ワークス創業以来の危機 上場廃止を選ばせた「初心」ワークスアプリケーションズの牧野CEO

創業後、最大の危機だと思いました。買われてしまえば、自分たちがしてきたことの価値がなくなるかもしれないのです。こうなったら、自分たちでMBO(経営陣が参加する買収)に踏み切るしかないと思いました。

創業以来の危機 最高の「やめどき」でもあった

目的がお金もうけなら、会社を売ってやめていたでしょう。一生遊んで暮らせるほどのお金が手に入る最高のタイミングでした。でもそうはしませんでした。私だけでなく石川(芳郎・最高技術責任者=CTO)、阿部(孝司・最高執行責任者=COO)も「まだ、会社をつくった本来の目的を果たしていない」という気持ちでした。

MBOにはもう一つ、大きな理由がありました。それは当時の製品が抱えていた課題です。海外の競合相手は「ERPはもはやコモディティー化した」と宣言し、機能の強化をやめていました。日本でのシェアがトップになった我々も、小さな改善は進めていましたが、イノベーションが起きていない状況が続いていました。成長率の鈍化も、ここに根本的な理由があります。

スマートフォン(スマホ)のアプリなどと違い、仕事で使うERPソフトの場合、使い勝手が悪くても顧客は「我慢」してくれます。そのため、製品の進化が鈍いのです。しかし、私たちの目的は、企業の煩雑な業務の負担を軽くして生産性を上げ、イノベーションをもたらす仕事にできる限り集中してもらうことでした。我慢させてはいけないんです。

そのためには今までの延長でなく、全く新しい製品をつくる必要がありました。そしてそれには多くの開発費がかかることもわかっていました。費用がかさんで赤字になれば、株価が暴落してしまうかもしれません。それならMBOという道もあると考えたのです。

MBOが生んだ「HUE」

こうして生まれたのが、世界で初めて人工知能(AI)を搭載したERPの「HUE(ヒュー)」でした。これを開発しようと思わなければ、上場を続けていたかもしれません。研究開発費を抑えながら地道に機能を強化し続けていけば、利益はもう少し増やせたでしょう。しかし、それでは会社をつくった意味がないと思ったのです。利益ではなく、新たなイノベーションを起こせる道を選んだのです。

牧野正幸
建設会社などを経て1996年にワークスアプリケーションズを設立。2017年2月まで、中央教育審議会委員も務めた。兵庫県出身。54歳。

(松本千恵)

今こそ始める学び特集
ブックコーナー ビジネス書などの書評はこちら
注目記事
今こそ始める学び特集
ブックコーナー ビジネス書などの書評はこちら