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實川風、ショパン名曲集に新風 本来の個性呼び覚ます

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NIKKEI STYLE

ピアニストの實川風(じつかわ・かおる)さん(27)が7月、フレデリック・ショパン(1810~49年)の名曲ばかりを集めた2枚目のCDアルバムを出した。数々の名演と名盤が存在するショパンの人気曲をあえて取り上げ、いかに新風を吹き込んだのか。国際コンクール入賞を重ねて注目度が高い日本の「ピアノの貴公子」に聞いた。

風薫るショパンだ。7月19日に出したCD「實川風/プレイズ・ショパン~ショパン名曲集」(企画制作:ソニー・ミュージックダイレクト、発売:ミューズエンターテインメント)には、多くの人がどこかで聴いたことがあるはずのショパンの有名ピアノ曲を11曲収めている。愛称の付いた曲だけを取り上げても「雨だれ」「小犬のワルツ」「革命のエチュード」「英雄ポロネーズ」と並ぶ。

聴き慣れた名曲が新鮮味を取り戻す正統派の演奏

ショパン名曲集のCDは数え切れないほど存在する。ルービンシュタインやホロヴィッツ、フランソワら歴史に名を刻んだ巨匠の名盤も数知れない。ただでさえ新鮮味を出すのは至難の業だ。それでも現代日本の若手ピアニストによるショパン名曲集を今聴く意味はある。一聴では分からない。何度か聴くうちに不思議と新鮮さが浮かび上がってくる。風薫る初夏に、見慣れた田園風景が輝きを増して鮮やかに広がっていくかのように。

實川さんの演奏に奇抜さはない。どこまでも常識的な範囲内でのショパンに思える。これが一聴して平凡なショパン名曲集と勘違いしてしまいがちな理由だ。しかしそれは「正統派」の演奏と呼ぶべきだろう。1曲ごと深い探究を重ねた結果、落ち着くところに落ち着いたといった響きだ。「現代作曲家の作品を弾くのも大好き」と話す實川さんは、19世紀のショパンの作品にも、初めて接した現代音楽のように向き合い、曲の本質に迫り、原初のエネルギーを取り出す。その結果、聴き慣れた名曲がこれまでの通念から解き放たれ、本来の個性を取り戻しつつ、初めて聴いたかのような新鮮な感情を呼び起こす仕掛けを生み出している。理知的でオーソドックスなアプローチでありながらライブ感があり、現代に生きるショパンの音楽を体現している。

1989年千葉県生まれで、東京芸術大学付属高校から東京芸大音楽学部に進学し首席で卒業。同大学院修士課程を修了した。一貫して日本国内で学んだ純国産派だ。山田千代子、御木本澄子、多美智子、江口玲の各氏にピアノを師事したほか、「ビジュアル音楽堂」で取り上げたこともある小倉貴久子氏に、モーツァルトやショパンが生きた18~19世紀初めの鍵盤楽器「フォルテピアノ」を学んでもいる。日本で考え得る限りのピアノを学んだ後、欧州へと腕試しに向かった。

2015年10月、ショパンの命日の前日、フランス中部ノアンでの「ショパン・ナイト」に出演して欧州デビューを果たした。ノアンは作家ジョルジュ・サンドの別荘があった場所で、ショパンはそこでサンドと一緒に暮らし、多くの曲を書いた。「ショパン・ナイト」の直後にパリで開かれた難関のロン=ティボー・クレスパン国際コンクールで實川さんは1位なしの第3位を受賞し、世界的に一躍注目を集めた。翌16年12月にイタリアで開催された第7回カラーリオ国際ピアノコンクールでは優勝し、揺るぎない実力を証明した。現在はオーストリアのグラーツ国立芸術大学ポストグラデュエート課程に留学中だ。

聞き流してもじっくり聴いてもいいショパン

ロン=ティボー入賞記念アルバムとして、同コンクールで弾いた曲をセッション録音したのが、16年3月に出したデビューCD「實川風/ザ・デビュー」(同)だ。ショパンのほか、ベートーベン、シューマン、チャイコフスキーらの作品を収めている。ベートーベンの「ピアノソナタ第21番ハ長調作品53『ワルトシュタイン』」を収録するなど「かなり重い内容だった」と實川さんは話す。そこで2枚目のCDは「さらっと聞き流してもいいし、じっくり聴けば演奏家の伝えたいものも詰まっていてしっかり伝わる。そんな両面を持つ内容にしようと考えた」と言う。

「僕自身、オーディオ装置に向かってしっかりCDを聴くこともあるが、けっこう聞き流していることが多い。ショパンやモーツァルトのピアノ曲は中身が濃いが、何かほかのことをしている時に聞こえてきても、自然に体に入ってくるところがすごい」と指摘し、音楽のそんな自然な浸透力を生かしたショパン演奏を心掛けたようだ。選曲でも「名曲と呼ばれる作品をたくさん入れたが、逆に安易に弾くことができない曲ばかり。名曲であればあるほど名演もたくさんあり、名ピアニストの名盤が数多く残されている。あえて名曲を選ぶのは大変勇気の要る決断だった」と話す。

ショパンほど世界中いたるところで聴かれるクラシック音楽はない。作品のほとんどは1曲ないし1楽章が数分程度のピアノ独奏曲だ。夏休みシーズンに入り、国内外を旅行する人も多いと思うが、パリのカフェ、銀座のレストラン、ワルシャワの空港、リスボンのホテルなど世界の様々な場所で、風のようにいつの間にか体に触れてくるのがショパンのピアノ曲だ。それはクラシックの硬いイメージよりもサロンやラウンジの音楽に近い。フランス人の父とポーランド人の母のもとにポーランドで生まれ、フランスで死んだショパン。生い立ちも性格も複雑ならば、その作品も哀愁や感傷の見かけ以上に一筋縄ではいかない。

「ショパンは僕が今まで最も多くの作品を弾いてきた作曲家。でも常にどこか弾くのが難しく、しっくりいかない思いを抱えてきた」と實川さんは話す。アプローチが難しいのは、ショパンという作曲家が「多面的であり、知れば知るほど複雑な面が分かってきたからだ」と言う。大好きな作曲家なのに「2~3年くらい前までは、弾いていて快適ではなかった。ショパンの曲の世界と自分が一体化するのに距離を感じた時期があった」。

戦闘的なナショナリズムと個人的な繊細さが同居

實川さんが多面的と指摘するのは、ショパンが持つ相反する要素だ。フランスに移住したショパンは「花束の中に大砲が隠されている」といわれるほどに故国ポーランドへの愛国心が強かった。「すごく戦闘的なナショナリストの面、雄々しい面がある」。だが一方で「それと同じくらい女性的で繊細な面もある」。さらには「大衆にアピールする面がある一方で、人に聴かせるのではなく自分のために、日記のように作曲した個人的な曲もある」。こうした多面性がピアノ曲に反映している。「人間性も複雑で、好意を寄せる女性にもダイレクトに気持ちをぶつけられなかったのではないか。つかみたくてもつかめないところがあり、そこがショパンの魅力でもある」

弾くのが苦痛だったショパンの作品だが、「最近は自然に寄り添う気持ちで弾ける時も出てきた。すごく憧れを持ってきた作曲家なので、2枚目のCDは挑戦の意味も込めてオールショパンにした。これからずっと弾いていきたいと思える作曲家だ」。心境の変化はなぜ生じたのか。ショパンを弾く個人的な楽しみを取り戻したということのようだ。

「ショパンの曲は、ひとりで練習として弾いていると、とてもいい気分になる。実際、大勢のお客さんを前にしてのコンサートでは、ショパンを満足のいく形で弾けたためしがない」。多分に謙遜もある発言ながら、彼の実感だ。「コンサートでは人前で自分をかっこよく見せたいというエゴイズムがどうしても出てしまう」。そうなると、複雑でつかみどころがないショパンの繊細な音楽はすぐに演奏家から離れていってしまう。「ショパンから拒絶されてしまう気がして、ステージ上で居心地が悪くなった」と話す。

CDのレコーディングでは大勢のお客さんはいない。録音マイクがあるだけだ。個人練習のような孤独で自由な心境でショパンの作品に寄り添えたことは想像できる。CD1曲目の「前奏曲第15番変ニ長調作品28-15『雨だれ』」では、霧雨のような淡く白い世界へと非常に弱い音で踏み込んでいく。「ポロネーズ第6番変イ長調作品53『英雄』」や「練習曲第12番ハ短調作品10-12『革命』」のような押し出しの強い曲でも、大衆に大声で訴えかけるそぶりは見せない。全体を通して、弱い音で自分にだけ聴かせるように、繊細に、清澄に鳴らす音色が好感を持てるアルバムだ。「ショパンをコンサートで派手に弾かれても何か違うなと思ってしまう」と語るピアニストだけに、CDではデリケートな表現が光る。

水と油のショパンとベートーベンを愛奏し続ける

實川さんのレパートリーの柱はショパンとベートーベンの作品だ。得意のベートーベンについての演奏法と比べると、彼のショパンへのアプローチが一段と浮き彫りになる。「ベートーベンは自分のエネルギーを外にぶつけて生きた人。『第九(交響曲第9番)』に代表されるように、大勢の人々に訴えかける音楽であり、大統領の演説みたいに、大衆に向けて自分を発信したい音楽だ」と指摘する。その上で「ベートーベンの作品は弾いていて共感しやすい。自分も一緒に生命力をもらえる音楽なので近づきやすい」と話す。

一方のショパンについては「自分のことを大勢の人に分かってもらわなくても構わないという作曲家。他人が自分についてそう簡単に理解できるはずがないとも思っていて、気位が高い」と説明する。「ベートーベンとショパンの両方を得意にするピアニストは少ない。2人の作曲家に共通項はほぼない。水と油」。それでもなぜショパンを弾くのかというと、「憧れ」なのだという。「とても近づきがたいが、いつか近づきたいという思い」が演奏の原動力になっている。

實川さんは8月20日に京都市の青山音楽記念館バロックザールですべてベートーベン作品のリサイタルを開く。さらに8月26日には東京・銀座のヤマハホールで「實川風ピアノ・リサイタル ザ・コントラスト~ベートーヴェンとショパンの色彩」と名付けた公演を催す。正反対の作曲家2人の作品をあえて一度に取り上げる演奏会だ。「リサイタルでその2人を並べるケースは少ない」と言いながらも、「僕の現状をお聴かせしたい」と意気込む。實川さん自身のまれな多面性も試される公演になりそうだ。

今回の映像では、留学先オーストリアの世界的ピアノメーカーの日本拠点ベーゼンドルファー・ジャパン(東京・中野)において、CDにも収録したショパンの「スケルツォ第2番変ロ短調作品31」を練習する様子を映している。劇的な盛り上がりと甘美なメロディーが魅力を放つ傑作。「ショパンのいいとこ取りをしたような作品。音によるドラマに盛り込まれた内容が豊かで、感情の起伏も大きい」と彼は解説する。無音の休止の箇所を長く取るなど彼独自の特徴もあるが、全体に奇をてらわない普段着のショパンであり、その自然体から曲の本質があぶり出される演奏だ。

「イケメン」「貴公子」ともてはやされがちな面もある。「ピアニストとしてはまだ若いかもしれないが、自分ではもう若いとは思っていない。(年齢制限のある)国際コンクールに挑戦できるのもあとわずかな期間と自覚している」。2018年には浜松国際ピアノコンクールや英国のリーズ国際ピアノコンクールがある。どこに出場するか「今いろいろと考えている最中だ」と言う。これまで獲得してきた領土を地道に耕していけば、大輪が咲く可能性も大きい。一時の人気や流行にとらわれない正統派の土地にしっかり立っている強みがあるからだ。地平線まで続く草原に爽やかな風が吹く。

(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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