相続・税金

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大物作家の相続は大変 相続税・所得税で二重課税? 税理士 内藤 克

2017/8/11

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 世間はちょうど夏休みシーズンですね。しかも今日は国民の祝日の「山の日」。そこで今回はいつもと少し雰囲気を変えて、カラオケ屋さんから始めてみましょう。

私「チャイナタウン~この街をゆーけば~♪」「時間よ~とまれ~♪」
職員「所長、カラオケではいつもエーちゃんですね」
私「ファンクラブ歴30年だからな。だけど最近これらの曲の作詞をした山川啓介さんが亡くなって、残念な気持ちでいっぱいなんだ」
職員「そういえば昭和のヒットメーカー、平尾昌晃さんも亡くなりましたね」
私「偉大な作曲家だったね。ただ日本では個人の著作権は死後50年(映画の著作物は70年)保護されるらしいから、その間私がカラオケで歌えば相続人にその分印税が入ってくるんだよ。まあ、印税にももちろん所得税はかかるけどね」
職員「でもその印税を受け取る権利(著作権)にも相続税はかかるんですよね?」
私「そう」
職員「てことは著作権に対して相続税がかかり、さらに印税を受け取った際に所得税がかかるということですか?」
私「そうだよ」
職員「……それって二重課税じゃないんですか?」

 皆さんもよくご存じの通り「印税」とは税金のことではなく、著作権使用料のことをいいます(字面のよく似た印紙税はれっきとした国税で、全くの別物です)。一般に「印税ががっぽり入った」といえば、レコード会社や出版社から著作権使用料を多く受け取ったという意味です。

 通常、著作者とレコード会社や出版社は著作権使用料についての契約を交わしており、例えば本が1冊売れたら価格の10%とか、CDが1枚売れたら価格の5%といった額が支払われることになっています。このパーセンテージは著作者と版元との力関係や経済状況、会社によって異なっていて、ある出版社に勤める知人によれば「出版不況の昨今、ビジネス書の印税は5%から始まる人もいる。少し売れたら7%といった感じで、10%契約の著者は一部のビッグネームに限られる」とのことでした。1200円のソフトカバーの本で印税が仮に5%なら、初版5000部という昨今では多めの部数を刷っても収入は30万円。「夢の印税生活」とはほど遠い、割と厳しい数字です。

 一方、報道によると平尾昌晃さんの推定年間印税収入は1億8000万円ということでした。書籍と音楽の違いもありますし、生涯に何千もの曲を書かれたので額が大きいのは当然ですが、平尾さんのような大物になればパーセンテージ自体も高かったのでしょう。

■印税と著作権の税制上の扱いは

 さてサラリーマンが本業以外の原稿料や印税を受け取った時は、「雑所得」として必要経費を控除したうえで確定申告をしますが、一定の要件のもとで年間の雑所得が20万円未満の場合は申告不要となっています。プロの作詞家・作曲家の場合は規模的に「事業所得」として申告しますが、基本になる計算式は同じです。ただ音楽の場合は作品によって当たりはずれが大きいため、過去の所得平均を大きく超えたときに使える「平均課税」によって有利に計算することもできます。

 また著作権を相続した場合には、将来にわたって印税を受け取る権利である「著作権」を財産評価して、相続財産として課税されることになります。当然、民法上の相続財産でもあるため「遺産分割協議書」の対象となり、相続人への名義変更(権利者変更)も行われることになります。

 そうなると、評価額が実際にはどの程度の額になるのかが気になるところですが、国税庁の「相続税財産評価に関する基本通達」によると、計算式は

 過去3年の平均印税収入の額×0.5×評価倍率(基準年利率による複利年金現価率)

となっており、評価倍率はその作品の予想収入期間をもとに個別に計算することになります。仮に1億8000万円の印税が向こう10年間続くと仮定した場合、評価額は約6.8億円、といったところでしょうか。

■学者間でも意見が分かれる二重課税

 問題は冒頭の会話のように、こういう場合は二重課税に当たるのかどうかです。印税収入を受け取る権利に対して相続税が課税され、さらにその権利から生じた収益に対しても所得税が課税されるので、二重課税とも考えられますが、実はこのようなケースは他にもたくさんあります。

・「土地」を相続して相続税が課税され、一度時価課税されているのにその後売却したら所得税の対象となる。

・年金形式で受け取る生命保険金について、相続時には「定期金に関する権利」として相続税が課税されているのに、年金を受け取るつど所得税の対象となる。(これに関しては最高裁で『二重課税だ』として課税を取り消された例がある)

・定期預金については、相続時点で解約した場合の利息(既経過利息)を含めた金額で相続税が課税されているのに、利息を受け取った段階で所得税の対象となる。

 実はこの「二重課税かどうか」の議論は解釈が難しく、学者の間でも見解が分かれるところなのですが、現行の税法ではこのように定められている以上、自分の解釈で無申告とするわけにはいかないのです。ただし上述のように裁判で課税が取り消された例もありますので、悩んだら専門家に相談してみましょう。

内藤克
 税理士法人アーク&パートナーズ 代表・税理士。1962年生まれ、新潟県長岡市出身。97年に銀座で税理士・司法書士・社会保険労務士による共同事務所を開業。2010年に税理士法人アーク&パートナーズを設立。弁護士ら専門家と同族会社の事業承継を中心にコンサルティングを行っている。日本とハワイの税法に精通し、ハワイ税務のコンサルティングも行う。趣味はロックギター演奏。

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