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獣医学部新設問題に思う 獣医師は足りているのか?

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NIKKEI STYLE

7月1日が旭山動物園50回目の開園記念日でした。忙しさにかまけて原稿を書くのが延び延びとなり、気づけば8月になっていました。申し訳ありません……。

さて近年、多くの学校が「命の大切さ」を伝えたいと動物園を訪れます。「ペットの殺処分ゼロを目指して」との活動やポスターを目にすることも増えました。「また尊い命が」といった切り口で、ペットの過密飼育や虐待を扱ったニュースも目にします。とにかく殺さないことが基本で、死を否定的にとらえることになります。

一方、野生動物の問題ではイノシシやシカなどをいかにして効率よく駆除、つまり殺処分するかについての特集番組やニュースを目にします。子どもを産むメスをいかにして効率的に駆除するか……。

このようなニュースを子どもが見てどのように感じ育つのだろう? ふと心配になります。人にとって大切な生きものの命は徹底的に大切にする。人にとって問題となる野生動物(外来種も含む)は効率よく処分する。大切なものは守り、不都合なものはいなくなってもいい。そんなメッセージになりかねません。人同士の戦争のニュースや、身近で起きている殺人や自殺の問題など、様々な情報に無垢(むく)なままさらされて育つこと、教育の中で学ぶ命の大切さと現実の中での命の扱われ方、報道のされ方の違い……。

あるいはペット(一般的な言い方を使います)の飼い方。動物愛護センターなどでは盛んに不幸な命を生まないため、幸せな一生を送らせるためにと避妊、去勢を推奨しています。命とは生まれ、死ぬものです。だから命をつなぎます。今この瞬間に生きている命は、何千万年も1度も途切れなかったから今、生きているのです。

飼い主(消費者)に渡ったイヌ、ネコは避妊去勢され、伴侶とはいいますが、極端な言い方をすれば「利用して使い捨て」との見方もできます。なぜこんな言い方をするかというと、飼育動物を繁殖もさせずに展示し、死んだら購入し続けてきた動物園の歴史への反省があります。

誰かが繁殖をさせ(生産者)、消費者に買ってもらえるよう一定の品質(性格や見た目など)を維持した個体を流通させないといけないため、淘汰は必ず必要になります。ペット産業は経済です。もっとも、ペットブームの中でとにかく大量生産をしようと極端な近親交配が進んでしまい、その命にとっても購入した飼い主さんにとっても、大きな苦しみや負担を背負う問題も生じていますが。いずれにせよペットも、人の都合でつくり出した生きものです。ウシやブタ、ウマなどの家畜と、イヌやイエネコなど現代では愛玩動物となった種の間に線を引き、命の扱い方を都合よく解釈しているのは人です。

「命は大切」は当たり前ですが、その死を大切にすることはもっと大切だと思います。なぜなら、命は必ず死ぬからです。死に蓋をして、生きていることだけ見続けても、大切さは見えてきません。ところが近年、獣医大学でも解剖実習などの際、学生に生物の安楽死をさせず、安楽死したものを教員が学生に提供するようになりました。「治すために学んでいるのだから、殺すことはしたくない」。医学を学ぶ者は、死を客観的にとらえられなければいけません。獣医師が強制的に命を奪わなければいけない実験動物や畜産動物はもとより、街中の動物病院が扱うペットでさえ、安楽死を選択せざるを得ない場合があります。自らが動物の命を絶つことから受ける感覚や、奪った命に対する責任を考えることは、獣医学を学ぶ上で根底になければいけない、とても大切な過程だと思うのです。

 現代は「命」に対して一本筋の通った文脈がないというか、みんなが「そうだな」というベースとなる感覚や、理解がない時代になったようです。

獣医大学で思い出しましたが加計学園の話題。いろいろと議論されていますが、僕が感じた最大の違和感は、全く議論に上がってこない野生動物の獣医学についてでした。諸外国の獣医大学が教える獣医学には畜産動物、愛玩動物、野生動物の分野があります。日本の獣医学の中には、野生動物の分野がないに等しいのが現状です。人の生活が地球上のあらゆる生きものに影響を与えている中で、これは異常な状態といえます。人に依存しないで生きている野生動物の生態を理解し、医学的な視点で環境保全、生物多様性保全などを考えるベースとなる教育がないのです。将来どの分野に進むかは別としても、保全という視点で生きものをみる獣医師を育てていないのです。

日本は傷病野生鳥獣を診るという点でも、お粗末です。野生動物には飼い主がいませんから希少種は環境省、そうでない種は都道府県が窓口となって扱うのですが、直営の診療施設、保護収容施設を持っていません。さらに、土日祭日は休みです。動物園がある県や市では動物園を頼り、動物園がない地域では、愛玩動物とは全く異なる野生動物の習性を学んでいない開業獣医師(勉強されている獣医師もいますが)に頼っています。さらには高病原性鳥インフルエンザなどの対応も、実は、都道府県ごとに様々なのが実情です。もしも高病原性鳥インフルエンザに感染した鳥がペットの診療もしている開業医に持ち込まれたら、つまり人の生活圏に持ち込まれた時のリスクをどう考えているのか。とてもお粗末です。

外国では保全獣医学、環境獣医学などへと、さらに発展しています。ウイルスや細菌、寄生虫さらには野生動物種の研究者にはない医学的な視点も併せ持つ獣医師は健全な環境、人への影響または逆の影響など、地球環境の健全さを保つために大きな力を発揮するはずです。

まだまだ書きたいのですが、今すべきは全獣医大学・学部に早急に野生動物の分野を確立すること。このままでは獣医学の後進国になってしまいます。

もう1点、獣医師が不足しているように言われていますが、いま獣医師を目指している学生は環境問題に意識が高く、野生動物の分野の仕事につきたいと考えている学生も多くいます。しかし、そのような分野の仕事はほとんどありません。行政に獣医師が不足しているとされますが、財政状況が厳しいなか、雇用の優先順位は高くありません。裏返すと、社会がそこまでお金をかける必要性を認めていない面があります。欧米では野生動物に関わる獣医師は、エリートです。社会に対する発言力もあります。収入という点でも恵まれています。獣医師は欧米やアジアの多くの国で、人の医者と同じくドクターです。

最後は愚痴のようになってしまいました。命と向き合う獣医師に何を求め、獣医師が向き合う命の価値をどう捉えるのか、もう一度考えるべきではないでしょうか。

坂東元
 
1961年旭川市生まれ。酪農学園大学卒業、獣医の資格を得て86年から旭山動物園に勤務。獣医師、飼育展示係として働く。動物の生態を生き生きと見せる「行動展示」のアイデアを次々に実現し、旭山動物園を国内屈指の人気動物園に育てあげた。2009年から旭山動物園長。

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