今月のお題は「人生100年時代」です。ベストセラー「LIFE SHIFT」や千葉商科大学教授・日本FP協会専務理事の伊藤宏一先生が提唱する「ライフプラン3.0」をヒントに、来るべき人生100年時代をマネーハックしています。今週考えてみたいのは「現役時代のお金のテーマ」です。
■所有が豊かさになる時代の終わり
人生100年時代はまず、消費のあり方が変化していくことになります。すなわち、消費と所有を豊かさに置き換えてきた時代が終わりそうだということです。
バブルが終わるまで、私たちは消費と所有こそが豊かさの象徴だと考えてきました。たくさんのお金をかけて買い物をし、そのためには広い部屋も必要になりました。そもそも家を買うということも所有の一つです。
しかし、人生100年時代においては、所有するものが陳腐化する問題は避けて通れません。また、ほとんど時間をかけられないものを無理をして所有、維持する価値は下がっていくことでしょう。
シェアリングエコノミーといわれるようなアプローチはどんどん普及していくことでしょう。例えば、カーシェアリングのように、週に数時間しか乗らない車をひとりひとりが所有する必要はなく、必要に応じて同じ車を複数人が使えばいいわけです。マイカーを所有、駐車場代を負担、ガソリン代や車検代を払うより、低コストで実質的な利便性は高まります。
おそらく団塊ジュニア世代までが所有に価値を見いだす最後の世代になるのではないかと思います。むしろ所有から離れることがマネープランの課題になるのかもしれません。
■持ち家はメンテナンスで悩み
従って、人生100年時代は家を買わない人が増えそうですが、注意してほしい点もあります。賃貸物件で老後に家賃を払い続けることは金銭面でリスク要因になるからです。「生涯賃貸派」は現役時代からお金をためて、老後の家賃支払い資金を確保する必要があります。
それでも、実際にうまくいくとは限りません。なぜなら、老後の家賃支払いがいくらになるかは誰にもわからないからです。
「老後は20年かも30年かもしれません。家賃が月8万円なら20年で1920万円、30年で2880万円必要です。もっと長生きしたらもっとかかります。さて老後に家賃分をいくら確保してリタイアしますか」と聞かれれば、どんな人でも困ることでしょう。生涯賃貸派はそういう決断をしていることになります。
老後の家賃支払いのリスクが嫌なら、持ち家にするのも一つの考え方です。しかしながら、30年超の老後を考えたとき、持ち家は維持できるのか、という問題があります。40歳前後に買った家を100歳まで維持すれば60年のすみかです。あまりにも長すぎる人生は、家購入のタイミングでまず悩み、家をどうメンテナンスして住み続けるかでも悩むことになるでしょう。
あえてメリットを考えれば、住宅ローンを長期設定しやすいことがあげられます。しかし、人口減少社会においては長期的に家の価値は下がるでしょうから、地価の下落に見舞われて早期に組んだローンが「高い買い物」になるリスクも残ります。
人生100年時代の家問題は、長い時間で変化する不動産の価値と、「住むコスト」をどうやりくりしていくか、という難問を私たちに突きつけることになりそうです。
■体験と感動に価値を見いだす
ところで、人生100年時代は「体験」と「感動」に価値が見いだされるのではないかと思います。ネットで映画や音楽が無料で見られるようになりましたが、力のあるアーチストはCDが売れなくてもライブを通じて大きな収益を確保しています。これは「体験」や「感動」にお金が払われる一例ではないでしょうか。
子どもを牧場に連れて行き、本物の牛を見せ搾乳体験をするように、「体験」「感動」にお金を使うことが意味を持ってくるでしょう。
お金の使われ方を道徳的・倫理的に選択していくエシカル消費の考え方も市民権を得ていくことになるでしょう。使われたお金の「満足」はモノの質まで影響してくる時代になるというわけです。
人生100年時代は趣味も重要になります。また人付き合いなどのコミュニケーションも欠かせなくなります。本連載も先月は趣味の話題を取り上げましたが、実は趣味こそ「感動」や「満足」を得るためにお金をかける、新しい時代のお金の使い方かもしれません。
■教育費は高額化の可能性も
100年人生時代には多くのものごとが変化しますが、あまり変化しないものもあります。子育てについては両方ありうるテーマです。
長寿化は子との関係が長期化するということでもあります。現役時代に親の葬式をあげることは今やむしろ珍しい時代になりました。子が70歳になったころ、親の葬式の喪主となることがこれから当たり前になっていきます。
これは親にしてみると、孫と関わることができる時間が長くなるということでもあります。現在でもすでに、65歳のときに誕生した孫の成人式まで見届けられる時代ですが、それ以上に長く孫との時間をつくれるかもしれません。せっかくの長い時間、経済力もあるのですから、プレゼントをしたり、子育てを手伝ったりしながら、子や孫と親密な関係を築いてください。
一方で変わらないものもあります。子育てをスタートさせる年齢には一定の限界があること、子育てにお金がかかるということ、そして子育てに時間がかかる、という単純な事実です。
不妊治療の技術が進展することは確実ですが、50歳代での子育て開始が女性にとって難しいことは変わらないでしょう。子育て開始については人生100年時代といっても何十年も遅らせることはできません。
そして子育てにかかるマネープランの問題も長寿化で解消されるわけではありません。子どもを育て上げる、ということはお金をどう確保するかという問題として永遠に存在し続けるでしょう。
子どもが22歳まで養われる存在である、という時間軸も大きくは変化しないことと思われます。22年というのはスムーズに大卒で社会人になった場合の例ですが、教育プログラムの革新により学習期間が短くなることはあっても、数年程度の短縮でしょう。むしろ学ぶ時間を数年延ばして、長い社会人人生に備える人が増えるかもしれません。教育費の総額は高額化するかもしれません。
いずれにせよ、二十数年かけて子育てをする、という親の責任はこれからも変わらないことでしょう。親であることはつらいこともありますが、子育てを楽しめるよう工夫していくことが必要になりそうです。
