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投資道場

「のんびりした商品」 iDeCoで初めて知る投信の性格 iDeCoで投資デビュー(5) オフィス・リベルタス 大江加代

2017/8/9

日経電子版読者に向け、iDeCoの長所や活用法を講演する筆者

 確定拠出年金(DC)の加入をきっかけに「投資信託を初めて購入した」という方が増えています。厚生労働省の資料(第13回社会保障審議会企業年金部会 資料1)によれば、7割近い加入者が「2種類以上の資産」を保有していますので、少なく見てもDC加入者の7割、実際にはもっと多い方が投信を運用方法として選んでいると思われます。

 投資信託協会が昨年末に行ったアンケート結果では、投信を保有している・保有していた(経験者)を合わせて25%でしたので、それ(世の中全体の数値)と比較すると圧倒的に高い比率です。

 個人型の確定拠出年金であるiDeCoにおいても、投信はやはり中核を成す運用手段なので、話を聞いてみると「iDeCoで初めて投信を購入した」という人は非常に多いのです。そこで今回は、私が以前、証券会社でDCの業務を担当していた頃に、投信を初めて買った加入者の方々に聞いた実際にあったエピソードを紹介します。iDeCoで投資デビューするのに戸惑わないよう、参考にしてみてください。

■1日1回しか値がつかない

 投信の価格が日々変動するということは多くの方がご存じだと思いますが、その値段が「1日に1回しかつかない」ということは意外に知られていません。投資といえばやはり株式取引のイメージが強く、マーケットが開いている間は投信の価格(基準価額)も時々刻々と動いている……というように思っている方が多いようです。

 実際には、投信の中身である株式や債券が取引されているマーケットが終了後、その投信の財産全体が時価でいくらになっているかを集計し、1万口あたりの値段を算出して、ようやくその日の価格が決まるのです。外国の株式や債券のように為替が影響するものであれば、翌日の午前10時ごろの為替レートで日本円での価値が計算され、翌日になって初めて基準価額が決定するという仕組みになっています。

 多くの投資対象に分散投資できるのが投信のいいところなのですが、同時に、それら全体の価値を把握しないと基準価額が算出できないため、その価格は1日1回しかつかないのです。実際に投信を保有している加入者の方でもこの仕組みを知らない方は多く、このことがリーマン・ショックの際に大混乱を引き起こしました。あのときは日経平均株価が1万2000円前後から1カ月ぐらいで7000円を割り込むところまで下がったわけですが、1日に1000円近く下がった日もあれば、その逆の日もある、というような荒れたマーケットが続きました。その値動きを見て、これまで機動的な売買をしてこなかった人(加入時に決めた配分で日本株投信を一定額購入し、毎月残高を積み上げるだけだった人)の中に、初めて「売買しよう」と思った人が一定数出てきたのです。

 「これ以上下がると怖いからもう売ってしまおう」と思ったAさんや、「いやいや、ここは歴史的な安値だからDCの中の定期預金をやめて、その分で投信を買いだ」と考えるBさんもその一人です。ふたりは売買の注文をしようとコールセンターに電話しました。

Aさん「私が保有している日本株式の投信を○○○○円で売ってくれ!」
オペレーター「投資信託は指し値できません」(指し値とは株のように金額を指定して売買すること)
Aさん「えっ??」

Bさん「△△という日本株投信は今いくら? DCの定期預金を売却してそのお金で△△を買いたいんだけど、いくらで買えるかな?」
オペレーター「昨日の基準価額は×××円でした。日経平均は昨日より上がっていますが、まだ取引終了していませんので、本日の基準価額は現時点ではわかりかねます。また、お客様が投資信託を買い付けるのは、定期預金を売却された後となりますので、本日ご注文を承りますと、約定日は2営業日後となります。よって、いくらでご購入いただけるかは現時点ではわかりかねます」
Bさん「えっ??」

■商品変更だけでもかなりの日数

 こんな会話があちこちで展開されました。投信とは売却の注文を出したら、その翌日に約定され、その値段は翌日の取引が終了しないとわからない、そういうのんびりした仕組みの長期投資向きの商品なのです。特にiDeCoにおける投信は、デイトレーダーのように短期売買できる商品ではありません。下の表のように、iDeCoの中で元本確保型の定期預金をやめて今後は日本株投信で運用するようにスイッチング(運用対象の変更)するだけでも、これだけの日数がかかります。

(注)預金から日本株投信に変更する場合の例。注文受け付けの締め切り時間などは契約金融機関によって異なるので、契約先の情報を確認すること

 金融機関が提供している商品ガイドや加入者向けのサイトにはこの「売買所要日数表」がありますので、まだご覧になったことがない方はこの機会に一度チェックしておいた方がいいでしょう。日々の価格変動が激しい時期には、安くなったから投信を買おうと思って注文を出したのに、実際に購入できた日はかなり値段が上がっていた……ということだって起こり得ます。「あれ? こんなはずじゃなかったのに」ということにならないよう、仕組みは事前にきちんと知っておくべきですね。

 そして、投信に限らずiDeCoの中の金融商品のことで少しでも疑問に思う点があれば、遠慮なくコールセンターへ電話しましょう。iDeCoのコールセンターのオペレーターは投資初心者の対応を長年してきていますから、モヤモヤした疑問の霧をきっと晴らしてくれます。大いに活用しましょう。

大江加代
 大手証券会社で22年間勤務し、一貫して勤労者の資産形成に携わる。確定拠出年金については法の成立前から10年以上企業型の現場で関わり、のべ25万人に対する投資教育の企画・運営にも携わった。現在はオフィス・リベルタス取締役で、NPO確定拠出年金教育協会理事として情報サイト「iDeCoナビ」も創設。http://www.dcnenkin.jp/

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