口を引き受ける一方、いわゆる財界活動や、ロータリークラブのような社会奉仕的な活動に精を出すこともある。現役の社長や会長が日常業務で多忙を極める中、相談役や顧問がそうした活動を通して顧客との関係を維持したり、会社の社会的名声を高めたりしてくれるのであれば、相談役や顧問の存在意義は十分にあるのではないかとも考えられる。

経済産業省が3月にまとめた「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」において、「相談役・顧問が一律に良い・悪いというものではない」とされているのはそういう背景だろう。

しかしながら、年功序列色が濃い日本の会社では部長、取締役、社長は年次順に決まる場合が多い。相談役や顧問もほとんどのケースでは社長を務めた後に、半ば自動的にポストに就く。従って、現役の社長や会長の先輩ということになるし、そういう日本企業のカルチャーでは相談役や顧問は、現役の社長や会長をその地位に引き上げてくれた「恩人」である。

その社内論理は永遠に継続する傾向がある。現役の社長や会長が、相談役や顧問がいうことに対して逆らうのは極めて困難であるといわざるを得ない。日本企業では約6割に相談役・顧問がいるが、その制度は会社法に規定がない。海外にはない制度でもあり、投資家は不透明さを感じていた。会計不祥事の東芝のように相談役らが経営に影響を及ぼしていた例もある。

■取締役・社長は株主の代理人

取締役、特に社長はそもそも自らが「株主の代理人」であることを忘れてはならない。15年6月に東証から公表された「コーポレートガバナンス・コード」の「基本原則4」では、取締役会の責務について以下の通り規定している。

「上場会社の取締役会は、株主に対する受託者責任・説明責任を踏まえ、会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を促し、収益力・資本効率等の改善を図るべく…(中略)…役割・責務を適切に果たすべきである」

すなわち、会社の取締役・社長は何よりも株主の利益を守る責務を負っているのである。相談役や顧問の意見が優先される社内論理によってそれがゆがめられるとしたら、弊害は到底無視し得ないものである。

会社の経営陣は相談役や顧問の方を向いて仕事をするのではなく、株主と、利害関係者(ステークホルダー)の利益を考えるべきなのだ。最近もメガバンクの頭取が突然退任した背景に、顧問との確執があったというような報道があったが、事実だとしたら本来あってはならない。

東証は今回、開示を企業の判断に任せた。非開示でも罰則などはないが、その場合は投資家から改めて開示しない理由の説明を求められそうだ。開示を通じた企業統治の透明性向上を期待したい。

■問題の本質は社長選任プロセス

企業の中で出世し、社長になった人であっても、肩書が外れればただの人である。しかし、企業価値の向上に貢献できる能力本位で出世してきた有能な人物であれば、大企業の肩書が外れても自ら新しい道を切り開いていけるはずだ。人格者なら肩書きなどなくても地域の中で多様な人たちと交流を深め、社会に貢献していける。

ところが、肩書がなくなった途端にそれができなくなるような人物なのであれば、そもそも社長選任の仕組みが株主本位・人物本位になっていなかった証拠ではないか。能力本位で出世した人物なら、相談役や顧問のいいなりになることなどないであろう。すなわち、この問題の本質は日本的経営の社長選任プロセスにあるといっても過言ではない。そこにメスを入れることこそ、日本企業の価値向上と経済活性化の鍵であると筆者は考えている。

安東泰志
1981年に三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行、88年より、東京三菱銀行ロンドン支店にて、非日系企業ファイナンス担当ヘッド。2002年フェニックス・キャピタル(現ニューホライズンキャピタル)を創業。三菱自動車など約90社の再生案件を手掛ける。東京大学経済学部卒業、シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。

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