子育てと両立ならフリーランス? 会社を辞める注意点
いまさら聞けない大人のマネーレッスン
Q. 会社に勤めていますが、出産をして現在は育児休業中です。体調が優れなかったり、子どものことで気になることもあり、フリーランスで仕事をするほうが自分に合っているのでは、と考えるようになりました。フリーランスになるにあたってお金の面で考えておくことは何でしょうか。
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経済エッセイストの井戸美枝です。以前はフリーランスといえば特別な技術を持った人、たとえば小説家やスポーツ選手、デザイナーのような人が多かったように思いますが、現在はもっと広い分野でフリーランスで活躍する人が増えていますね。企業がインターネットを通じて仕事を発注し、不特定多数の個人が働く「クラウドソーシング」のウェブサイトで検索すると、一般事務の仕事もたくさんあります。
私もフリーランスで20年以上働いています。場所を選ばず仕事ができる、会社勤めよりも時間の融通が利くなどフリーランスで働くメリットはいろいろあります。
自由なイメージのあるフリーランスですが、メリットばかりではありません。税金や社会保障では会社勤めよりも厳しい点がいくつかあります。
社会保障は手薄 最低でも生活費1年分の貯金を常に用意
下の表をご覧ください。こうして比べてみると、会社員の方が保障は手厚いですね。
会社員は、公的年金(厚生年金)、健康保険、雇用保険、労災保険と4つの社会保険に加入しています。厚生年金、健康保険、雇用保険の保険料は会社との折半。労災保険だけは会社が全額負担しています。仕事中や通勤途中でのケガや病気は、会社が補障しているのですね。
それに対してフリーランスは、加入が義務付けられている国民健康保険と国民年金のみ。保険料は全額自己負担です。雇用保険、労災保険はありません。ケガで働けなくなっても、出産のために休業をしても、仕事がなくなっても(失業しても)、何の保障もありません。これらの代わりになるような民間の保険、たとえば就業不能保険に加入して、休業のリスクに備えておきたいものです。
家族構成や生活環境にもよりますが、フリーランスの方は、少なくとも生活費1年分程度の貯金は手元にあると安心です。
現在、フリーランス向けの新しい保険の創設が検討されています。失業や出産休業時の保障をするフリーランスの団体保険の創設を政府が提言しており、2018年度から民間の保険会社が販売する可能性があります(2017年7月現在)。
税金は自分で確定申告して納付
納税の方法も違います。会社員は年収ごとに最大220万円まで給与所得控除が認められています。給与所得控除とは、仕事の経費を売り上げ(給料)から差し引けるお金のこと。
給与収入(年収)-給与所得控除=給与所得
この給与所得に対して、税金がかかります。もらったお給料の全額が課税対象ではないのですね。
給与所得控除額の計算例:360万円超660万円以下の場合は、給与収入×20%+54万円
これらは会社が計算して納税しますので、自分でする必要はありません。また、給与所得控除は無条件で認められているので、実際に使っていなくてもOK。もちろん領収書も必要ありません。
一方、フリーランスには給与所得控除がありません。売り上げから経費を引いたものが事業所得となりますが、その計算は自分で行って税務署に確定申告します。1年間(1~12月)の仕事で使った経費の領収書を保管しておき、その年の売り上げと一緒に申告します。確定申告は翌年の2~3月に行います。帳簿を複式簿記で管理していると「青色申告特別控除」が利用でき、65万円が所得控除されます。
このように、会社員は勤め先が納税してくれますが、フリーランスは自分で計算して納税しなくてはなりません。
保障を補うにはiDeCoや小規模企業共済がおすすめ
もらえる年金も違います。先述しましたが、会社員は厚生年金に加入していますので、国民年金と厚生年金、さらに会社によっては企業年金が受け取れます。フリーランスは国民年金だけです。
国民年金の支給額は、満額で月額約6万5000円。これだけでは心もとないですね。そこでフリーランスは、国民年金の上乗せとして「iDeCo(個人型確定拠出年金)」に加入することをおすすめします。iDeCoの掛け金は全額が所得控除されますし、運用益は非課税、受取時にも税制優遇があります(フリーランスの掛け金の上限は年間81万6000円)。
そのほかに「小規模企業共済制度」があります。これはフリーランスや小規模な法人の役員が対象で、事業をやめたときなどの生活資金などを積み立てておくための共済制度です。掛け金は毎月1000円から7万円まで500円刻みで設定でき、掛け金は全額所得控除されます。フリーランスはこうした制度を上手に活用したいところです。
iDeCoは2017年1月から、20歳以上であれば誰でも加入できるようになりました。会社員や公務員、専業主婦の方も加入できます。もちろん上記の税制優遇措置を受けることができます(企業年金のある会社に勤めている方は、企業年金の規定によって加入できないこともあります)。
このように、フリーランスと会社員では税や社会保障の制度に大きな違いがあります。フリーランスになろうと考えている方には冷や水を浴びせることになったかもしれません。実力次第で高い所得を得られる可能性や、自分の裁量で仕事ができるという魅力もありますが、フリーランスがお金の面でシビアであることもまた確か。計画はしっかり立ててくださいね。
・フリーランスの公的な保障は少ない。万一に備えてしっかり貯金や保険加入
・フリーランスは自分で計算し納税する。 領収書をもらい忘れないように
・年金を補うためにiDeCoや小規模企業共済の活用を
ファイナンシャル・プランナー(CFP)、社会保険労務士。講演や執筆、テレビ、ラジオ出演などを通じ、生活に身近な経済問題をはじめ、年金・社会保障問題を専門とする。社会保障審議会企業年金部会委員。確定拠出年金の運用に関する専門委員会委員。経済エッセイストとして活動。近著に「知ってトクする!年金の疑問71」(集英社)「ズボラの人のための確定拠出年金入門」(プレジデント社)「定年男子定年女子」(日経BP社)など。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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